表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/27

第四章 愛は無限の彼方へ ⑥

 この未来型テーザーガンという武器が何発撃てる武器なのか、そんなことすら僕は知らない。

 無我夢中になって引き金を引いているうちに、僕は周りの男たちから大量の蹴りをうけて、とうとう指一本動かせなくなった。

 当然のように銃口が僕の頭に突き付けられる。

 ああとうとう終わりか。

 この銃は何が出てくるんだろう。

 弾丸かな、レーザーかな、電流かな。

 まあ何でもいいや、苦しいから早くして……。

 僕は目を閉じて死を待った。

 

 グワッシャアアアン!


 予想外の大音が頭上から聞こえた。なんだろうこの武器。

 それから数秒、僕は自分の命が失われる瞬間を待つ。

 しかし一向に僕は死なない。

 何かの音はしたのに。

 おかしいな?

 目を開けると、僕の頭に銃口をむけていた男がなぜか地に倒れていた。


「いつつ……、何でこの人……」


 激痛にうめきながらどうにか寝返りだけすると、僕を取り囲んでいた男たちがケガもないのに全員倒れていた。

 これはまさかブラックアウト? 

 でも誰が?

 僕のハウンドは壊された。

 NCAの軍人に味方がいるわけもない。

 いったい誰が。

 そう思っていると、頭上から女の声がした。


「ごめん、遅くなっちゃった!」


 そう言って高い場所から飛び降りてきたのは、アニメに出てきそうなピッチリしたパイロットスーツの女性。

 何となく見覚えのあるような顔の女性だった。

 誰だっけ、いや初対面かな、でもなんとなくどこかで……。


「ギリギリになっちゃったね、ホントにごめんね!」


 彼女は僕のことを知っているようだ。

 いったい誰だったかな、この顔、どこかで見たような気がするんだけど。


「私は時田悠奈ゆな。うんと遠くの鏡界から貴方を助けに来たの」

「えっ」

「君も時田悠奈なんでしょ、ナインツの悠奈」

「いやっ、僕は悠。ナインツだけど、時田、ゆう……」


 なんだこれ。

 違う境界の、女の僕? 時田悠奈だって?


「そう、こっちの君は男の子なんだ。じゃあ悠、いきなりだけど君に大事な話があるの」

「いや待って、ちょっと待って」


 そうか、どこかで見たような気がすると思った。

 僕だ。

 僕自身の顔なんだ!


「ユナさ~んそんなことよりケガなおしてあげようよ~」


 横から悠奈と同じくピッチリスーツを着た男が現れた。

 なんか口調とか笑い方に覚えがある。

 この人まさか。


「ブワッシャ~!」


 男は僕の顔面に何かのスプレーをぶっかけてきた。


「オエッ、なにいきなり!?」


 いきなりで驚いたけど、じょじょに身体中の痛みがひいていく。

 傷薬かなにかのようだ。


「すごいだろー。このじだいにはないものだそ~。えーっとナントカ剤!」


 いやその説明だと薬だってこと以外、何も分からないです。


「あの、もしかしてあなた、ひ、日向葵?」

「うん、日向葵さんだぞ!」


 大輪の向日葵のようにおおらかな笑顔で名乗るナイスガイ。

 げえええええええっ!

 ひなちゃんが男になっちゃった!?

 軍人にぶん殴られたよりこっちのほうがショックだよ!


「ごめんね、まだこの後に仕事がいっぱいあるんで、ゆっくりお話をしているヒマはないの」


 悠奈はそう言うと空に命令した。


「ワルキューレ、この建物内外にいるNCA軍をすべて無力化して!」


 するとドームの天井付近が再びガラスのように砕け散った。

 砕け散ったあとに広がるのは万華鏡のような美しい光が散らばる世界。

 無限鏡界だ。

 その無限鏡界の向こうから、十体ほどの女性型ロボットが降下してきた。

 エメラルド色のメタリックなボディ。

 背中に翼の生えた小型ロケットのようなものを背負っている。

 空を飛べる人型なんてのも存在しているのか。


「あれはワルキューレ。二十五世紀の日本製警備ロボットよ」


 全身傷だらけだった僕は、

 葵さんにスプレーをかけてもらいながら何となく相づちをうつ。


「へえ日本製の……二十五!?」

「そうよ」


 女バージョンの僕は、おだやかに微笑みながら言った。


「意味はこまかく言わなくても想像がつくよね? 私たちは目的を達成したんだよ。そして四百年後のOMTで君を助けに来たの。君も同じように世界を救って、その日がきたら同じように別の私たちを助けてほしい」

