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Olympus Quest  作者: 狩野理穂
Olympus Quest 2
32/34

正気

完結まで突っ走れ! 第二弾です。

 闇の中にルーシュが居た。彼は今、一人でカオスに向き合っていた。それだけでも、今のルーシュの力がわかる。同等か、それ以上か……

 突如、カオスがルーシュに闇を飛ばした。吹き飛ばされるルーシュ。だが、その体が落ちる前に元の位置に戻っていた。さらにそれだけではなく、カオスが飛ばした闇さえも逆流し、カオスに吸収された。


「きみたち、邪魔だよ。ぼくの戦いを邪魔しないでくれ」


 俺たちに気づいたルーシュが片手を伸ばす。その指先から発生する半透明の球体。彼は軽く手を振り、球体を飛ばす。


「危ない!」


 イザナギが俺を覆う。イザナギに当たる球体。球体が当たった部分の服がみるみる朽ちていく。

 そうだ。今のルーシュは時の神、クロノス。その能力を含むモノで時間を急速に経過させたのか。あれ? だとしたら、どうしてイザナギは無事なんだ?


「私は神だからね。寿命なんて野暮なものは存在しないんだ。我々が死ぬ時は、我々を知る者が居なくなる時かな」


 彼は歯を見せながら笑う。だが、その笑顔は苦悶に歪んでいるのを隠しきれていない。

 考えろ──どうしたらこの状況を打開できる? 今まではルーシュや他の神が考え、ルーシュが動き、俺がサポートしてきた。ただ、今回は別だ。俺が自ら動かなければならない。イザナギも無敵ではないし、俺なんてここでは風が吹けば倒れる程度の存在。

 結論。彼を倒すのは不可能だ。

 古代ギリシャでもそうだったが、そもそも彼に攻撃を当てるのが難しい。そこにカオスの攻撃。仮に当たっても、全て巻き戻されることが証明されてしまった。


「ナ……んだ…………てキふえタ……?」


 まずい! カオスに気づかれた! ただでさえ無理難題を押し付けられているのに!

 カオスのオーラが強くなる。まるで押しつぶされそうだ。

 闇を弾丸のように連続して打ち出すカオス。それらを弾いたイザナギが膝をつく。もう彼も厳しいところに来ているだろう。

 続けて闇の弾丸が飛んでくる。死ぬ──

 そのときだった。その弾丸を跳ね返すものがあった。ルーシュだ。

 右腕を僕らの前方に伸ばし、彼は時間の塊で空間の歪みを弾いた。当のルーシュも不思議そうな顔をしている。

 もしかして、ルーシュもとい中野晴としての意識は残っているのではないだろうか。基本的に時間は不可逆。それが神にも適応されるとしたら、時間移動はできてもその体内時間──つまり記憶や経験は消えないのではないだろうか。

 もしこの仮説が正しければ、その記憶を呼び出すチャンスは、動揺している今しかない!

 イザナギは警戒されているし、大分ダメージを負っているから使えない。他には誰もいない。ならば、俺しかいない!

 どう動くのが正解か。少ない選択肢と答えの中で、解答権は一度のみ。一度でも失敗したら、もうチャンスはない。全滅──言葉通り、全世界が滅び行く。

 その時。俺の脳裏に、ある漫画のワンシーンが浮かんだ。それは、暴走した友人を助けるために主人公がキスをするものだ。

 もっとマトモな方法があるかもしれない。というか、恐らくマトモなものの方が多いだろう。ただ俺はもう、これしか思いつかなかった。

 俺はイザナギの背後から飛び出し、ルーシュに向かって一直線に走る。


「ぼくの所に来るな!」


 弾丸が連続して飛んでくる。しかし慌てて、狙いも定めずに放たれたそれは僕の服を掠り、劣化させただけだった。

 ルーシュの2m前方、俺は姿勢を低くして、飛んだ。彼の腰に決まったタックルは彼の重心を崩し、倒した。ここで油断してはいけない。早く、正確にキメる──

 童貞にしては頑張ったと思う。

 俺は彼の唇を奪い、目を塞いだ。神経を口に集中させてより強い動揺を呼ぶ。彼は暴れたが、時を戻そうとはしない。もうすぐ、もうす

 気づけば、視界が反転していた。殴り飛ばされたと気づき、全身に痛みが広がる。


「バカ! 何やってんだよ!」


 真っ赤な顔をしたルーシュが俺に言う。この口調、反応。もしかすると。


「お前の名前はなんだ?」

「は? 何言ってんだよ」

「いいから。答えてくれ」

「……ルーシュ・ユピテル」


 やった! 正気を取り戻した! 成功したんだ!


「何があったんだよ。……って、あの人、イザナギさんじゃねえか」


 俺は、カオスと闘ったあとの話をルーシュにした。ルーシュの顔色がどんどん青くなる。


「それでキスを……」


 口元を抑えるルーシュ。だが、その目に嫌悪している様子はなく、どちらかと言えば感謝しているようだ。


「まあ、ありがとな。おかげで全部思い出した。だから、こんなことも出来る」


 ルーシュが両手を広げる。左右それぞれ、五本の指をつなぐような光の線が紡がれ、その線の間を埋めるように光の板が嵌っていく。


「さあ見てろ! これが時の神の能力だ!」


 光がいっそう強くなる。一体何か起こるんだ……!

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