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君と僕の話  作者: ささきあやこ
渡辺正樹の場合
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今日はいつもよりもだいぶ早く登校した。

いつもと同じように自分の靴箱から内履きを取り出し、床に落とす。

履き慣れないピカピカの内履き。なんとなく丁寧に両手を使って履いていく。

トントン、と爪先を床に落とし履き心地を調整する。

うん。何となく気持ちが引き締まる。


そして向かう先は教室とは反対方向。

僕は先日の遠足の写真を購入するべく職員室前の掲示場所へと歩いた。

実は掲示期間は今日が最終日なのだ。

初日から写真自体は見ていたものの、なかなか購入する勇気が出なかった。

なぜなら僕が欲しいと思う写真は樋町の写っているものだから…。

もし友達に会って封筒の番号を見られたりしたら最悪だ。

だから誰もいない早朝にこうして登校してきたという訳だ。

自分でも、そこまでするのか?と気持ち悪く思う。

そして掲示場所へと着いた。僕の視線はすぐに写真に写る樋町の姿に釘付けになっていた。

それに気付き、少しの自己嫌悪と罪悪感を覚えながらカバンの中に入れておいた、集合写真の番号のみが書かれた封筒とペンを取り出す。


悪い事をしている訳ではないが、何となく誰もいない廊下で左右を見渡し、再び人がいない事を確認する。そして、そうっと樋町の写る写真数枚に丸をつけた。


その後は速やかに提出箱に入れ、ふぅ、と大きなため息をついた。


写真を選び終え、僕は教室に向かう。

歩き慣れた廊下には、いつもは全く気にならない僕の足音がよく響いていた。

達成感…罪悪感…自己嫌

いろんな気持ちを抱えながら歩いていると、あっという間に教室の前に着いた。

そしていつも通り扉に手をかけ、ガラリと少し重いその扉を開いた。誰もいない教室に僕は入るはずだった。


だから聞こえたその声に、返事をするのに時間がかかってしまった。


「あれ、今日は早いんだね。おはよう、まさき。」


そこにいたのは、僕がさっき熱心に見つめていた写真に写る人物、樋町凛だった。

樋町は自分の席に座り、文庫本を開いていた。

綺麗な姿勢のまま、僕に微笑みかける。


「あ、…樋町。おはよう。」


ドキドキが伝わってしまわないようにと、素っ気なく返しすぐに視線を逸らし自分の席へと向かう。


自然なはずだ。

大丈夫。


「何か用事でもあった?」


「まぁ、そんなとこ。樋町はいつもこんなに早いの?」


僕はなるべく自然に、樋町とは視線を合わせず荷物を片付ける。


「まぁね。」



後ろからパタン、と本を閉じる音が聞こえた。

続けて椅子が動く音、樋町の足音。

僕に近づいてくる…


ぽん、と樋町が僕の肩に触れ、顔を覗き込んでくる。

僕の身長は170㎝弱。

樋町は175㎝くらいだろうか。

僕よりも少し高い。


少しかがんで僕と視線を合わせようとする。


「まさき、なにかあった?」


「え、何もないけど」


「ふぅーん?」


「なんだよ、逆に。」


「俺何かしたかなぁと思って。避けられてるというか、迷惑そうにしてるような気がして。何かしたなら謝りたいからさ。」


本当によく見てる。

そんな樋町の僕を見透かすような観察力が好きでもあり、怖くもある。


「大丈夫、樋町は何もしてないよ。」


「ん。分かった。」


樋町は、そう言ってすっと背筋を伸ばし柔らかく微笑み僕の頭を優しく撫でる。

僕はゆっくり目を閉じて束の間の幸福を噛みしめる


「何かあったらいつでも言って。まさきは俺の大事な友達だから」


「…うん。ありがとう」


友達、という言葉に

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