救済
どうも、狩野理穂です。
現在、大変多忙につき執筆が困難となっています。今週の金曜日は出せると思いますが、いつ休むことになるか……
「まったく……私も暇ではないのですから、あまり手間をかけさせないでください」
イザナミの声が聞こえる。俺はアテナに、完全に殺されたんじゃないのか?
そっと目を開けると、そこには長いロープを持ったイザナミ。そのロープは俺の腰に結んである。
「このロープは、なんですか?」
「まずはお礼を言うところでしょう。礼儀を守りなさい」
「ありがとうございます。……で、このロープは?」
イザナミは大きく溜息をつき、続けた。
「このロープは、言葉通り『命綱』です。貴方の魂を縛り付け、肉体に留める役割を担っています。そして、これに触ることができるのは神界を含めても私のみ。まさに、最後の切り札です」
もしかして、イザナミが俺を助けてくれたのか?
「正直に言えば、私は貴方がどこで野垂れ死のうが関係ありません。しかし、彼が貴方に会いたいというので、ここに呼び戻しました」
「彼?」
「会えば自ずと解ります──どうやら、彼も来たようですよ」
彼とは誰なのか。俺はイザナミが指す方を見る。
「ヤァ、少年。君が立原響クンかな?」
そこには、片手をあげて歩いてくる男がいた。どことなくイザナミに似ているような気がする。
以前、イザナミが「亡霊は自我を失っている」と言っていた。ここに居る男はしっかり話をできているから、亡霊ではない。つまり俺みたいに招かれた人物か神ということになる。その上でイザナミが『彼』と呼び、願いを聞き入れるほどに慕っている存在。十中八九、彼はイザナギだろう。
しかし、だとしてもどうして俺と会いたかったんだろうか。全く予想がつかない。
「えっとだね……君は、冥界にいると過去改変の影響を受けないことは知っているかな? だとしたら話は早い。過去にルーシュ君がニュクスとガイアを倒したとき、大きく歴史が動いたんだ。その時、彼女は東京タワーにいる世界線だったからそこの記憶は無いが、僕は冥界に閉じ込められていた。寧ろ、ニュクスに激しい憎悪を抱いていた。だが、当時のカオスとルーシュ君のおかげで無事に彼女を救えた。つまり、彼らには大きな恩義があるんだ」
「つまり……?」
「君に協力させてくれ」
驚いた。まさか、神の方から協力してくれると言ってくるとは。しかもイザナギといったら、古事記に載っている創造神の片割れじゃないか!
ここで断る理由はない。しかし──
「俺はミスをしました。もう過去に行く資格はありません……」
そうだ。俺はイザナミと、もう失敗しないと約束をした。たとえそれが口約束であっても一種の契約。破ることは許されない。
「それを心配する必要はありません。確かにあの契約はありますが、そもそも貴方は失敗しましたか? 貴方の行動はそれほどの影響も及ぼさなかったし、何よりあれは時間を間違えた私の失敗です。つまり、貴方は契約を破っていません。行ってくれますよね?」
疑問形にはなっているが、有無を言わせない口調。はっきり言って、反則技だ。俺は頷くしかない。
「今後の計画を発表します。これまでの時間旅行によって、カオスの暴走の否定とオリンポス神の協力は非常に困難と判明しました。したがって、一時的にルーシュさんの保護を優先します」
イザナミが言った。どういうことだ? ルーシュは消えて、取り戻すためには過去を変える──すなわちカオスを倒さないとだめなんじゃないのか?
「私も、最初は驚きました。過去の世界に現在のカオスの気配が現れたのです。しかし今の状態だと、ただでさえ繊細な時間移動が成功するはずがありません。カオスに接触したのは私と貴方、残りはルーシュさんです」
「そんな……アイツは生きていたのか⁉」
首を横に振るイザナミ。イザナギはなにか難しい顔をしている。
「イザナミの話によると、ルーシュ君はカオスに消されたらしいね。だが、それは精神体だけで、肉体は現世に置いてきている。何かしらのトラブルに巻き込まれたにせよ、世界で存在を保持できるはずがない……なるほど」
「イザナギ。行くのですか」
「ああ。少々面倒なことになっているかもしれない」
イザナギが立ち上がる。ルーシュの行方が気になる俺も、もちろんだ。
イザナミから宝玉を受け取る。……あれ? なんだか、前と色が違う気がする。
「翻訳機能──といえば大袈裟ですが、最低でもギリシャ語程度はわかるようにしておきました」
それはありがたい。今のままだったらいずれ敵対することになるアテナとしか喋れなかったからな。
宝玉が光る。ポイントをカオスの気配にしておいたから、今度は間違えることはないだろう。
球が一層強く光り、視界が白く埋め尽くされる…………
「ミノタウロスが出たぞ!」
最後の一文、どこかで見覚えがありませんか?もし無いようならば、第一部を読んでみてくださいね
次回投稿は5/17(予定)です




