プロローグ
第26回電撃小説大賞4次落ちの作品です。
5chで約束したのでここに書かせていただきます。
落選したものなので過度な期待はしないで下さい。
プロローグ とある科学者の苦悩
どうしてだれも信じてくれない!
こんなはずではなかった!
そんなつもりで作ったのではないのだ、もうやめてくれ!
私はこれ以上もないくらいに惨めで、絶望的な気分だった。
この私が人生のすべてをかけて生み出した発明は、まぎれもなく今世紀最大の価値を持つものだった。
衰退の危機に直面していた我が国にとって、まさに奇跡を呼ぶ発明だったのだ。
あれが正常に動き続ける限り、我が国は永遠に栄えつづけることができる。あの力は絶対だ、何者にも侵されはしない。たとえ相手が神や悪魔だったとしても。
数え切れないほどの悲劇を他者に押し付け、血と涙を肥料として、けっして尽きることのない無限の恵みをわが国だけが享受し続けることだろう。
そして私はあれを生み出した世紀の天才発明家として、あるいは宇宙に災いをもたらした悪魔の化身として永遠に名を残すにちがいない。
冗談じゃない、そんな使い方をするための物ではないのだ!
はるかな昔、スウェーデン国のアルフレッド・ノーベル(ノーベル賞の生みの親)という人物は、ダイナマイトという爆発物を開発して巨万の富を得たという。
だが一方で彼は『かつてないほど大勢の人間を殺す道具を生み出した死の商人』だと批判され、ひどく悩み苦しんだらしい。
今の私がおかれた状況はノーベル氏に似ている。きっと彼は同情してくれることだろう。
私は凶行に走った権力者たちを許せない。許すわけにはいかない。
真実から目をそらし、自分たちだけに都合のよい幸福をむさぼる国民たちも許せない。
そして何より、こんな狂気の時代を生み出してしまった自分自身を、絶対に許すわけにはいかないのだ。
だから私は今日も贖罪の道を歩む。
綱渡りのように細く、迷宮のように複雑な中から見いだした一本の道。
私が発見した無限鏡界の彼方に散らばる、あらゆる可能性を組み合わせた唯一の手順。
狂ってしまった世界をあるべき姿に戻すのだ。それがせめてもの償いだ。
私はあえて、この国を乱す反逆者となろう。
幾万回にもおよぶシミュレーションの結果、私の計画はほぼ完成の領域にある。
残念なことがあるとすれば、私に残された時間はもうわずかしか無いということか。
最後まで見届けることはできそうもない。
若者たちよ、未来を頼む。