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君と僕の話  作者: ささきあやこ
渡辺正樹の場合
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季節は春。

ゴールデンウィークが先日終わり暑くも寒くもない過ごしやすい季節だ。

今日は程よく風がある晴天。

こんな日には外に出て、ピクニックでもしたい気分になる。

が、しかし。

こうしてクラスメイトたちと集団で、強制的に何時間も歩かされる「遠足」なんていうイベントは全く歓迎できない。

この遠足は学年交流が目的らしく、一年生のみを対象として毎年行われている行事だ。

高校生にもなって遠足なんて、いったい誰が喜ぶのだろうか。

少し耳を済ま澄ますと至る所から文句の声が聞こえてくる。

僕ら生徒からしたら面倒だし疲れるし、嫌でしかないのだ。


風邪を引いた、なんていう理由で欠席している生徒もちらほらいるようだが、僕には「面倒だからサボる」という勇気も行動力もなく、勿論参加している。


学校を出発して2時間ほど歩き、ようやく先程目的地と定められた広場に到着た。生徒たちは文句を垂れながら座り込んでいく。

幸いな事に季節は春。

4月には満開であったであろう広場の桜の木にはもう葉が茂っており、ちょうど良い日陰を作っている。

風に揺れる葉の隙間から太陽の光が溢れる光景がなんとなく綺麗で、僕の口角は少し上がっていた。

その事に気づいたのは、彼に話しかけられたからだ。


「渡辺くんは、楽しそうだね。」


その声に僕の鼓動は一気に跳ね上がる。

声の主は僕の片恋相手、樋町凛(ひのまちりん)だった。

彼は人好きする笑顔を僕に向けた。

それだけで、かっと顔が熱くなる感じがして慌てて視線を逸らした。


「楽しくはないよ。ただ、綺麗だなって。」


僕が葉桜を見上げると樋町は僕の隣にやってきて、同じように上を見た。

ふわっと香った樋町の柔軟剤の香りを吸い込み、ゆっくりと息を吐き出す。

男子に恋をしているなんて、絶対に誰にも言えない。

名誉のために知らせておくが、僕はゲイではない。

中学の時には彼女もいた。

でもなぜか入学してすぐ、樋町の雰囲気や仕草、声に外見すべてに惹かれてしまった。

樋町は誰が見ても容姿端麗で、男女問わずにモテている。

気取らず、誰にでも優しく、でも難攻不落の絶対的な壁のようなものを感じる。

そんな不思議な人間なのだ。


「ん、気持ちいいね。こういう自然を綺麗って思える若者が減ってるらしいよ。スマホとかテレビとかで見れるからなのかな。正直、遠足は面倒だと思ってたけどまさきのおかげでちょっとマシになったよ。」


ありがとう。と彼は柔らかく微笑んだ。


天使なのか。


「凛ちゃーん!みんなで一緒にご飯食べよ!」


僕のささやかな幸せは一瞬だった。樋町を呼んだのはクラスのカーストトップの篠宮柚木(しのみやゆずき)だった。彼女は長い茶色の髪をなびかせながら僕らのもとに駆け寄ってきた。正直見とれるほどに美しい。

綺麗な二重、校則違反ギリギリの明るさに染められた長い髪、キラリと耳に輝く隠されたピアス、透けるような白い肌に赤い唇。誰がどう見ても美少女と認める彼女が、僕に微笑みかけ樋町の手を掴んだ。

こうして2人が並んだ姿を見ると、お似合いだと思わざるを得ない。


「まさきも来る?」


行けるわけがない。

恐怖しかない。

この2人と一緒に僕が歩く姿を想像しただけで寒気がする。


「いや、僕も友達が待ってるから行くよ。」


「ふーん、じゃあ凛ちゃん連れてくね」


僕は小さく頷き笑顔を浮かべる。

そんな僕を見て樋町は小首を傾げ切れ長の二重の目を細めた。

気持ちが見透かされそうな気がして、僕はそそくさとジャージのポケットからスマホを取り出して、友達に今どこらへんを歩いているのかと連絡をした。


「いこ、凛ちゃん。」


「ん、行こう。」


篠宮に手を引かれると、樋町はその手を握り返していた。

2人が手を繋いで歩いていくその背中を僕は黙って見送った。


少し離れたところで座って休憩していた学年のカースト上位の仲間たちが、手を繋ぐ2人を茶化す声が聞こえてくる。

なんとも言えない気持ちになって僕はまだ最後尾をダラダラ歩いている友達を迎えにいくことにした。


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