永遠の夢
完結編です!
巨大な珠は、曲がりながら飛んでいく。
「私がサポートしましょう」
ヘルメスが杖を振りかざす。すると、杖に絡みついていた二匹の蛇が飛び出し、珠を囲うように並んだ。
蛇はカーブした珠をその体で弾き、軌道を修正する。さらに弾く時に力をかけているので、速度も上がっていく。
「や……メろ…………!」
カオスが闇を飛ばし、空間を曲げるが全て時間の珠に相殺される。蛇も自ら道を作り出してそれを回避する。
「私は旅人の守護神。旅人を塞ぐ障害は取り除くのだよ」
ヘルメスが呟くと、光の道が現れた。その中を直進する時間。
これは──
全てが、終わった。
時間が戻される。カオスと、彼が行った事象がリセットされる。
カオスの消したアレスも復活し、彼は不思議そうな顔をしている。
カオスは暴走以前の状態まで戻され、暴れていた闇も静かになった。
「勝った……」
誰かが呟いた。だが、歓声はあがらない。
俺の目の前に、1人の少年が倒れている。その立場上死ぬことは無いが、消耗することはある、存在。そして、この戦いで決して復活する可能性のない犠牲者でもある。
彼の名はクロノス──またの名をルーシュと言った。
自らの力を全て最期の一撃にかけて、その命をも撃ち抜いてしまった。
時間は無限である。それ故に彼は死なない。なのに、彼は風が吹けば飛んでいってしまいそうなほど弱々しく、動かなかった。
頬が熱い。俺は泣いているのか? 腕で拭おうとして、それが透けているのに気づいた。
「ここは元来、カオスの空間。彼が正気に戻った今、私達異界の者は本来在るべき場所へ還されます。また、クロノス殿が連れてきた十二神も──」
イザナミの言葉に、嗚咽が混じる。常に冷静だった彼女でさえ、思うところがあるのだろう……
「ルー──」
視界が白くなる。友に言葉をかけることさえ赦さないなんて、神はどれだけ意地が悪いんだろう。
鼻にくる消毒液の臭い。目を開けると、そこは病院だった。なんだか永い夢を見ていたような気がする。
どうしてこんな所にいるのか、ベッドから降りようとすると、全身に鋭い痛みが走った。布団の隙間から、包帯に包まれた腕が見える。
そうだ、確か、道路に飛び出した白い仔猫を庇って、トラックに──
白い仔猫。とても美しい猫だった。とても野良とは思えないその毛並み。無事だっただろうか。
あの猫と会ったのは、学校の帰り。ダンボール箱で捨てられていたのだ。俺は飼うことが出来ないから、確か友達に預かって貰おうと……いや、だとしたら、どうして事故に?
頬が熱い。何があった? 混乱して、何もわからない! そもそも俺の名前はなんだ!
「う……うわあぁああぁぁぁあ!!」
誰だ? 誰が叫んでいる? 叫んでいるのは……俺だ。
そして、俺は再び意識を失った。
『本来在るべき場所へ還されます』
退院して、学校へ通うようになっても、何故かその言葉が頭から離れなかった。誰の言葉かは分からないが、とても信頼できる人だったのは、何となくわかる。
「今日は転校生が来ます……」
担任の言葉も、深い水の底で聞いているかのようにぼんやりしている。
「はじめまして。父の仕事の都合で転校してきました、ルーシュ・ユピテルといいます」
その声だけが、クリアに聞こえた。
転校生は、金の短髪に蒼い目をしていて、吹き替えの外国映画を見ているような気分にもなる。
彼と目が合う。俺は、彼に会ったことがある。いや、それどころではなく、共に死線をさまよったこともある。そんな記憶はないが、確信はあった。
彼が微笑んだ。それは社交辞令だったかもしれない。ただ、俺にとっては「久しぶり」と言っている気がした。
了
お久しぶりです。狩野理穂です。
このたびオリンポスクエストが無事完結したことについて、読者の皆様に深く感謝申し上げます。
ここまではとても長い道のりでした。一時は書くこともあきらめていました。しかし少なくとも何名かは読んでくださっている人がいることを胸に、キーボードをたたきました。
わたしには幾つか新作のネタがあります。しかし、来年は入試があり、私にも胸を張って言える目標ができてきました。なので、このネタが日の目を見るのは私が大学に合格してからになるでしょう。
現在、私はノベルアップ+様にて僭越ながらブログのようなものを細々と書かせていただいています。私の文章を見たいという方がもしいらっしゃれば、こちらに私は居ます。
本当にここまでありがとうございました。




