リノ×妹×お兄ちゃん
ん……?
なんだろう……すごく顔がくすぐったい。
なんか、細い糸の束でくすぐられているような……?
「……おはよう、ダッツ」
「……なにしてんの、リノ」
瞼を開くと、間近にリノ。
なにを言っているのかさっぱりだと思うが、俺にもさっぱりだ。
ついでにくすぐったかったのは、リノの髪の毛だ。
「……お願いがあってきた」
「……とにかく離れてくれる?」
そう言うとすんなりと離れたリノ。
リノが離れて気づくが、まだ暗い。おそらく深夜だ。
夕方の女性陣による新服ファッションショーで疲れた俺は、気づいたら寝ていたらしい。
とりあえずベッドの上であぐらをかき、リノを横に座らせる。
深夜に俺の部屋でベッドに座るリノ……。
ただでさえ幼い容姿なのに露出度の高いパジャマで、より一層の危なさを感じる。こんな場面を誰かに見られたら一発でアウトだ。
「で、お願いって?」
「……」
口を開かず、無表情で見つめてくるリノ。
なんだろう、言いにくいことなのかな?
「言わないと分かんないよ、リノ」
「……むぅ」
口をとがらせて不機嫌そうな顔になってしまうリノ。俺がなんか気に食わないことでもしちゃったのかな……?
しばらくそうしていたリノだったが、なにかを決心したように表情を真剣なものに変える。
「……ダッツは兄妹いる?」
ようやく口を開いたリノは、俺から目をそらしつつそう聞いてきた。
「あぁ、妹がいるよ?」
「……」
そう答えるとまた不機嫌そうになるリノ。
兄妹がどうしたんだ?
「……ボクには兄がいる」
「そうなんだ……?」
なんとなく妹っぽい感じがしてたから、上に兄ちゃんか姉ちゃんはいるだろうなとは思ってたけど。
「……あんまり仲はよくない」
「……そっか。理由を聞いてもいい?」
「……兄もボクと同じで、メインジョブが魔法使い」
兄妹揃って同じメインジョブに生まれたのか……。けっこう珍しいことだな。
「……兄はとても優秀。だけど、その」
そこで言いづらそうにするリノ。あぁ、なるほど……。
「リノの方がお兄さんよりも優秀だった?」
「……うん」
妹が同じメインジョブで、自分よりも優秀か……。
俺は妹とメインジョブは違うし、仮に一緒で妹の方が優秀だとしても逆に嬉しいだろう。それだけ妹を愛してる。家族としてね。
だけど、リノのお兄さんはそれが嫌だったってことか?
「……兄という存在はいても、ボクがそれを実感することはなかった。だけどダッツに会って、兄とはこんなものなのかなって思って」
「そっか……」
リノとは会ってまだ二日目だけど、なんとなく距離を感じなかったからリノも同じように思ってくれていたってことが嬉しい……。
俺が何度も妹みたいだなって思ったように、リノも俺のことを兄みたいだなって思ったのか。
「俺も……リノのことは妹みたいだなって思ってたよ」
「……ほんと?」
「うん、実際に妹がいるから尚更ね」
俺がそう言うと面白くなさそうな顔をするリノ。
もしかして、俺の妹に嫉妬しているのかな……なんて。
「……ダッツの妹はどんな子?」
「うーん……。明るくて元気で、俺の言うことをなんでも信じちゃうような、ちょっと馬鹿な妹かなぁ……?」
「……ボクとは真逆」
「いや、けっこう似てるよ……」
「……ほんと?」
「うん、ほんと」
俺がそう言うと、すごく嬉しそうな表情で身体を乗り出してくるリノ。
「……じゃあ、ダッツのことお兄ちゃんって呼んでいい?」
おぉ、そうきましたか……。まさかのお兄ちゃん呼びプレイ。
「……いきなりだな」
「……だめ?」
「もしかして、お願いってそれ?」
「……うん」
「なんだ……。もちろんいいよ、そんなことで良ければ」
「……なら、お兄ちゃん?」
「おう! なんだリノ!」
不安そうな表情で問いかけてきたリノに、わざと太い変な声を作ってそう答える。
「……なにそれ……変な声……」
クスクスと笑うリノ。何気にきちんとした笑顔を見るのは初めてかもしれない……。ちょっとだけドキッとしてしまった。
「……それじゃあもう寝るね。おやすみ、お兄ちゃん」
お願いが通って満足したのか、ベッドから降りてそう言うリノ。
「おう、おやすみ、リノ」
笑顔で部屋を出ていくリノを見送って、横になる。
まさかリノにお兄ちゃん呼びされるとは……。嬉しい半分、恥ずかしい半分だなぁ。絶対にからかわれる。
でも、今から朝が楽しみだ。
きっと、いい目覚めを迎えられる……。