ニキシーとエピローグ
【闘技場】ドロクサーガ Part280【壊れました】
564:名も無き没入者
もうそろそろログインしても平気ですか? 今死にたくないんですが・・・
565:名も無き没入者
>>564
今おわった
566:名も無き没入者
チート大戦だったわ
567:名も無き没入者
やっとくじの引き換えができるぞー!
568:名も無き没入者
ニキシーたんハァハァ
569:名も無き没入者
ファナは大赤字だろうなザマァwwwww
570:名も無き没入者
>>565
見れなかったから詳しく
571:名も無き没入者
>>568
最後のほうめっちゃ怖かったけどアイツなんなの・・・
ていうかどこいったの。ログアウトした?
572:名も無き没入者
>>571
そうだな、怖かったな。俺に任せておけ
573:名も無き没入者
>>570
砦ドラ出したところからでいいよな?
なんかニキシーがスキルひらめきまくって、
【封印剣】でそれを封印、パッシブ底上げしてまた通常攻撃で勝った
刀の未発見スキルが三つぐらい出た
574:名も無き没入者
>>572
ニキシーは俺のママだから
575:名も無き没入者
実際チートだろ。四連ひらめき四回もやるとかバレバレ
576:名も無き没入者
>>575
四連とか嘘乙
576:名も無き没入者
>>573
やっぱあの通常攻撃ってパッシブの強化なのか
いくつ封印してるんだよ・・・
577:名も無き没入者
>>576
嘘じゃねーよカニカンに聞けよ
いや嘘じゃねーけどチートだろどんな確率だよ
578:名も無き没入者
>>575
チートの手法示さなきゃチートの証明はできない
具体的にとは言わんが、この形式のゲームでなにをどうすんのよ
579:名も無き没入者
>>575
四連!? 実装されてたの?
580:名も無き没入者
レイドモンスターをテイムしてそのうえ人形化してたのはスルーでいいのか
581:名も無き没入者
やってる奴はやってるよ。お前らがしらないだけ
582:名も無き没入者
>>573
まじか。やっぱカニカンも言ってたとおり、封印って量じゃなくて質なのかね?
未発見ってことはランク高いんだろうし
583:名も無き没入者
カシミヤ売ってくださいモスファルにいます
584:名も無き没入者
>>580
人形化は十時間ぐらいでできたらしいぞ
585:名も無き没入者
>>582
可能性はあるよな。ちょっと試すか
586:名も無き没入者
ニキシーたんとフレンドになりたいのですが
587:名も無き没入者
サーバをハックしてるんじゃねえの?
588:名も無き没入者
くじ中止とか言われたんだけど
589:名も無き没入者
【悲報】景品を保管していた区画が壊されて流出、くじ【終了】
590:名も無き没入者
ニキシーだけどなんか質問ある?
591:名も無き没入者
>>590
靴のサイズは?
592:名も無き没入者
くじ中止とかふざけんなよwwwwなんのために起きてたんだよwwwwwww
593:名も無き没入者
>>590
何個スキルもってんの?
594:名も無き没入者
くじの景品が盗まれたらしい。てか持ってたやつが瓦礫に潰されて死んだとか
595:名も無き没入者
なんで一気に3スレも進んでるの・・・
596:名も無き没入者
>>583 これってbot?
◇ ◇ ◇
ドロクサーガの首都、ドロク。様々な施設があつまる大都市、その中の一軒の酒場。
ドアベルを鳴らして店内に入り込んだとたん、それはものすごい勢いで飛び掛ってきた。
「ニ゛ギジーさぁぁぁん!」
「おもッ……重いです、スタさん」
「え゛ぇ゛ぇ……し、心配しだんでずよぉ?」
抱きついて〈・x・〉をこすりつけてくるスタを、ニキシーはやんわり押しのけた。なんだか、〈・x・〉の下で湿っぽくて粘っこい音がしたので。――このゲーム、鼻水って出るんだろうか?
