ダンジョン前のモーニングエレクト
「こ、これがモーニングエレクトなのね……メイリー」
「そうだぞ、アリア。勉強になったなぁ」
うん、この流れ知ってる。
昨日と同じ流れだもん。
今日はアリアさんとメイリーさんか……。
「あの……どうして俺の部屋にいるんですか……?」
「あ、おはようダッツ」
「よう、ダッツ」
「いえ、おはようじゃなくて……」
どうして二人が俺の部屋にいるのかを聞いてるんだけど……。
「わたしたち二人、あんたに言いたいことがあるのよ」
「ま、そういうことだな」
二人ともかなり真剣な表情だ。
な、なんだろう……。単純にセクハラしに来たのかと思った……。
「じゃあ、アタシからだ」
そう言って腕を組むメイリーさん。真剣な表情なんだけど、胸が……。
「は、はい……」
「ダッツ、いつまでアタシに敬語使ってんだよ。あと呼び方もメイリーさんのままだし!」
「あ……」
まったく気づいていなかった……。
そういえば一番最初の自己紹介で、呼び捨てに敬語なしで良いって言われたんだった……!
年上には敬意を払えって育てられてきたから、メイリーさんって呼ぶのも敬語もまったく違和感なかった。
「あの……クセみたいなものなんで……すみません」
「……ダッツがそれでいいなら、いいけどさ」
どうしよう、完全に納得していない顔だ……。
「次はわたしよ!」
「は、はい……なんでしょう?」
「昨日、勝手に部屋に入ったことよ!」
「あ、それはリノに言ってください」
「え? うん、分かった」
よし、分かってくれた。単純だなアリアさん……。
「その、メイリーさんには別で埋め合わせするので……」
「へぇ~……?」
俺がそう言うとメイリーさんが唇を舐めた。なんとも魅惑的な動きだが俺はいったいナニさせられるんだろう……!
「それじゃ、楽しみにしとく……」
「はい……」
「ねぇ、ダッツ。なんでリノが出てくるの?」
そこに気づいてしまったかアリアさん。仕方ない。
「そこもリノに聞いてください」
「あ、はい……分かりました」
よし、さすが単純アリアさん。チョロイぜ……!
「とにかく着替えるんで」
「あぁ、気にすんな」
「気にしますよ!」
「仕方ないなぁ~。いこうぜ、アリア」
「うん……うん~?」
納得いかなそうなアリアさんを連れて部屋を出ていったメイリーさん。
よし、邪魔が来ないうちにさっさと着替えよう。
「おはようございます」
一階の俺の部屋を出て廊下を歩き、ここは広間。
既にシェリーさん以外のメンバーが揃っている。おそらくシェリーさんはまだ寝ているだろう。
「おはよう、ダッツくん」
「さっきぶり、ダッツ」
ニーナさんは紅茶の飲みながら、メイリーさんはソファに横になりながら挨拶を返してくれる。
「ねぇ、リノ。つまりどういうことなの? ねぇ、リノ?」
アリアさんはなにかをリノに聞いている。
二人並んでソファに座っており、アリアさんはかなりリノに密着しにいっている。そしてリノは迷惑そうだ。
「……アリア、しつこい」
「うっ……ごめんなさい……」
リノに睨まれ身を引くアリアさん。しかしその口元はニヤニヤしている。ドМなんだよなぁ、この人。俺と違って。
「おはよう、リノ……」
「……うん」
挨拶をすると俯いてしまうリノ。
昨日のことが実は恥ずかしかったんだろう。
「……お、お兄ちゃん。紅茶入れてあげる」
「あ、あぁ、頼むよ」
「「「……」」」
三人の視線が一瞬で俺に集まる。
そりゃそうだよなぁ……。
「あら~? どういうことかしらぁ~?」
「ダッツがお兄ちゃん? リノのお兄ちゃんがダッツ? うん?」
「へぇ~……リノとはずいぶんと仲良しになったねぇ……?」
「リノとは」という言葉で遠回しに責められてる……!
「い、いやほら、リノは年下で接しやすくて……」
「アタシが接しにくいってこと……?」
「いえ! そんなことはないです!」
「これはかなり埋め合わせしてもらわないとねぇ~……ダッツ?」
「……は、はい」
どうしよう、いったいどんな埋め合わせが待っているんだろう。少し楽しみな自分が……いや、いない。俺はドМじゃない。
「ダッツはリノのお兄ちゃんだったの?」
「いや、昨日からそうなりました……」
「昨日からお兄ちゃん……お兄ちゃんが昨日から……?」
アリアさんは完全に混乱している。
「……はい、お兄ちゃん。紅茶」
「あ、あぁ。ありがと」
入れてくれた紅茶を受け取ると、そのままリノは俺の隣にくる。
「ダッツくん。そういうことだったのねぇ」
「……あの、なにがでしょう?」
「ダッツくんは、兄妹プレイがしたかったのね?」
「いえ、まったく」
結果的にはそうなっちゃったけども……。
「うふふ、今からわたくしのことをお姉ちゃんって呼んでもいいのよ?」
「お、それいいな! アタシもお姉ちゃんって呼べよ」
「呼ばないです……」
「うん? ニーナとメイリーがダッツのお姉ちゃんってことは、リノのお姉ちゃんということでもあって……?」
アリアさん、もう考えるのを諦めましょうよ……。
「……お兄ちゃん、お菓子食べる?」
「あ、うん。もらおうかな……」
そして周りの視線にまったく動じないリノ。
「おはようお前ら! 今日からダンジョンへ挑むぞ!」
二階から降りてきたシェリーさんは、開口一番にそう言った。
しかし、広間は完全にそういう空気ではなかった……。
「ど、どうしたお前たち……?」
そしてうろたえるシェリーさんという珍しいものが見れたのだった。