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いきなり奥深くはダメ、絶対

「……お兄ちゃん、また顔色が悪い」


「む? どうした、豚よ」



 冒険者ギルド。

 そのダンジョン受付カウンターで俺は、とてもとても肩身の狭い思いをしていた……。


 定食屋の時もそうだったが、美女と美少女の中に混じる一人の男。これで容姿が優れているのなら嫉妬だけで済んだだろう。


 しかし俺の容姿は平凡だ。


 女性には「面倒見はいいよねぇ。頼りがいはあるかもぉ」と面倒見と頼りがいしか褒められたことはない俺だ。


 周りの冒険者から、なんであんな奴が……という視線をビシバシと感じている。


 それに今まで俺が固定パーティーに入れなかったことを知ってる奴もそこそこいるから、尚更そういう視線が集まる。



「私たちはハジメテだが、お前は経験済みだろうが。ナニに緊張している?」


「そうねぇ。ナニに緊張しているのか、お姉ちゃん気になるわぁ」



 変な言い回ししないでくれる?


 ニーナさんは俺がリノにお兄ちゃんと呼ばれているのが羨ましいのか、お姉ちゃんと呼んでほしいみたいだ。絶対に呼ばんぞ……!



「周りの視線が気なるんだろ? ダッツは」


「そうなんですよ、メイリーさ……メイリー」



 目力がすごいよ……メイリーさん。


 別に俺がいいならそれでいいって言ってたじゃん……。



「あ、ダッツがメイリー呼びしてる! わたしもアリアって呼びなさいよ!」


「まぁ、できるだけ……」



 なんでこの人たちはこんなにフランクなんだ……。



「わたくしは、お姉ちゃんでいいわよ?」


「私はご主人様でいいぞ!」



 絶対に呼ばんぞ……っ!



「ってことで、はやく受付済まそうぜ。ダッツが可哀そうだ」


「……お願いします」


「そうだな、さっさと済まそう」



 そう言ってシェリーさんは、周りから集まる視線をものともせずに受付に向かう。



「鮮血散らす乙女だ、ダンジョンに潜る」



 受付嬢に冒険者カードを出すシェリーさん。



「はい、鮮血散らす乙女の皆さんですね。失礼ですがパーティー全員の冒険者カードの提出、リーダーの方はパーティー登録番号をお願いします」


「なに? ダンジョンに入るには全員ぶんがいるのか。ほら、さっさとカードを出せお前ら」



 そういえば言ってなかったな。


 言っておけば良かったと思いながら、俺のカードをシェリーさんに手渡す。みんなも俺の後に手渡していく。


 そして全員ぶんのカードをシェリーさんが受付に出すと、受付嬢は一つ一つ書類を見ながら確認していく。



「はい……確認いたしました。ではリーダーの方はパーティー登録番号を」



 シェリーさんが書類へと記入をする。ちなみにパーティー登録番号はリーダー以外は知らない。教えてはいけない仕組みになっている。



「はい、間違いございません」



 確認が済んだ受付嬢がシェリーさんにダンジョン入場許可証のカードを渡す。



「こちらはダンジョンに潜る際に必ず、騎士にお渡しください」


「分かった。ありがとう」


「お気をつけて」


「よし、さっさと向かうぞお前ら」



 そう言ってダンジョン入口へ向けて、先頭を行くシェリーさんの後についていく。



「しっかし、アタシらも今頃になってダンジョンに挑むとはねぇ……」


「メイリーさ……メイリーもだけどこのパーティー、俺以外はダンジョンに潜ったことないんだったよね?」


「そうだな。アタシらはほぼ初期メンバーで、なにをするかはシェリー次第だったしな」


「……まずはきちんと外を知ろうって、ダンジョン以外の依頼だけを受けてた」


「外回りって奴だな。そういう冒険者は多いしなぁ……」



 ダンジョンは基本的に面倒なことが多い。必然的に外の依頼だけを受ける冒険者が多くなるってわけだ。


 シェリーさんは単純に外の世界から知ろうとしただけだが。



「実はわたし、ずっと憧れてたのよ。風傘に!」



 そう言って眼をキラキラとさせているアリアさん。



「あー、確かに見た目はすごい楽しそうですしね」


「そうなの! 一階に戻ってきた冒険者を何度も見てるんだけど、それがすごく楽しそうで!」



 風傘。


 ダンジョンはその中心に大きな穴が空いていて、下からちょうど一階までとても強い風が吹きあがっている。


 どれくらい強いかというと、人間が浮かび上がるほどだ。子供ならそのままゆっくりと浮き上がっていってしまうほど。


 しかし大人は浮かび上がる程度でしかない。そこで風傘という名の魔道具だ。


 下から吹きあがっている風を効率よく捕らえて、大人でもゆっくりと浮き上がれるようにするのがこの魔道具。



「ダンジョンに潜る手前で、その風傘も買わなきゃいけないですね」


「お前ら、ダンジョン入口だ!」



 そう言ってシェリーさんが指差したのはダンジョン一階へと下る階段とそこの前に立つ騎士たち。


 勝手にダンジョンに入らないように、階段前にはきちんと騎士が見張っている。



「冒険者パーティー、鮮血散らす乙女だ」



 シェリーさんは騎士にダンジョン入場許可証を渡しながらそう告げる。



「はい、確認しました。お気をつけて」



 そう言って道を開けてくれた騎士にお礼を言いながら、俺たちは階段を下っていく。



 そして下った先は、ダンジョンの一階層の最初のフロア。


 かなり広いフロアで、多くの冒険者に露店も見える。



「……お兄ちゃん、あれがダンジョンの大穴?」


「そうだ。見ろ、ちょうど冒険者が帰ってきた」



 リノが指差した先は、大きな穴。


 そしてその穴から風傘を使って、ちょうど冒険者が一階へと戻ってきたところだった。



「風傘! やっぱり楽しそうだわ……。シェリー、はやく風傘を買いにいきましょ!」


「いや、今回は買わん」


「……え? 買わないの……? ねぇ、シェリー? 買わないの……?」



 かなりショックを受けている様子のアリアさん。



「あぁ、今回は様子見だ。五階層ほどで引き上げる」


「意外ですね、ウチのパーティーなら最初からもっと潜るかと」


「ダンジョンに関してはダッツ以外は経験のない乙女だ。きちんと様子見からだな」



 経験のない乙女って言い回しする必要あった?



「……偵察は大事」


「お姉ちゃんも賛成。いきなり奥深くまで挿れるモノじゃないわ」



 ニーナさんだけ違う話してるな……。挿れるってなに?



「んじゃ、風傘は次回ってことではやく潜ろうぜ!」


「メイリーさ……メイリー、楽しそうだね」


「はやく動きたいんだよ、アタシは!」



 そう言うメイリーさんは本当にはやく動きたいみたいで、身体が小刻みに動いている。そしてその動きに合わせて大きな胸も動いている。なんと目に毒な……!



「よーし、では行くぞー!」


「あの、シェリー? 風傘……。ねぇ、シェリー? 風傘を……」


 諦めなさいよ……。


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