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文化祭実行委員への道  作者: 松波愛
6/11

文化祭実行委員への道 6



文化祭が終わった。何といっても、

極めつけは、午後の合唱コンクール、だ。

わたし達は、「親知らず、子知らず」を歌った。

わたしのパートはソプラノ。

楽譜の読めないわたしは、

体で音を叩き込むタイプだった。

アルトなんざ。引っ張られてぜんぜん歌えない。


中間発表では、1位。

当然、わたし達は優勝する、つもり、だった。

だが、こういうのはおごるのがいけない。

結果は、3位。

中間発表、最下位だった、

4組の「木琴」の圧勝だった。


そこから4組は建て直しを図り、成功をした。

わたしのクラスの伴奏の、鶴見よしみが泣いていた。

タッチをミスしたのを彼女は、悔やんでいたのだ。

親知らず子知らずは難しい。


学級委員のかえが彼女の肩を抱いていた。

二人は親友だった。

「ななこ」

かえは私を見た。

かえの目にも涙が光っていた。

「ん?」


私は微笑んで、

かえとよしみを抱きしめた。

「ばかね。今までの日々があったでしょ。

そうやって、クラスがまとまってきたじゃあないの。

そうしてくれたのは、よしみ、あなたのピアノ、よ?

間違えるときには人間は間違えるモンなのよ。

よしみの所為じゃない。

今まで何回も練習してそれでも駄目なことがある。

よしみ、どんなに練習しても、

あの一球が入らないってこと、あったでしょ。

テニス部のあなたなら分かるはずだわ?

事故みたいなもの、よ。

でも、ありがとう。あなたが伴奏しなかったら、

だれも伴奏なんかできなかった。

私にやれなんていわないだけ、このクラス、まともだわ。

いいクラス、ね?私、6組が好き、だわ?」


私は目をくるりと回して、笑った。ちょっぴり涙がにじんだ。

努力をしてくれたよしみ、そして

その彼女を大切に思うかえの気持ちがうれしかったからだ。

かえとよしみは

涙で真っ赤になった顔でうふふ、と。笑った。


「じゃ、私、行って来る。」

私は、ステージに向かおうとした。

男子の列の方から圭一も来た。

圭一とアイコンタクト、をとる。

私たちはステージに向かった。

私の右を圭一が歩いた。

圭一の左を私が歩いた。


ステージ発表の長として、

最後の文化発表会全体の感想をいう役が

私の役目、だった。

今度の司会は掲示担当の雅子が担当することになった。

ステージ上のパイプイスに座るのは今度は圭一と私、だ。


前日、圭一も私のスピーチ原稿を見た。

一通り見た彼は笑った。

「藤咲、なげえよ。言えるのか?」

「メモ、だから。

小柱だけ、立てたのを持っていくにきまってるじゃない。

そのほうが上手くいくの。」

私は笑った。

昨日のことだ。


ステージに向かい、私の感想発表の時間が来た。

私は…原稿を捨てた。

よしみの涙が心に引っかかっていたからだ。

よしみのためのスピーチをしたい。と願った。

そして、実行委員長を全うした圭一のためにも。

きっと、その天啓は私に来る。

私は目を閉じて、深呼吸を一つし、

自分の力を信頼した。


私はステージの中央に立った。


「この文化祭は、私たち3年生にとって、

中学校生活、最後の文化祭、でした。

個人的な話をします。

お許しください。

私たちのクラス、36HRは、最優秀賞を目指して

朝も、昼も放課後も、練習を続けてきました。

この日のために、です。

一番難しい曲を私たちは選択しました。

その結果、中間発表では、1位。

私たちは最優秀賞を確信しました。

そうできる、と信じていたのです。

36HRのだれもが、です。

しかし…。

(私は間をおいた。)

どこかにおごりがあったのかもしれません。


結果は…。

そうではありませんでした。

中間発表で、最下位だった4組が

すばらしい、木琴の音を奏で最優秀賞を果たしました。

4組の皆さん、優勝、おめでとうございます。

(ななこ拍手をする。みんなも拍手をする。)

そして、同時に、12HR.25HR、のみなさん、

学年最優秀賞おめでとうございます。

(同様。)


けれども私は思うのです。

それぞれのクラス、みなさん一人一人が、

心を込めて歌を歌い、仲間が一つになる。

歌の持つ力の偉大さを。

それを知っているのと知っていないのとでは、

雲泥の差ではないか、と。


各学年7クラスある、舞浜中学校です。

最上位の喜びに浸れる幸せなクラスになれる確率は1/7.

6/7はそういう意味で敗者、です。

しかし、本当に私たちは敗者なのでしょうか?


あなたはいい加減な気持ちで、ステージに立ったでしょうか?

いいえ。違うはずです。

結果はどうあれ、誰一人として、

いい加減な気持ちでその場に立った人は

一人もいないはず。

そのことを誇りに思ってください。

そんな誇りに持てる合唱を作り上げたあなた自身は

私たち自身は。

私たち、一人一人は、

やはり勝者だと私は思うのです。


みなさん、本当にありがとう。

文化祭の成功は皆さんのおかげです。

私もそんな中学校生活最後の文化祭で、

実行委員をさせていただいたことを

何より、誇りに思います。


そして、担当の西原先生のご指導の元、

鈴木圭一実行委員長をリーダーとした

このチームを私は誇りに思います。

みなさん。鈴木圭一実行委員長、

そして、文化祭実行委員に

盛大なる拍手をお願いします。」


私はアイコンタクトで、圭一に立つことをそして、

袖に居た実行委員に前に出ることを促した。

圭一は照れながらパイプイスから立ち上がった。

実行委員は全員、ステージに上がり、

私の合図のもと、頭を下げた。

拍手はしばらく鳴り止まなかった。


舞台の袖に降りたとき、圭一は

頬を紅潮させていた。

「藤咲・・・・。」

とだけ彼は言った。

「ごめん、圭一君の役、取っちゃったね。」

私は笑った。

「違うわよ。文化祭担当教師の役目、だわ。流石、藤咲。」

西原先生が私と圭一を両脇に

いとおしそうに、ぐっと、抱えた。

「ナイス、メンバー。ナイス、チーム。」

西原先生は、笑った。先生の目にもうっすら涙がにじんでいた。


「あ。先生、4組、最優秀賞、おめでとうございます。」

抱えられた、圭一が私の隣で言った。

「あ、そう、おめでとうございます。」

私も、抱えられたまま、西原先生に言った。

ちょっと間抜けな感じだ。


でも、西原先生はその間抜けさかげんに気づかないみたいだった。

こういう西原先生はとてもかわいい女性だと思う。

あの時、西原先生は、まだ、20代だったはずだ。


「ありがと~う。あの子ら、がんばったんだ~。

私文化祭担当で何もしてやれないのにねぇ。

私は、圭一や藤咲みたいな実行委員にも恵まれて

幸せだったよ。ホント、ありがとねぇ。

さ。あとは片づけだ、がんばろうね。」


西原先生は、すん、と鼻水をすすり、からり、と笑った。

私たち二人は彼女の熱い抱擁から離された。

そういう人だから、生徒が応える。

私は西原先生の明るい笑顔を見てそう思った。


片づけを終え、文化祭は終わった。

この日以降、

圭一は私の側に自分から近づくことはなかった。

あっさりとしたものだった。


そして、私は相変わらず、オギと

でかい声であるいはこそこそ小声で、

エロイ話をして36HRの風紀を乱す

最低な休み時間を過ごす

日常へと戻っていった。



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