「そ、そうなんだ、僕は成功するんだ」


 目的達成なんて、そんな軽い言葉で言われても実感がわかない。

 だってNCAの侵略をはね返して九個の地球を全部救ったっていうことだぞ。

 そんな会話をしているかたわらで、NCAの軍人と兵器たちはワルキューレというロボットたちによって次々と無力化されていった。

 本当に、本当なのか。僕は、本当にやったのか。やれるのか。


「そこのマルガレーテはまだ生きているよ。で、ほうっておくと目を覚ましてまた襲ってくるんだって。だからブラックアウトを解除しちゃダメよ?」

「いや解除も何も僕にはもうハウンドが無いし……。それでえっと、結局あなたたちは何なの。何で別の鏡界からわざわざ来てくれたの?」

「うん、実は私たちにも科学的な説明なんてできないんだけどね」

「俺たちはな、超とんでもなくスッゲースッゲーとおい鏡界からとんできたんだよ!」


 二人がかりでとんでもない説明をしてくれる。


「宇宙にたとえるなら、隣の銀河からやって来たってくらいのイメージなのね。私たちの銀河にもNCAがあって、NCAに侵略された二十一世紀の群れがあったの。そしてその群れにもナインツの時田悠奈、つまり私がいて、数年前に隣の銀河からやって来た別の悠奈に助けられたのよ」

「えっ?」


 なんか話がややこしいぞ。


「私たちの住む世界も、君の住むここの世界も、『オリジナル』とか『スタートライン』とは全然ちがう場所にあるっていう事みたいなのよ。無限鏡界は名前どおり無限に近い広さがあるっていう話なの。君も、私も、その前の私も、さらにその前の私も、隣の銀河から助けに来てナインツの悠奈、または悠を救う。救われた悠奈(悠)は未来に行って世界を救う。そしてまた隣の銀河の悠奈(悠)を助けに行く。そういうサイクルを気が遠くなるほど長い年月繰り返してきたっていう事らしいのよ。私の世界のトーマスが言うには組織のナンバーワン、ノーベルさんの発案で間違いないっていうんだけど」

「……そのノーベルってどんな人なの?」

 

 もう一人の僕はフウ、と軽いため息をついた。


「もうずいぶん前に亡くなっている人だった。無限鏡界を発見し、OMTを発明し、そしてミドリコを開発した人。トーマスは自分が実質的なナンバーワンだっていうことを味方にも隠していたのよ」

「ミドリコも!?」

「エイツの私にミドリコをめぐり合わせたのもノーベルさんだって。君だって何度か思ったんじゃない? ミドリコは何でもできる。ずいぶん都合のいいロボットだって」


 たしかに。不自然なほど便利な機能ばかり持っているやつだった。


「そこに倒れているミドリコ、頭を取り換えれば直るから心配しないで」

「えっ、で、でも動かなくなっちゃったんだけど」


 葵さんがパパっと走っいって、ミドリコの胴体を確認する。


「だいじょーぶ、身体はなんともねーぞ!」

「ありがとー。ミドリコのデータはネットワーク上に分散して記録がのこっているわ。だから部品交換すれば拍子ぬけするぐらい簡単に直っちゃうよ」

「そ、そうだったんだあ」


 さっきは悲鳴まで上げちゃったよ。

 頭バラバラでピクリとも動かないんだもん。


「うん、トーマスに頼めばかわりの頭をくれるから、それで映画の続きを作って」

「うん!」

「私たちが作った映画をそのまま渡せればいいんだけど、それをやってしまうとほんのちょっと『歪み』が発生してしまうらしいの」


 そういえばこの人、『遅れてごめん』みたいなこと言ったな。全ての出来事が同じように起こるわけじゃないってことか。


「私が渡しちゃうってことは、君も次に渡しちゃうってことでしょ。そんなことをしてしまうといつかきっと決定的な歪みが発生してダメになってしまう。だから私も前の人からもらえなかった。貴方も自分の力で完成させてね」

「うん、がんばるよ」

「あと二十五世紀の世界は……まあ……」

「んっ?」


 なんで顔をしかめるんだ、そこで。


「悪い人たちじゃなかった。まあ悪い人たちではなかったよ、うん! 大丈夫!」


 なぜそこで不安をあおるようなことを言うのか。


「未来の社会は、機械の自動化が進んでほとんど誰も仕事をしない社会になるの。労働も政治もAIまかせで、人間はただハンコ押して承認するだけ……それがかえって良くないみたいなのね」

「……良くないって、何が」

「まあその、社会問題」


 分からないな。

 仕事もしないで遊んでいられるなら、何も問題なんて無さそうなもんじゃないか。


「未来の世界では自殺がね。大流行しているの」

「はあ!?」


 なんで!? 一生遊んで暮らせるなんて天国みたいなものだろう!


