三題噺(ナタデココ、日本刀、蠍)
「で、あなた達何してるの?」
帰宅して私が見たのは赤髪の可愛らしい顔をしてフリフリの洋服を着た人が青髪の短髪でボーイシュな服を着た人の上に乗っている様子だった。
青髪の人は手足をばたつかせ必死にもがいている。
「なんと人生は儚きことか。」
そう遠い目付きで達観したことを呟く赤髪の子。
いやいや、質問に答えてないから。
「ナタデココつまみ食いしただけで終わる人生なんてやだー!!」
青髪の子の叫びで私は状況を察したので
「じゃあ、二人とも適度に済ませなさいよ?」
そう言って夕飯の準備をはじめ……
「いや!助けてよ!」
とりあえず、私のデザートとして用意していたプリンを赤髪の子ことミキに渡すことにより和平は成立した。
いや、私が無駄に被害被っただけだけど。
「ほんと、ごめん!歌のお仕事で今度お金入るから。入ったら返すね。」
そう、青髪の子ことアクアはいう。
手を合わせ拝むようだ。
「もういいわよ。気にしてないし。」
私が投げやりにいうと
「ほんと?なら、返さない!やったー!」
と飛び上がった。
あとで、またミキを上に乗せてやろう。
私がそんなこと画策していうと
「そういえば、ミキ軽くなった?」
と当の本人はおもいだしたかのように聞いた。
「2t。」
プリンをはむはむしながらミキは答える。
「わー、1tも痩せたねー。」
なんて、にこやかに話しているが1tとは1000キロの事なのでミキの体重は2000キログラムということになる。
特に太っているわけでもない彼女にどこにそんな体重になる要素があるのだろうか?
そもそもそれで床が抜けないとかそれが上に乗って死なないアクアとかつっこんではいけない部分とわかりつつも気になってしまう。
ダメだ。考えたらダメだ。
そう思い雑念を払おうと頭を振った。
「うわ!どうしたの!?」
アクアに真面目に心配された。
さて、私たちは3人で同じ寮に暮らしている。
相室メンバーだ。
この寮は芸能事務所から貸し出されており、私たちはそこに所属するタレントということになる。
ちなみに、みんな歌手だ。
つまるところ、みんなライバルということになる。
正統派歌手として売り出している私ユカ。
おっとり不思議系で売り出しているミキ。
そして、元気キャラで売り出しているアクアである。
今のところ誰が一番売れてるということはなくみんなそれなりのお仕事が舞い込んでいる。
なので、そこまでギスギスしてない。
まぁ、三人とも家計は火の車ではあるが。
こたつを囲んでだらだらしてると
「そういえばさ、私たちのCDっていくらくらい印税入るの?」
そんな生々しい話をアクアが切り出す。
「売上の1パーセントよ。」
「すくな!痛っ!」
周りの少なさにアクアは飛び上がる。
そして、コタツに膝をぶつけた。
大きな音がなり、それにミキの肩が揺れる。
あれ痛いのよね。
「作詞、作曲家は十パー貰えるらしいけどね。」
まぁ、これは聞いた話ではあるが……。
「いいなー。私も作詞くらい出来ないかなー。」
膝をさすりながらアクアは呟いた。
出来たら苦労しないだろう。
「まぁ、私たちの歌がメジャーデビューするのはいつになるかも分からないけどね。」
見た目通りの可愛らしい声でミキは容赦ない言葉で私たちを刺す。
というか、自分も刺しているし。
武士が日本刀で腹切るみたいになってるし。
切腹は短刀でするんだっけ?
「まぁ、ライブでもとんとんらしいしこの業界で生きるのは難しいわね。」
そう言ってこたつの上にあるミカンを一つ取り剥き剥きし始めた。
なんかどっと疲れた。
私が肩を回すと肩からはポキポキと軽快な音が鳴る。
ちなみにこの音骨の周りが爆発してる音らしい。
アクアは気分を変えるためかテレビを付けた。
テレビでは蛇を飼っているという女の人がニコニコしながら蛇を紹介している。
「蛇ねー。飼うなら犬がいいなー。」
アクアがそう言うと
「ペットオッケーらしいから。飼うのはいいわよ。」
剥いたみかんを口に運びながらミキは言う。
「犬とか猫とかうるさいから。やめて欲しいわ。」
個人的に動物は苦手なので私は牽制を入れる。
「日本で飼うからそれこそさっき紹介されてた蛇なんかいいわよね。静かだしケージ内で飼えるから。場所取らないし。品種によるけど買いやすいし。」
「それなら、私は蠍がいいわ。動物苦手なの。」
私がそう言うとミキはきっと目を細め
「蛇は近くでみると結構可愛らしい目付きしてるんですよ。」
と蛇案を推してくる。
「蠍だって可愛いところありますー。」
私がそう返すと
「なら、上げてみなさいよ。」
と喧嘩腰に言って
「いや、冷静に考えて蛇も蠍も女の子の部屋としてありえないから!」
アクアの一言が全てだった。
ミキは少し微妙な顔してたが。
「そういえば、嫌われやすいものの例えに蛇蝎って言葉あるけど蛇はともかく蠍は日本にいないよね」
アクアの言葉になるほどと思っているとインターホンがなった。
ミキがすっと立ち上がり玄関に向かう。
事務所の人の声が聞こえ少し話を交わしたあと戻ってきた。
「どったの?」
アクアが首を傾げるとミキは
「この前のイベントの報酬。」
それだけ話すと手にもっていた封筒を開いた。
その時私は見てしまったのだ。
封筒宛名を。
「ねえ……?ミキ……?」
私の声が自然と震える。
「なにかしら?」
ミキは自然な感じで可愛らしく首をかしげた。
「宛名なんだけどさ」
私が封筒を指さすとミキはバツの悪そうな顔をした。
聞きたくないけど私は意を決して声を出す。
「幹 春男ってあなた……男?」
「ええ、そうよ。」
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