「久しぶりね」
「待ってたよ!」
セレリアとディーザンもカウンターから離れて出迎える。
「いろいろ話したいこともあったのに、二週間も何してたのさ?」
「闘技場から急にログアウトするから心配したのに、連絡とってもあまり話してくれないし」
「はぁ……まあ……いろいろ」
言えない。
――歯医者に通っていたなんて、口が避けても言えない。
要塞竜ごとイリシャを倒した後、限界を迎えてゲームから即時ログアウト。
ヘッドセットを外しもせず、視界ゼロのまま洗面所に向かって突っ伏して――カラン、と小さな音。
嫌な予感にようやくヘッドセットを取って鏡で確認したところ――奥歯が欠けていた。
あまりに強い意志はデバイスの制御を抜けて、現実の身体を動かす。
意識を保つためゲームの世界で歯を食いしばりまくっていたニキシーは、現実世界で奥歯を砕いていたのだ。
なんてこと、恥ずかしくて言えたものじゃない。
だから治療が終わるまでログインしなかったし、ゲームからも距離を置いていた。
――正直に言えば、戻るかどうかも考え物だった。
頭痛やめまいに数日は悩まされたし、実を言えば【封印剣】を放ったあたりからの記憶があいまいだ。記憶が飛んでいる――それに気づいたとき、ゾッとした。意識を手放してしまうことこそ、ニキシーがもっとも忌避するものだったからだ。
だが。
ニキシーはこちらに向けられた顔(一部覆面)を、ひとつひとつ見る。
毎日毎日、心配するメッセージを寄せてくれた者たち。
そのつながりはここにしかない。
――それに責任というものもある。あれだけの騒ぎを起こして、無関係を主張してフェードアウトできるほど、ニキシーは図太くない。
そして『約束』もある。それが最後の一押しになって、ニキシーはゲームにログインした。
「あれからどうなりましたか」
ニキシーはカウンターに座って問いかける。酒は注文しなかった。空気だから。……なぜかセレリアとディーザンの席にはグラスが置いてあったが。
「メールでも送ったけど、とにかくファナティックムーンが大変なことになってるよ。闘技場が壊れたし、NPCには死傷者も出たからね。莫大な賠償金を国――ドロシア王国から請求されてる」
「自業自得よね」
「イリシャさんが壊したようなもんですものねぇ」
要塞竜を解放しなければ起こりえなかった事件なのだ。
そういう意味でも、ニキシーは少し責任を感じている。容赦なく決着をつければ、ここまでひどいことにはならなかったのだと。
「そう考える人もファナティックムーンのクランメンバーにも多かったみたいで、クランからかなりのプレーヤーが離脱したらしい。所属してたら賠償金の支払いに協力させられるだろうからって、それを嫌がったってこと」
「それは……自由に抜けられるものなんですか? クランって」
「マスターかその権限のあるひとしか無理ですよぉ」
まあ自由に抜けられるなら、スタはとっくに全裸クランの『スターカーズ』から抜けているだろう。
「では?」
「イリシャ自身が、脱退を認めてるらしいよ。自分の責任だからって。クランに残ってもこの件に関しての資金の徴収はしないとも言ってるってさ。そんなわけで、完全に解散はしてないけど――最大クランからは一気に転落したね」
「そうですか……」
「初心者支援も活発なクランだったから、影響は大きいよ。いやまあその初心者が少ないんだけどね? 調教済みの馬とか、武器とか防具とか触媒、消耗品とか……全般的に値上がり傾向にあるんだけど、安値で出されてた初心者支援の物品が特に供給量が落ちてるかな」
闘技場の再建のためにNPCの人員も多数動いており、その影響で人手不足からNPCの生産品も値上がりしている。経済や物流がシステムに組み込まれているドロクサーガならではの現象といえた。
「プレーヤーはそのうち他のクランに落ち着くだろうから、生産品の供給も戻ってくるだろうけど……とにかく、しばらくは僕らの財布事情は厳しいことになるかな」
「……報酬はどうなりましたか? 確か、イリシャさんに勝てばもらえるはずだったんですが……さすがにまた恨みを買ってしまったから、ないでしょうか」
「代理で貰ってきたわよ」
当然、という顔をしてセレリアが言う。ディーザンが溜め息を吐きながら補足した。
「報酬は支払う、って連絡が来て……でも罠かもしれないからやめておこう、と言ったんだけど、セレリアがさ」
「貰う約束だったから貰うのは当然でしょう?」
「まあ、結果的にはすんなり支払ってもらえたし……クラン的にも、ニキシーにはもう構わないように、ってイリシャから指示があったらしいよ」
「へえ……」
意外だ。ログインしたらすぐにクランの者に殺されるのも覚悟していたのだが。
「ちなみにカフェの賠償金を払ったら、それでニキシーの分は全部なくなったわよ」
「……なるべく早く返済したかったので、それで構いません」
ニキシーが壊したことになっているカフェへの賠償金だ。借金になっていたが、それはとりあえず消えたことになる。責任の一つは、無事消えたようだ。
「値上がりで最初に決めた賠償金じゃ足りないなーって店員さんが困ってたのを、セレリアさんが自分の分でぽーんと足してくれたんですよぉ」
「ちょ……別に言わなくていいでしょ。そんな大した額じゃないし」
……消えてなかった。変なところでセレリアは面倒見がいいようだ。いずれ何らかの形で返さねば。
「そうでしたか。ありがとうございます」
「いいから。あーもうこうなるから黙っててって言ったのに」
「でへぇ、すいません」
しかし値上がりとは困ったことだ。予備の服があったからよかったものの、手持ちの武器もなく財布はほとんどスッカラカンなニキシーであった。
「それにしても、イリシャさんはお金持ちなんですね。国への賠償金を払ってなお、わたしたちへの報酬を支払えるなんて」
「いや……さすがにそれはないよ。かなりの額を借金にしたって聞いた」
さすがに額が大きすぎたらしい。わずかに残った側近と地道に活動して返済しているようだ、とディーザンは言葉を続けた。
「そう……ですか」
――違和感がある。
ニキシーは思考をめぐらせた。
こうしてイリシャの話を聞くと、道理の通った人物にしか聞こえない。というか『自分に関わること』を除けば判断に誤りはないし、かなり立派な人物のようにも思える。組織をまとめ、新人に手厚くするなど、単なるわがまま娘にできる仕事ではないだろう。
それに、借金の返済だ。この世界はゲームなのだから、やめようと思えばいつでもやめられる。借金返済の義務はゲーム外ではないのだから、やめてしまえばいいのだ。それで問題がないことは、アーシャに確認してある。
ゲームをどうしても続けたければ、新しいヘッドセットを買って別のキャラクターになればよい。それを返済に向けて活動しているのだから、根は真面目なのではないかと思う。
それなのに、決闘に至った流れ……何か違和感がある。考えすぎだろうか?
