失敗
どうも、狩野理穂です。
この話は約一時間前に書きあがりました。もっと余裕を持たないとだめですね……
暗闇を抜けて、荒野に辿り着く。するとそこにはイザナミが立っていた。
「……何をしたのですか」
「えっと……世界を救った?」
大きく溜息をつくイザナミ。怒っているというよりは、呆れている感じだ。俺は何かやらかしたのか?
「私はここに居ましたから影響は無かったのですが、貴方の居た世界は先程消え去りました」
なんだって! カオスの覚醒に間に合わなかったのか……
「幸か不幸か世界を滅ぼしたのはカオスではありません。貴方です」
俺が滅ぼした? いったいどういう意味なんだ! 俺は世界を救おうとしただけだ!
──と、そのとき。俺の頭の中にある光景が甦った。
オリンポス神に会った時の、アテナからの警告。神殿でのアテナにかけた言葉。
アテナが俺の言葉を聞いて、アテが種を撒かなければオリンポス神が引退することもない。つまり、タイムパラドックスが起きる──
「解りましたか? ガイアが暴走して神々が消え去る過去は必要不可欠なのです」
俺は──俺はなんてことをしてしまったんだ。そんなこと知らなかったで許されるようなことではない。きちんと考えればこうなることを防げたはずだ。なのに、俺はそれを怠った。
どんな失敗をしても時間を戻せば、歴史を書き換えれば何とでもなる。確かにその通りだが、アテナが言うようにどんなにやり直せても死ぬことには変わらない。それが歴史という結果につながらないだけで、その事実は存在する。それをどこかで軽く考えていたが、いざとなって実感した。やり直すことができても、俺の知っている世界は消え去ってしまった。
今生き返ったとして、そこは俺がいるべき世界ではない。過去の俺が古代ギリシャでアテナに助言をし、アテが消滅して、現代でも神がすべてを操っている世界だ。その住人は科学を愚弄し、魔女狩りの餌食にするだろう。
俺が古代ギリシャに行った過去は変わらない。変えてはならない。その事象に触れたとたん、この俺は居なくなる。つまり、それより過去に行っても無駄になる、むしろ悪化する可能性も十分にある。ならば次に変えるべきところはわかってくる。俺がいた世界に、科学の発達した世界に戻すために、アテに狂気の種を撒かせる。
「どうやら答えが出たようですね」
イザナミが言う。まだ声に怒りが混ざっているが、先ほどよりかは穏やかだ。
「次は失敗しません」
「また失敗した際には、貴方を此処から出しません」
イザナミが両手を組み合わせて陣をつくる。視界が白く染まっていく──
目を開けると、そこは俺が失敗をした神殿だった。
コツコツと、大理石の床歩く足音。これは聞き覚えがある。アテナのものだ。
「し、失礼します!」
アテナのところに駆け足で、しかし足音を立てないように向かい、声をかける。
声をかけられたアテナは眉をひそめ、俺の先の行動を伺っている。この様子だと、まだ捕まった俺には会っていないだろう。
「えっと……この先、俺にそっくりな人に会うと思います。でも、たとえその人が何を言っても信用しないでください」
これだけ釘を刺せば大丈夫か……? これでアテナが過去の俺を信用しなければアテの策略は成功して、歴史が元に戻るはずだ。
「何故ですか?」
「え?」
何故って、どういうことだ?
「貴方の『何を言っても』という仮定から、その人物は私たちの得になることを言うと判断できます。それを信用させないとすると、貴方は敵軍の雑兵である可能性が高くなる」
「得なように見せかけて、実は相手への利益が大きくなることもあります」
「それはありません。私は戦術の神ですよ? 戦に関しては相手の視線、呼吸、脈拍から真偽を読みとれます」
「…………」
「なにより、得に見せかけられるということは、それが少しは我らの得になることは確かです。ならば一度信用してみるのも、また一興。もともと勝利が確定された戦なのですから」
そうだった。話によると、この戦争は大国の連合軍と小さい国の集合体が戦っているようなもの。結果は、ご存知の通りだ。
しかもアテナの洞察力を完全に舐めていた。まさかここまでとは思っていなかった。
「理解しましたか? もし理解してくれたのなら、一つ問題を出しましょう。『どうして私がこんなにゆっくり立ち話をしているか』。わかりますか?」
いわれてみれば、確かにおかしい。手に巻物を持っていることから、それをこの後使うか、片付けるかだろう。しかも戦争の途中だ。余裕があるからといって、緊張感がなさすぎる。
「時間切れです。答えは、私が貴方を直ぐに殺せるから──単純でしょう?」
「なっ……」
「貴方にとっては悪い知らせですが、どうやら手遅れだったようですね。『アテに注意しろ』でしたっけ? 当たり前のことですが、強い力を持った我々にとっては盲点になり得る場所。忠告承ったと、あの世で伝えてくださいね」
手遅れだった──その事実を未だ呑み込めない。だとしたらあの表情は……?
「貴方を見たときは驚きましたよ。殺せと命じた者が目の前に現れるなんて。しかも実体がある。敵兵の変装だと気づくのに時間がかかりました」
アレは、そういうことだったのか!
アテナが俺の頭にそっと手を乗せる。小さかった頃に母親によくやられたのを思い出す。だが、彼女の目を見た途端、全身の鳥肌が立った。殺意に満ちた、瞳孔の開いた眼。
「死になさい」
アテナの声が、まるで水中で聞くかのようにぼんやりとしか聞こえない。
俺はまた失敗したのか……?
全身が引っ張られるような感覚に襲われる。俺の意識は、消滅した。
いつになるかはわかりませんが、この第三部の設定集を投稿します。おそらく、原稿が間に合わなかったときでしょう。
また、私は優良なる学生なので、定期考査前は更新が止まります。その点につきましてはご容赦ください。
次回投稿は5/10です。




