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エピローグ 結末不明な僕の未来

『アッハッハッハッ!』


 スマホのスピーカーからトーマスの耳障りな笑い声が響いてくる。


『マルガレーテとかいう女将軍、うわさほどのクールビューティでは無かったようだね。そんな至近距離で君を挑発するとは! 恐ろしくって私にだって真似できやしないよ。朝っぱらから火遊びとはずいぶんお熱いレディではないかね!』


 なおも少年姿の老サイボーグは笑い続ける。


『今回のミッションは君たちのチームがMVPだ、司令官みずからノコノコ姿を現して重傷を負うとは、こういうのを日本で何と言ったかな、ああそうだ『棚からベタ餅』とかいうやつだ』

「いやベタ餅じゃなくてボタ餅です」


 このままだと雑談で時間が過ぎてしまう。

 僕は強引に話題を変えた。


「あなたは、初めから僕が特別な役割を与えられた人間だと知っていたんですか?」

「いや、そういうわけではない」


 トーマスは真面目な顔になった。


『わが師からは『ナインツの日本人が鍵だ』というメッセージしか受け取っておらん。今だって君の存在は偽物フェイクで、実は本当の作戦が進行中なのでは――などという可能性も捨ててはいないよ。そもそもわが師のプランだけが正解への道筋だとは限らないだろう』

「なるほど」


 さすが年の功、疑り深い。

 一つの作戦にすべてを賭ける、ということはしない主義なんだろう。

 常に複数の可能性を探り、どれか一つでも成功してくれればそれで良いと。

 ずるいとか不純だとか、そんな感情論とは無縁のドライな仕事人なんだな。


「ところで故障してしまったミドリコの頭なんですけれど」

「ああ私の手元には届いているが、ナインツに届ける方法に苦慮していてね。もう少し時間が欲しい」

「やっぱりそうですか」

「ああ、この通話ですら今後は控えなくてはならないくらいなのだよ」


 あの世界同時多発テロは狙い通りNCA本国と、八つの地球に強烈なショックを与えた。

 未開の原始人とあなどっていた二十一世紀の人間たちが団結し、前代未聞の大反攻作戦を行ってきたという事実。

 未来の最新技術であるOMTを理解し、使いこなし、瞬間移動で強襲&離脱戦法を行ってきたという脅威。

 それはNCA本国の中に、情報と物資を流出させた敵対勢力が潜んでいることも意味する。

 この重大局面にあってNCA本国と各地球の軍支部は、便乗して暴れだした他のテロ組織への対策にも追われて、それぞれ苦しい状況にある。

 そんな中、直接打撃を受けたエイツ方面軍がとっている行動は当然のごとく『厳戒態勢』だ。

 いつまた僕たちが襲い掛かってくるともしれぬ緊張感の中、アリの一匹も逃がさぬ監視網をしき凶悪犯を一人でも逮捕、尋問しようと狙っている。


「彼らが一番欲しがっている首は君だクレイジーボーイ。司令官クラスにまさかの重傷を負わせた君はもはや闇社会の貴公子、賊軍の英雄だ。世界一の賞金首になれた気分はどうだね?」

「最悪だよ! こっちはギリギリ生き延びただけだっての!」

「ハッハッハ。とにかくそういう状況なのでね、間違ってもエイツに来ようなどとは考えないように。本気になった軍隊を甘くみれば今度こそ悲劇的な最期を迎えることになるよ」

「言われなくたって行きたくないよ」

「うむ、こちらからの指示は『姿を隠して待機』だ。諸々の件も焦らずにいること。余裕ができたら共にスポーツでも楽しむとしよう」

「スポーツ?」


 露骨にインドア派の雰囲気を出しているのに、意外なことを言う。


「これでも百年前は健全なベースボールキッドだったのだよ私は? それでは、くれぐれも慎重に行動してくれたまえ」

「……何歳なんですかあなた」


 少年の姿をした老サイボーグ。

 無限鏡界を発見した人の弟子。

 そしてテロ組織のゴッドファーザー。

 この世にも奇妙な老人は、やけにフレンドリーな笑顔で手を振りながら消えた。


「終わりですか?」

「あ、うん」


 高遠さんに呼ばれて僕は席に戻る。

 ここはいつもどおり学校の理科室。

 囲碁将棋の部活動と偽って映画作成やら秘密会議をさせてもらっていた。


「結局、私なーんにもさせてもらえませんでしたよね」


 また彼女の愚痴がはじまった。


「これから本格的に忙しくなるんだから我慢してよ。十五歳の女の子を指名手配犯にはできないでしょ」

「自分は十七でヒーローになったくせに。たった二歳しか違わないのに偉そうにすんなってんですよ」

「偉そうになんてしてないって」


 ホントに反抗期だなこの子は。

 優しくすればそっぽを向くし、放っておけば怒りだすしどうしろと……。

 

