表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/25

(5)7年前の回想、私の起こした波紋 ミフユ PART2

(承前)


 ミフユは校長先生に軽く頭を下げると質問を始めた。


「南武線はもともと砂利輸送で路線が伸びたというお話、多摩川の貨物輸送だけだったんでしょうか?」


竹田くんは案外予想通りの話だと自信を持ったようで切り返してきた。


「それは古城さんや丹波山たばやまさんが調べていた事だと思いますけど」

「ええ。全く触れないのは何故なのかなあと。当時の鉄道の意味って分かりますか?」


「え?」

慌てる竹田くん。パニックになってるのがわかる。


「何故、昔は鉄道が重要視されたと思いますか?」


沈黙の後に竹田くんはようやく口を開いた。

「人や物を運ぶためだよ。当たり前だろ」


ミフユはゆっくり首を横に振った。竹田さん、やっぱりわかってないんだな。


「昔はいろんなところに線路が敷かれていて陸上の貨物輸送では大活躍してました。これ、昭和の頃の時刻表に載っていた北海道の地図なんですが」

そう言って竹田くんに地図をコピーしたものを渡した。周りでは古城グループ、丹波山たばやまグループの五年生たちが他の先生やグループの子にコピーを配った。


「津々浦々まで路線が伸びてました。なんの代わりをしていたと思いますか?」


目を白黒させて困惑を隠せなくなった竹田くん。


「代わりって。そんな昔の事は分からないし」

「調べてないからじゃないですか。昔はトラックが少なかったから鉄道が敷かれないと陸上輸送が滞ったんです。だから北海道でも津々浦々まで路線が敷かれた」


ミフユはニッコリ微笑んだ。


「青梅線から石灰石を運んできた事は重要です。石灰石はセメント工業、鉄鋼業、ガラス工業、ソーダ工業、カーバイド工業で、主原料・副原料として利用されてます。京浜工業地帯へのニーズがあったんです。いろんな工業で石灰石は必需品だったからこその輸送です」


竹田くんは怒鳴った。

「古城さん、誰かに教わったんだろ!」


吉川くんが立ち上がって言った。

「竹田さん、この件は秋田さんがまだこちらのグループにいる時に知った事ですよ。気になってみんなで調べて分かった事です」


秋田あきた青嵐せいらんさんも立ち上がった。

「はい。これは吉川くんの言う通りです。悔しいですけど、事実」


吉川くんは頷いた。

「ありがとう、秋田さん。僕らが調べて分かった事だけど結構有名な事実でしかないので竹田さんのグループが集めた資料にも載ってるんじゃないですか?秋田さんは資料見てるよね」


彼女は悔しげに頷いた。

「はい。吉川くんの言う通りです。竹田さん、嘘は言えないから、ごめんなさい」

そう言うと彼女はさっと座って俯いていた。


 ミフユは二人のやりとりが終わったのを見て取ると再び話し始めた。

「今の南武線や青梅線、五日市線、鶴見線は1944年まで私鉄で合併して一つの鉄道会社になる構想もあったんですけど石灰石輸送の重要性から国有化されました。こういう事実を取り上げないのって私たちは嫌でした」


そう言い終えると静かにミフユは席に座った。

静まりかえった教室。竹田くんは黙り込んで床を見つめていた。


 ここで丹波山たばやまさんが手を挙げた。校長先生は丹波山たばやまさんの方を向いた。

丹波山たばやまさんからも何かありますか?」


 丹波山たばやまさんはうなずいた。

「はい。私のグループでは小田急線と南武線がつながっていった事を知りました。最初、多摩川の砂利を小田急線で送り出すためかなって思ってたんですよね」


竹田くんもそう思っていたようで驚いた表情で丹波山たばやまさんを見た。校長先生が丹波山たばやまさんの言葉を引き取った。


「違うんですね?」

「はい。相模川の砂利を南武線経由で出荷していたんです。先入観はダメだなって勉強になりました」


 近江先生も竹田くんら主流派はみんな黙っていた。先生は怒りを覚えていたみたいだけど校長先生の先ほどの言葉に何も言えない状態になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