文化祭実行委員への道 2
よりによって、じゃんけんに負けた。
鈴木圭一か、私が、
文化祭実行委員長、に
ならなくてはならない。
あるいは、ステージ発表の長か、だ。
何がおもしろくて、
同じクラスで、
長と副に値するような役を兼ねるのだろう。
私たちは顔を見合わせて、ため息をついた。
だが、3年生、なんてそんなもんだろう。
こんなやる気のない二人、つうか
責任感だけで、やらにゃあなるまい、
などと考えている消極的な私たちより、
1組のお祭り男、垣原の方がどんなにか、
適任だろうか…。
じゃんけんをしよう、とは、
圭一は言わなかった。
「ああ、藤咲。俺がやるよ。」
彼は笑った。
「…。いいの?」
私は聞いた。
「ああ。」
「先生、委員長、やります。」
鈴木圭一は、一人で、文化祭担当の西原先生のもとへ行った。
2組のけいこがくすり、と笑う。
「ななこ、あんただから、
圭一君は委員長をやったのよ。」
「何、やっぱ、心配だってか?」
私は笑った。
鈴木圭一は私のすっとぼけさ加減を
間近でよく知っている人間の一人、
と言えば一人、だった。
同じ部活なのだから、当然と言えば、当然だ。
「ばかねぇ。んなわけないでしょ。
聞いたわよ。あんたが立候補したから、
圭一君が立候補、したって。」
けいこは笑う。
嫌なうわさが流れているものだ。
こういう時のびみょ~な距離感の
女友達の笑顔は実に、いやらしい。
どうも、いただけない。
私は嫌いだ。
私の心の中のことは、私のものだ。
誰であれ、土足で立ち入ることは許さない。
人事だと思いやがって…。
私は、顔を上げて、言った。
「あほか。圭一君は、そういう奴じゃないよ。
みんなに親切なんだ。
私、だから、じゃ、ない。
たとえ、けいこが、副か長かの
選択が迫られていたとしても、
彼は、長をとったはずだ。」
けいこはぐっと詰まった。
バカもの。学年1位の私に失礼なことを言うから、
そういう目にあうのだ。
確かに鈴木圭一はそういう男だった。
黙って、みんなが嫌がることをすっと取る男だった。
後輩の男子には、抜群の人気があった。
決して記録がよかったから、では、ない。
へんに先輩だから、と威張るそんなちゃちい男ではなかった。
準備だろうが、片づけだろうが、
1年やれぇ。とだけ言ってほっぽらかす、ようなことはしない。
黙って、一緒に器具の片づけを行う。
他の3年が動こうがうごかまいが
意に介せず、と言う感じだった。
その雰囲気に惹かれてか。
男子陸上部の片付けはとても早かった。
彼は決してでしゃばるタイプの目立つ男ではなかった。
かと言って私とよく話す、と言う訳でもない。
すっと通った鼻筋に、切れ長の目がはえる。
美形といえば、美形、だが。
真面目で、几帳面な部分があるせいか、
やや敬遠されがちな所は
なきにしもあらず、という感じだった。
第一、私が仲が良かったのは
野球部のエロイエース荻原の方であった。
私は荻原をオギと呼んでいた。
他のみんなもそうだった。
くんな。素敵な優等生君では断じてない。
二人でこそこそ。しょうもない話ばかり、
ぎゃあぎゃあ言っていて、
周りをあきれさせていた。
ヒートアップすれば、声がでかくなる。
私達の声は二人ともでかかった。
にやにや笑ってすみっこで
しょうもない単語ばかり
隠れて連発している私達は
風紀を乱し、最低だった。
この間など、オギは、私のぶらじゃーの紐を
うしろからぴぴんと引っ張って遊びやがった。
夏の体操服の上から、だ。
「オギ、おまへ。あほだな?
んなもん、ひっぱって面白いのか?」
私は後ろを振り返った。怒ったり叱ったりはしなかった。
きゃあ、Hなどと決して言わない。
言う必要などない。奴がエロイのは私が一番よく知っている。
数学の問題も解き終わって暇だったので、
別に遊んでやってもよかったからだ。
そして、私は前を向いた。
「ひっぱられるとゴムの作用で痛いだろう。藤咲。」
またしても、ぴよよよよ~ん。と奴は引っ張る。
にやにや笑っている。
胸がどうこう、というより
引っ張られた後の私の反応のほうが楽しいようだ。
こういうのは、前の方も当然、引っ張られる訳で、
締め付けられ加減が、どんなもんだろう、といった感じだ。
「痛いっつうより。私はオギの、将来が心配だよ。
ねぇ。なんかわかんないところ、あるわけ?」
オギは別に勉強ができない訳ではない。
よほどの難問でない限り
私に聞いてくることもなかった。
「終わった…。」
なるほど。暇だったんだな。
暇なオギは、怒られない事が分かったので、
ぴよん。ぴよんとわたしのぶらじゃーの紐をひっぱって遊んでいる。
どうも肩ひも辺りが引っ張りやすいようだ。
右にしたり、左にしたりして、
変化のある繰り返しを楽しんでいる。
私は、心の中で、
次は右か?ううん?左??と予想を立てながら
暇つぶしをした。
私はオギに紐を引っ張らせながら窓側を見た。
ネコを飼っている飼い主の気分だ。
前から2番目の席に鈴木圭一はいる。
「じゃあ、問2.」
数学の後藤先生が、発表者を募りはじめた。
私は手を上げた。
鈴木圭一も、手を上げた。
どうも、えろエースのオギも挙手をしたようだ。
オギは、その後、数学の時間は、もう紐を引っ張ることはなかった。