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りっちゃんの家に遊びに行った時、僕は初めてポラディーパを聴いた
「これはね、ポラディーパっていうのよ。パパが好きなんだ」
ポラディーパ、それは何とも言えない音色。
何とも魅惑的で人の心を引き付ける。
その時僕はまだ5歳で世の中の事なんて何も知らなかったけど、
【この音色をずっと聴いていたい】
そう思ったんだ。
その日、少年の人生は決まった。
ポラディーパ奏者になると。
タタタタン タタタタン タタタタ
「こいつは参ったな」
天の演奏を聴いた石川は自分の中を揺さぶられる感覚に驚いていた。
技術など無いに等しい天の演奏。
はっきり言ってそこら辺のガキの方がよっぽどうまい。
ただそんなものがどうでもよくなるような音色に石川はどうしたものかと考えてしまう。
石川はポラディーパに関しては自負がある。
賞の数もいざしらず、海外でもやっていたし、
CDだって出している元プロだ。
体を壊して引退したものの、それでもアマチュアなんかに負けることなどないと思っていた。
それがどういう巡り合わせかとんでもない者に出会ってしまった。
この音色はなんだ?
どうしてこんな音色を出せる?
その圧倒的な才能を前にして石川は歓喜していた。
それと同時に
どうしてもこの才能を世界に出さなくていけないと思ってしまったのだ。
タタタタタ タタタタタ タタタタン
「分かった、分かった。もういい、止めろ」
天は怒れれるだろうなと思っていた。
自分でもわかっているのだ、自分の技術の無さを。
「まず基本が全くなってない。一体、誰に習った」
「習ったことはないです」
そもそも習うなんて発想が無かった。
「まぁ、そりゃそうか。まずは基本からだな」
「は、はい」
「で、いつから来れる? 」
つい勢いで返事をしてしまったが、これでいいのだろうか?
りっちゃんのおじさんにここを紹介されたのだが、
未だに自分がどうしてここに居るのかよくわかっていない。
「天君、君はちゃんとした所で習った方がいい」
初めておじさんが僕の演奏を聴いた時にそう言われて、
あれよあれよという間にこの状況。
天の人生が動き出した瞬間だった。
天が帰ったあと石川は昔のことを思い出していた。
あの賞を総なめにしていた頃を
その勢いで世界に出て打ちのめされた事を
忘れる事なんて出来やしない。
こうして思い出しただけで手が汗ばむ。
そして今日、自分が出来なかったを成し遂げられる可能性に出会った。
天のあの音色を思い出し
少し泣いた。