「義務とか責任とかが無いとね、人間は生きている意味が無いと感じてしまうみたいなのよ。自分が居ても居なくても世の中なんにも変わらないって、死ぬほどむなしい事なんだって。ほら労働人口みたいな概念もないから世界人口が増えても減っても関係ないでしょう、食料なんかは無限鏡界でいくらでも育てられるし。趣味や芸術の分野で活躍しようとしても、それで一流になれる人ってごく一部だし。それならいっそ……ってなるみたいなのね」

「んな……」


 なんてわがままな。

 もしかして究極の贅沢なんじゃないかそれ。


「でもだからね、私たちは歓迎してもらえたのよ」

「は?」

「『困っています助けてください』っていうお願いが、彼らに生きがいを与えることになるの。すっごく変な話だけど『世界を救う自分』っていうイメージが、彼らにとっても希望の光になっちゃったみたいでね、アハッ」


 アハって。笑っている場合か。

 悠奈は僕の手を取った。


「だっ、だからね、本気で良い映画を作って。無気力になっちゃっているあの人たちの心を奮起させることが一番大事。そうしたらあの人たちは自分自身のために一生懸命手伝ってくれる。あの人たちに生きている意味を感じてもらう事で、私たちも救われるのよ」

「う、うん、わかった」


 どんな時代になっても生きることと悩むことはセットで、切り離せないものなのか。

 宗教的っていうのか、哲学的っていうのか。

 いっそロボットみたいに無機質な人生おくった方が幸せだったりしてね。


 あれ、ロボットって言えば、あいつは?

 僕は周囲をキョロキョロと見る。来ているのは悠奈と葵さんと、あとワルキューレとかいうロボットだけ。


「ミドリコは一緒じゃないんだ?」


 僕の何気ない質問に、二人は意味深な視線を交わした。


「まあアイツはもともと家庭用ロボだからさ」

「いまミドリコには赤ちゃんの相手してもらっているの」


 えっ?

 頭にハテナマークを浮かべる僕の前で、向こうの葵さんは悠奈の肩を抱いた。


「結婚したんだ俺たち。家にはもうすぐ二歳になる女の子もいる」

「エヘヘヘ……」

「そっ……」


 声にならない。

 恥ずかしそうに微笑む二人にたいして、こういう時はなんて言えばいいんだ。

 そうなのか!?

 ちょっと前まで一生一人ぼっちかと思っていたこの僕は、日向葵さんと結ばれるのか。

 何も言えずに顔を赤くしている僕を二人は温かく見つめている。

 そこにワルキューレの一体が近づいてきた。


「マスター、予定時間を過ぎています。これ以上はNCA軍の妨害にあう可能性があります」

「あ、いけない。指定人物のみブラックアウト解除、それからナインツの予定地点に送る!」

「了解」


 命令されたワルキューレが僕の仲間たちのほうを見ると、倒れていたエイツのみんなが目を覚ました。


「う、うええ、きもちわるぅい」

「生きてる……どういう状況なんだ……」


 みんな苦しそうにうめきながら起き上がってくる。

 でも命に別状はないようだ。


「時間がない、急いで!」


 僕たちは問答無用で無限鏡界の中へ吸い込まれた。


「ゲェー説明も無しかよ……」


 誰かが文句を言っているが我慢してもらうしかない。

 生きて逃げられるだけ良いじゃないか。


「悠、もう一人の私、急なんだけどここでもうお別れなの」

「えっ、も、もう?」


 僕たちは空間飛行をしながら向かい合っている。

 悠奈はとても悲しそうな顔をしていた。


「ごめんね、まだまだ大事な約束がたくさんあるの。君とはこれっきりお別れ」

「……寂しいね」

「うん、だけどこれも繰り返されてきたことだから。君も次の私にかならず会えるから」


 そう言って彼女は離れていく。


「私たちの心は無限の彼方までつながっているから! だから!」


 言いたいことはわかってる。

 こういうのは言葉じゃない、ハートの問題だ。

 彼女は先の僕から今の気持ちを受け継いできた。

 そして悠奈から僕へ。

 僕から次の僕へ。

 そうやってどこまでもどこまでも続いていくんだ。


「じゃあな~バイバイ!」

「うん! バイバイ!」


 少し離れた場所では二人の日向葵が同じく別れの挨拶をしていた。

 きっと二人の会話も同じ感じだったのだろう。

 二人とワルキューレの群れは完全に遠く離れていき、僕とエイツの仲間たちだけになる。

 そして光に包まれたとき、僕たちはナインツの廃ホテルにたどり着いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