 ちなみにエイツの高遠りりあの居場所だけど、意外な人物からの情報によってすでに判明している。

 誰かというとあのナイスガイバージョンの葵さんからだ。

 最後のお別れの時に日向葵同士で交わしていた会話がそれだったんだって。

 実はエイツの高遠りりあさん(どこの鏡界でも女なのだそうな)、僕たちが襲撃したサブアンカーから意外なほど近い場所にある農家にいたんだって。

 爆破した時の黒煙を畑作業しながら見ていたそうな。

 ちなみに悠奈と葵さんでむかえに行ったら、『悠奈先輩から離れろ変態!』とか叫ばれて葵さんはでっかいキャベツ顔面にぶつけられたんだと。

 微妙に人間関係が違うんだね。

 彼女はいい匂いのする(重要)子供にも恵まれて、僕らの想像よりはいくらかましな農業ライフを営んでいたらしい。

 しかしもちろんご両親には伝えた。

 今頃はもう親子の再会をはたしているんじゃないかな。

 

 岡持さんたちエイツの部下たちは、なんかもう生活に関する知恵とか力とかがすごすぎて丸ごとお任せしてしまっている。

 数日は予定通り廃ホテルに滞在していたものの、しばらく戻れそうもないことを知ると即座に作戦変更。

 ナインツにいる四年前の自分たちと接触して協力をあおぎ、新しい生活基盤を着々と築きつつある。

 ロボットなしじゃ何にもできない僕と違って、すごいタフな人たちです。


 で、葵さんなんだけれど。

「ちょりやぁぁあ!」

「よいさぁあぁ!」

 二人の日向葵は机をはさんで神経衰弱をしている。

 神経衰弱でなんで叫ぶんだとかせめて囲碁将棋にしてくれないかとか、そういうことはもはや言うまい。

 彼女はいま、このナインツの日向家に居候している。

『もう一人の日向葵』という無茶な真実を丸ごと納得させて滞在許可をゲットしてしまったらしいのだ。

 まあ現在の状況ではエイツに行かせられないし、部下たちはみんな男だから葵さん一人を向こうに合流させることもできない。

 すごく助かっているんだけど、でもマジで信じてもらえたんですか?

 っていう気持ちがある。

 どんなご両親なのだろう……。


「いよっしゃあああ一組ゲットー!」

「ノオオオオ天はワレをみすてたもーたああああ……」


 こうして大騒ぎしている姿を見ると本当に仲の良い姉妹にしか見えない。

 こんなかわいい人が僕のお嫁さんになってくれるのかあ……。

 うっとりと見つめる僕。

 しかしふと疑問が浮かんだ。


 あれ、僕どっちの日向葵と結婚するんだろう?


 東京ドームで見た日向葵(男)は大人だったので自然とエイツの方だと思い込んでいた。

 でもあと数年したら二人の見た目ってほとんど同じになるよね。

 十五歳と十九歳なら身長も体格も違うけど、二人とも二十代、三十代になったらどうやって見分けるの?

 あの葵さんって、年上年下どっちだったんだろう……?


 僕は葵さんとキスをした。

 けどキスしたからって婚約者を気取るのは行き過ぎだよね。


 一方ひなちゃんは僕の初恋の人だ。

 そして最近少しずつ僕を男としてみてくれるようになった気がする。

 でもだからって葵さんを捨てるか? そんなバカな。


 こ、困ったぞ、こんなの答えの出しようがないじゃん!


「ユウさんなにブツブツ言ってんの」

「なんかまたムズかしいお話ですかぁ?」


 未来の花嫁候補たちに見つめられて、僕はたじろいだ。

 偶然か狙ったものか、こっちの葵さんはあの時ブラックアウト中であの重大発言を聞いていなかった。

 だから僕たちの将来の事は、この広い世界でも僕しか知らない大きな秘密。

 まさかこの選択を間違えたせいで世界が救えなくなるとか、そんな事は起こらないよね?

 きっと毎日ちゃんと生活していれば流れるべき方向に運命は流れていくはずだ、きっとそうだ。

 きっと、たぶん。


「コラあんた達、私にばっか押しつけてないでちゃんと仕事しなさいよ!」

「ハーイ」


 一つ仕事を終えてもまた次のお仕事。僕は命がけの戦争から地道な日常へと戻っていくのだった。



 こうして無限境界との出会いからひとつの任務を達成するまでを振り返ってみても、『何かを終えた』というより『すべてが始まった』という印象しかない。

 それもそのはずでまだNCAは健在、ナインツの月面基地もそのままで、僕の身に降りかかる危機は何も消えていない。

 というか僕個人を狙って兵器や暗殺者が来る可能性も否定できない状況になってしまった。

 ミドリコもハウンドも無い状況で一体どうしろっていうんだか。


 それでも絶望せず前に進めるのは、もう未来の答えをもらっているから。

 本名不明のノーベルさんは、無限鏡界を発見した時に『ここは未来を知ることのできる場所だ』と考えたそうな。

 未来が分かれば失敗を最小限に、成功を最大限に。

 災難を避け、幸福を選択することができる。

 僕はその考え通りに大事な大事な未来の結果を教えてもらえた。

 前人未到の僕だけの道。

 だけどすでに切り拓かれた『僕たちの』道。

 危険がないわけじゃない、けれど怖くない。

 これは数えきれないほど多くの『僕』が願い、そして『僕たち』で束ねてきた圧倒的な力なんだから。

 僕は受け取ったこの想いのバトンを必ず次の僕に手渡す。

 そして次の僕も、さらに次の僕も。

 

 僕たちは、無限鏡界の彼方へ愛の言葉をおくる。

                                       (終)

これでとりあえずの終了となります。

拙作を読んでくださったすべての方々に、心より感謝いたします。

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