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第一章 向日葵(ひまわり)の季節 ③

 上機嫌のひなちゃんが、笑いながら僕の肩をバシバシたたき続ける。僕の魂はショックで幽体離脱寸前だ。

 

 ナニコレ。

 ボケとか失敗とかそういう次元の展開じゃないでしょコレ。

 何やってんだ僕は。死ぬ、いや死ね。そろそろマジで。

 フォローしないと、何とか誤魔化さないと。

 何とか、何とか、何とか――できないよ! どうしようもないよ、終わりだよもう!

 

 この世の終わりみたいにあわてる僕。

 それに反して、ひなちゃんの態度はあまりにもいつも通りだった。


「いやもう、センパイったらオジョーズなんだからぁ!」


 と言われつつ腕をベシベシ叩かれている。何このおばさんのお世辞合戦みたいな軽いリアクション。

 僕の絶望とは裏腹に、ひなちゃんは単純素朴に嬉しそうな笑顔を浮かべているのだ。なんでそんな単純に喜べるのさ、恥じらいとかトキメキとか無いの?

 

マジで脈なさすぎだろこれ。

 ちなみに、彼女は体操着に着替えていた。奥には同じく体操着姿の女子たちが数人。


「き、きききみたち、ラララン、ランニンぎゅ、かな?」


 色んな意味での精神的動揺をおさえきれない僕は、セリフを噛みまくる。でもひなちゃんはお構いなしにハイ! と元気よくうなずいた。


「これからスポ魂なんです。バスケの試合ちかいですから!」


 それじゃ! と手を上げて彼女はチームメイトたちのところへ駆け足で行ってしまう。何の駆け引きも感じさせない、すっごい素っ気無さで。

 僕は彼女の背中に手を振った……ような気がする。意識がぼんやりとしてしまい、はっきりとは分からない。


 僕に残されたのは虚しさだけだった。

 強烈な自己喪失感にとらわれながら僕は家路に向かう。

 もうこれ以上ここにいたくない。何も目に入れたくない。聞きたくない。


 ところが逃げる僕に向かって、さらなる追い討ちがやってきた。

 少し離れた広場でひなちゃんたち女子バスケ部が、ランニング前の準備体操をしている。 彼女たちは右に左に身体を回しながら、僕の事を話すのだ。


「ねえ、ひなって、あの人と付き合ってんの?」

「ちがうよ」


 ひなちゃん即座に全否定。


「イゴショーギ部の部長で、あたしのシショーなだけだよ」


 ひどく簡潔で、それでいてグサリと胸に突き刺さる御言葉。

 そうだね、違うよね。でもそんなにアッサリ否定しないで欲しいな……。


「でもあの人、ひなのこと好きっしょ?」


 周りの人にもバレバレだぁ。そりゃそうだよなー。

 ところが。


「えー、そんなことないよぉ」


 なぜか肝心の想い人が否定してくれます。

 話し相手も不審に思ったようで、声色が少し低くなった。


「アンタ、いくらなんでもその鈍感ぶりは芝居っしょ。あり得んよ」


 僕はつい足を止めて、ひなちゃんの返答に耳をかたむける。

 でも彼女が言いはなった言葉は、まったく思いもよらぬものだった。


「だってあたしはセンパイのタイプじゃないもん。センパイのこのみは年上だよ」


 ……ぽかんと開いてしまった口がふさがらなかった。

 言われた女子も同じ気持ちだったようで、口を開けて言葉を失っている。

 何を言い出すんだこの子は。


「あたしってさ~、よく天然ボケだとかいわれるけど、こういうカンってはずれたことないんだよね~」


 いやいやいやいや!

 北極と南極くらい反対方向だよ!

 心の中で絶叫する。面と向かって言う度胸は、ない。


 一瞬かぎりの興奮が冷めてしまうと、僕はもう真っ白に燃え尽き灰と化したような気分になってしまった。

 無理だ、この子には何も通じない。

 ゾンビのようにノタノタフラフラと歩を進め、学校の外へ向かって逃げる僕。

 後ろから「元気出してー」とか聞こえたような気がしたけれど、そんなのもうどうでもよかった。

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