童の帝
「どうぞ、紅茶よ?」
「あ、どうもです……」
どうしよう……。
「どう? おいしいかしら?」
「と、とっても……」
いくら今日から固定パーティーの仲間だからといって、簡単に屋敷について来るんじゃなかった……。
「おいニーナ、あまり豚のナニを見てやるな。震えてしまっているだろう」
「あら、気にしないでいいのよぉ」
いや、それも気になるけどさ。
そうじゃなくて、俺はこの場違い感に震えているんだよ……。
あまりに大きい屋敷を見たときから思っていたが、中に入ると更に場違い。広間を見渡せば高級品の数々。
今飲んでいる紅茶も、このカップも絶対高い。
これがSランク冒険者がリーダーのパーティーなのか……!
「お前ら分かってないなぁー! ダッツは高級品が多くてビビってるんだろ?」
そう言いながら酒のビンをラッパ飲みしているメイリーさん。
「分かります……?」
「アタシもあんまり高いモンは好きじゃなくてねぇー」
「でも、メイリーの飲んでるソレもすごくお高いワインよ?」
「あ? そうだっけ。まぁ、酒は飲めば一緒だ! アッハッハッハ!」
この人、高級ワインをラッパ飲みしてんのかよ!
「ねぇ~、私の激辛燻製肉は~? どこにも無いんだけど?」
そう言いながら広間に入ってきたのはアリアさん。
パジャマなのか知らないが、露出高すぎだろ……!
胸元が開きすぎで、今にもこぼれそうだ。
「なに見てんのよ……変態」
「いや、思わず……」
「アリア、お前の激辛燻製肉は私が捨てておいた」
「え!? なんでそんな酷いことするのよ!」
「この私の屋敷に辛いものを持ち込むなと言っているだろ! どうせ激辛燻製肉を食べて、痛みに興奮するつもりだったんだろう、雌豚!」
「ひぅっ! その通りです!」
その通りなのかよ……!
「で、でも、捨てることないじゃない!」
「……おそらく、シェリーが激辛と知らずにつまみ食いした」
そう言いながらアリアさんの後ろから姿を表すリノ。
そしてリノもパジャマなのか分からないが、とても露出している。
容姿が幼いぶん、余計に見ちゃいけないものを見ている気分だ……。
「……辛いの嫌いなシェリーは、その怒りのまま捨てた。どう?」
「ぐぬぅ……っ!」
当たってるのかよ!
つまみ食いに辛いもの嫌いって、子供みたいだな。
「……すまん。私が悪かった、許せアリア」
「まぁ、許してあげるわ」
「許してあげる? 調子に乗るな雌豚!」
「ごめんなさいぃ!」
この人たち、いつもこんな会話してんのかな……。
「そういやよ、ダッツの部屋はどうすんだ?」
「そうねぇ~。空いてる部屋がないのよね」
「え……? こんなに広い屋敷なのにですか?」
それはおかしい……。どう見ても10以上は部屋がありそうな広い屋敷だぞ?
「う、うむ。Sランクともなるとな、色々とな、必要なものがな――」
「シェリーちゃん、余計なものばかり買うしねぇ」
「このあいだはなんだっけ? 初心者でも簡単、調教セットとか買ってたなぁ……」
え、それ買ってどうするの……?
「……たしか、ダッツを勧誘するってボクたちに言い出した時」
「え!?」
「違う! 違うのだ! 本当に違うのだ豚よ!」
あぁ、さすがにそんなものを買ったと暴露されるのは、シェリーさんでも恥ずかしいのか。
「私は初心者ではない! 立派なドSなのだ! 本当だぞ!?」
そこかよ!
恥ずかしがるところがおかしいから……!
「よ、よし! ならば今からその身体に教えてやろう! 服を脱げ!」
「脱ぎませんよ! 別に知りたくないですし!」
「な、生の……!?」
ニーナさんなにが生なの!?
お願いだから俺の一部を見ないでくださる!?
「おいおい、ダッツが困ってんだろ?」
「メイリーさん……」
「分かってるぜ。……ダッツは初めてだもんな? 最初は普通のプレイをしたいってのは、男のロマンだもんな?」
「うーん! 初めてだけど! 普通のプレイがいいけど!」
その瞬間、空気が凍った。
え、なんで?
俺のそういう発言はダメなの?
今まで皆、最低な会話してたクセに……?
「豚は本当に出荷前なのか……?」
出荷前ってなに?
出荷前ってなんなの?
「……へ、へぇ? ふ、ふーん……?」
アリアさん、なんで興味ありそうなの?
なにその物欲しそうな目は……。
「……わらしべのみかど」
違うよ、それだと帝になっちゃうから。童の帝になっちゃうから。
「……ほぅ。本当に初モノ、いや初サオか?」
うん、サオ?
メイリーさん、サオってなんだろー。わかんないなぁー?
「……初生!?」
だから生ってなに!?
俺の下半身を見ないでくれ!!
「「「「「……」」」」」
視線が怖いよ……!
「あの……ところで、俺の部屋はどうなるんですか?」
「む、そうだったな……」
よし!
話の流れを断ち切ることに成功した……!
「俺、この広間でもいいですよ。このソファも柔らかくて、寝心地よさそうですし」
「そうねぇ。どこか別の部屋を片づけるまでは、ここで我慢してもらうしかないわね」
「ま、ダッツは男だしな!」
いえ、男でも普通にベッドで寝たいです。
「わたしの部屋で寝る?」
「……ボクの部屋でもいいよ?」
アリアさんとリノがなんでもなさそうに言う。だから君たちはなんで爆弾発言をしちゃうかな?
「いやいや! さすがにそれはマズイですから!」
「ダッツならいいよ、優しそうだし」
なにその理由!?
優しそうってなに、なにに優しそうなの!?
「……ボクもいい。ダッツ、ヘタレそうだから」
「そうそう、優しそうだから手を出すとかしない気がする」
あ、優しそうってヘタレそうってことね。ふーん……。
別になにかをするのに優しそうって意味だと思ってないですから。
「ダメだ! きちんと節度を守らなくては」
シェリーさんが言うそれ?
あ、このメンバーだれも言えないわ。
「というわけでダッツはしばらく広間だ、悪いな」
「いえ、大丈夫です」
まぁ、このソファでも前の宿のベッドより柔らかいし、寝心地よさそうだしな。
「……そろそろ眠い」
リノが半目になりながらそう言ってあくびを一つ。
気がつけばもうけっこうな時間だ。なんだかんだ言いつつ、誰かとこうしている時間はあっという間に過ぎていくな。
「もうこんな時間かよ、今日はお開きだな」
「うむ、では解散! 明日は部屋の片付けと買い出しだ!」
シェリーさんの宣言の後、みんなでおやすみの挨拶をしてから次々に部屋へ戻っていった。
しかし……。
「あの……どうして残ってるんですか、シェリーさん」
「いや……さっきの初心者のくだりが――」
「もういいわ!!」