過去
どうも、狩野理穂です。
第一部最終話となりました。細かいことは書きません。
ぜひ最後までお付き合いお願いします。
「ゼウス……」
俺は、光を見つめているゼウスに声をかける。
「イマイチ話が見えないんだけど、説明してくれないか?」
ゼウスが俺を見つめる。
「いいだろう。お前は深く関わりすぎた。知る権利がある」
ゼウスは語り始める。ずっと昔の物語を──
全ての元凶はアテの反乱だった。理由は、オリンポスの支配権を十二神が独占し、ほかの神々を虐げていたこと。
敵の敵は味方──そういう言葉があるように、アテ側の勢力は強大だった。
だが、オリンポス十二神も十二神たる強さがある。さらに、それぞれが生み出した英雄も十二神側についた。
勢力はほぼ互角──最初はそう思えた。
だが、アテは明らかな計算間違いにすぐ気づいた。オリンポス十二神には、戦術の女神と戦の神がいる。アテが勝てるはずなどないのだ。
戦争が始まって数年後──反乱軍で生き残っていたのは、アテと数人の神だけだった。
アテは懺悔した。
「父上。私は大変な間違いをしていました。これからは人間の導きとオリンポスの復興に力を貸しましょう」
その言葉でオリンポス反乱戦争は幕を閉じた。
だが、アテは反省の顔の裏側に復讐の炎を燃やしていたのだ。
アテはオリンポス十二神に仕えることを名目に、神殿に出入りしていた。そして、狂気の"種"を運んでいたのだ。何回にも分けて、少しずつ、少しずつ──
その種が芽吹いたのは、今から3年前。ちょうど怪物が出始めた頃だ。
種はとても小さく、当の神々も気付かない位のものだった。せいぜい自我が少し曖昧になり、防御が少し落ちるくらいだ。
それでも、アテには十分すぎた。
小さな意識の隙間から入り込み、怪物を人間界に出現させ、信仰をやめさせる。
神々のエネルギー源である信仰を失うとどうなるか。神は力を失い、より意識の空白が大きくなる。
時間はかかれど、確実な方法だ。
そこからは、ビックスリーを操ればいい。簡単にオリンポスを墜とせる。
深海にいるポセイドンは難しい。だが、冥界のハデスは簡単。狂気の女神は冥府にはいれるし、ハデスもオリンポスに恨みを持っている。ついでに人間界も支配してしまえばいい。
──アテがそう考えていた頃、アポロンは最期の予言をしていた。
「冥府の王が暴走し、世界の均衡が崩れる。不思議な加護の村にいる少年の秘められた力が目覚め、全てが明らかとなるだろう」
そこは、どの神にも思い当たりがない場所だった。──ただ1人、ゼウスを除いては。
ゼウスはその予言を聞いた途端ユピテリアの様子を見た。
すると、どうだろう。少年がハルピュイアに追われているではないか。
ゼウスは迷った。いつものゼウスならばハルピュイアを一掃することなど容易い。だが、アテに操られ、力を失いつつある状態の今はどんな失敗をするかわからない。予言で示された少年を殺すことになるかもしれない。
ゼウスは葛藤したが、残された時間は少ない。
ゼウスは少年を助ける決断をし、ケラウノスを託したのだ。
「で、その少年が俺だったと……」
ゼウスの話は本当だろう。でも──
「操られていたとはいえ、自分の村をお前は破壊したんだ。そんなのアリかよ……」
俺はゼウスを許せない。たとえどんな理由があってもだ。
運良く誰も死ななかったが、復興には時間がかかるだろう。
「本当に悪かった。俺の甘さの所為だ。詫びに、村を元通りにしよう。お前が帰った時には何事も無かったようになっている」
違う……なにかが違う気がする。
「ゼウス──控えて下さい」
いつの間にかゼウスの後ろに女神がたっていた。アテよりも美しく、オーラが凄い。
「ヘラ……来ていたのか。」
ゼウスが呟く。この人がゼウスの妻である女神ヘラなのか。
「ゼウス、貴方は強すぎます。その為、弱者の気持ちを理解できないところがある。この者は自身の力で村を建て直さなければならない。でないと、常に神に頼り、自分では何も出来なくなってしまう。本当に"掃除"する必要が出てきます」
確かにそうだ。母さん達はすぐ神に祈っていて、自分たちで解決することを放棄している気がする。
そうだ。一つ気になることがあるんだった。
「ヘラ──様。質問してもよろしいでしょうか。先程言っていた"掃除"というのは、一体……」
ヘラは微笑みながら一言だけ言う。
「人間の世界には『ノアの方舟』という物語があるようですね」
……たぶん、今の俺の顔は青ざめているんだろう。
「それはともかく、我が夫とあろう者がまたも人間とのヘミテオスを作っていたとは、驚きです」
ヘラがゼウスに向かって言う。
「貴方の力は強大です。故に世界のバランスを崩しかねない。今回の件は助けられましたが、例外は認めません」
ゼウスが俺にこっそり耳打ちする。
「お前には黙っていたが、お前の親父は俺なんだ。俺は自分の息子を殺されたくない。合図をしたら、ヘラの時間を止めて逃げろ。後は俺が何とかする」
衝撃発言だった。まさか、あのゼウスが行方不明の親父だったなんて。
「親子でのお別れは終わったようですね。それでは、ユピテリアのルーシュよ。お礼を申し上げると共に、安らかな眠りを──」
「今だ!ルーシュ!」
ゼウスの合図だ。俺はヘラに意識を集中させる。
「──成功だな」
ヘラの時間が止まったようだ。
俺は城の門を開け、明るい陽射しを全身で感じる。
ゼウス以外の全ての神を敵にまわしたかもしれない。それでも、なんだか大丈夫な気がする。俺は、これから世界最大の逃亡生活をするんだ。
ヘラの声が聞こえた。ゼウスと言い争う声が聞こえる。
俺は、世界の果てに向けて走り出す。
Fin
ここまで読んでくれて本当に感謝です。
"Fin"と書いてある通り、第二部はこれまでとは違う話になります。ただ、第一部より第二部、第二部より第三部が盛り上がるはずなので、これからも読んでいただけると非常にうれしいです。
次の本編投稿は11/27(火)です。気が向けば11/23(金)に裏話等をなろう限定で挙げようと思っています。
これからもよろしくお願いします。