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文化祭実行委員への道  作者: 松波愛
7/11

文化祭実行委員への道 7

1月。推薦内定の結果がでた。

私はそのためのテストで失策をした。

休み明け、

始業式の終わり、教室に戻る途中、

通りすがりに、

3組の担任が私にぼそりと声を掛けた。

「藤咲、特進科、駄目だな。」

がつーんと頭を殴られた気分だった。。。


え?え??ええ???

どういうこと??

私の心はエマージェンシーを発していた。

そして…。

3組担任のクラスの男子が、私の代わりに推薦内定を受けた。

得点率で20%私より低い男子、だ。

苦い、苦い思い出だ。


私は落ち込んでいた。

真っ暗な1月の幕開けだった。

唇をかみ締めてもかみ締めても悔しさは消えない。

何のための努力だったのだろう。

何のために、学年一、努力を重ねてきたというのだ。

そのために払った代価を犠牲だとは私は思わない。

思わないが、自分の体がオンナである事がこれほど

悔しく、情けないことはなかった。

息をするのも悔しかった。

なぜ、私はオンナなんかなんだろう。

オンナなんかに生まれてきて、

私には生きる価値なんか無いじゃあないか。

なりたいと願うものに進むための

布石をどうして、性別などという、

こんな卑怯なやりくちで奪われるのだろう…。

涙がこぼれたかどうか。

覚えていない。

忘れてしまった。

でも、オンナであることが心の底から嫌だった。


私はその夏、母を亡くした。

私の志望は医師、だった。

母を亡くしたから、医師、だった。

父がそれを希望したから、医師だった。


そのために特進科は重要な足がかりになる

大切な布石だった。

その最初の一歩から

私は、けつまずいた。

15を迎えようとする、その年の新年の初め、に。


でも、文化祭実行委員のせいだとは

絶対に言いたくなかった。

きっとそれだけではないはず、なのだ。

努力不足。

そうは分かっていても悔しかった。


実は、

圭一もまた、進路変更の選択を迫られていたようだ。

同じ学校を志望する私たちは3者面談も前後した。

西校を志望していたのは、

36HRでは、圭一と私だけだった。

ちなみにオギは、東校志望で、

偏差値的に言えば、私たちの次の段階の高校の志望と言える。


塾で私たちは一緒になった。

久しぶりに話をするような気がした。

不思議なことに、私の父も彼の母も

用事があったらしく、迎えが遅れた。

西校・東校コースの連中はもう、私たち二人以外を残して

全員はけてしまった。

そういうことも、ある、のだ。


「圭一君。私、特進科ぽしゃった。」

私はぽつり、と言った。

圭一は顔を上げた。


「変えるのか?志望。」

「うん。変えざるを得ないよ。普通科に下げる。

でもね。悔しい。本居のクラスの良太、私の代わりに推薦なの。」


私は私に声を掛けた3組の担任に

「先生」とつけなかった。

つける気なんか、毛頭、無かった。


廊下で、通りすがりに、自分の担任を通して聞く前に、

断崖に落としたオトナを私は断じて許さなかった。


例え、それが教師であろうと同じことだ。

その上、彼が良太をごり押ししたようにも私には感じられた。

汚い、と思った。


圭一は、ぎょっとした目で私を見た。

彼がそんな目で私を見つめるのは

初めてのことだった。

きっと、私が、教師に「先生」とつけない場面に

初めて出会ったからだ。


そういう意味では、エロイがきんちょだったが、

どんな教師に対しても、

私は礼儀を重んじる

おぜうさま中学生だったのは確かだ。

私は唇をぎゅっとかんだ。


沈黙が続く。

圭一は口を開いた。

「藤咲と、一緒の高校。行きたかったよ。」

ぼそり、とそれだけ、圭一は言った。


私は、はっとして、顔を上げた。

私の顔を見て、彼は苦笑した。

「そんなにびっくりした顔、するなよ。」

少し少年ははにかんだ。


「誰しも、思い通りにはならない。」

彼は笑った。


「でも、その中に可能性がある。それを信じることだ。

お前が、自分の父親から言われたって、

前、教えてもらったことがある。

覚えているだろうか?」

圭一は静かに続けた。


ああ、そうだ。

あの暗い廊下で私たちは話をした。

父の知り合いで、

望みの高校に行けず、そこから起死回生を図り、

希望の大学の希望に学部に行った学生の話を。

私は、圭一を励ますつもりで話したのだ。


その言葉に、今度は私が励まされている。

目に涙がにじんだ。


私たちは同じ痛みを抱えている。

だが、しかし、ここがゴールではない。

終わりでは、ない。


あきらめるわけにはいかない。


どんなに負けそうな試合でも、

そう、圭一と私は、

最後まで、勝負を捨てることは無かった。


1年生で抜擢をされ、2・3年生に混じり、試合に出る。

最後尾を走る辛さを私たちは知っている。

だが、その中でも与えられたチャンスを生かしきることを

私たちは一度も捨てたことは無かった。


私たちがエントリーされたことで、

出られない選手が、いる。

その分まで私たちは、走るのだ、と。

無様であっても、やりきることが、

私たちが返せる、唯一の答えだった。


「圭一君。がんばろう。」

私は微笑んだ。

「私は西校の普通科。あなたは、東校。

一緒に上位で合格しようね。」


私の父が一足先に私をむかえに来た。

夜の闇に冷たい雨が降る。

私はその中に

傘を開いて、先に出た。


圭一はまだ、ほの明るい塾の

教室の投下光の下に一人居た。


彼の瞳が笑いながら、私を見送っていた。



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