よっぽどミストキャットが楽しみだったとか、単に自分の顔が気に食わなかったとか、相性とか……そういう話かもしれないが……。
「あと、これはその……気にせず、でも聞いてほしいんだけど」
「あ……はい、なんですか?」
気にしないで聞けとは変な話だ。ニキシーが首をかしげると、ディーザンはセレリアの顔をうかがう。何か二人で取り決めでもあるのだろうか、二人とも頷いて話し始めた。
「闘技場でニキシーが戦ったじゃないか? それで、イリシャどころかフォートレスドラゴンまで倒すって偉業を成し遂げた。それが話題になったんだ。いったいどうやって、って」
百人がかりで倒すモンスターをひとりで倒したわけだから、相当な騒ぎになった。
「まあ解説の人がほぼ言い当ててたんだけど……それが逆にまずくて」
「まずい、とは?」
「スキル封印で【通常攻撃強化】を取る、っていうのがね……後先考えずにかなりの人数が試して……でも、あれって100個の完全封印でも170%しか上昇しないじゃないか? それで……」
「何も考えずにスキルを全部完全封印して、何もできなくなって引退した人がかなり出た、ってことよ」
「えぇ……」
後のドロクサーガのニュースサイトや歴史まとめブログの管理人が、『ニキシーショック』と名づけることになる事象である。
「いや、でも全員じゃないんだ。『膝に矢を受けてしまってな』ってノリで生産にまわる人も……」
「ひとりぐらいでしょ」
「そうだけど、フォローは必要っていうかさ」
「ニキシーのせいじゃないんだから、そもそも気にする必要はないじゃない。自己責任よ」
「そうですか……」
さすがに普通は250個もスキルを完全封印しているとは思わない。
有用なスキルを封印することが鍵では? という推測から始まり、さらにそれを完全封印しないといけないのでは? とほとんどやけっぱちのように検証が進んだ結果、起こってしまった事態だった。
「このゲームで全スキルを完全封印するなんて、そもそも引退を視野に入れてるか、よっぽどのニキシーよ。気にすることじゃないわ」
なんだろう、馬鹿にされている気がする。
「や、でも、もう大丈夫だよ。250個封印しないと同じ威力でないってスレに書き込んでおいたから」
「それ、信じてもらえた?」
「……250個ひらめけるわけないだろ、って言われたけど……少なくとも『ニキシー以外には無理』って結論にはなったみたいだから……」
熟練プレーヤーでも60個程度の世界なのだ。100個の時点で常識外れの幸運と言われていた。その2.5倍と言われてもなかなか信じられるものではない。
「あっ! そうそう! それのおかげってわけじゃないんだけど、聞かれてたことが分かったよ!」
「ふぇ? 聞かれてたこと……ってなんですかぁ? ディーザンさんだけずるいですよぉ」
「完全封印したスキルを使用した件だよ」
あの闘技場で、ニキシーは完全封印したはずのスキルをいくつか使用した。
それがなぜなのか、ディーザンに調査を依頼していたのだ。……三人の中でいちばん、心配して送ってくれるメッセージの内容がゲーム寄りすぎてよく分からないので、話題を逸らすために。
「結論から言うと、あれは仕様なんだ」
「……どういう仕様ですか」
「詰み防止っていう感じかな? ほら、派生スキルの話をしたじゃないか。例えば【三段斬り】は【二段斬り】とかの多段攻撃スキルからじゃないとひらめかないって」
言われた気がする。たしか……カフェを壊す直前ぐらいのことだ。
「完全封印したあとプレイする人が少なかったのと、この現象の確率自体が低かったのとで今まで判明してなかったんだと思う。派生元となるスキルがすべて完全封印されている場合、派生先のスキルはひらめけない……っていうのは、間違いだったんだ。実際はそういう状態になっている場合、通常攻撃で派生先のスキルのひらめき判定が行われて、ひらめく、となったら、派生元スキルのひらめきからひらめき攻撃が始まるんだよ」
「すいません、短くお願いできますか」
「えぇとぉ、【二段斬り】を完全封印していたら、通常攻撃で【二段斬り】をひらめいた風になった後に【三段斬り】を連続ひらめきする、てことですかぁ?」
「そういうことだね」
おせっかいというか、やっかいというか。
「ちなみに一時封印だと派生先スキルはひらめかないんだって。だから、『絶対に派生先をひらめかない』という状況を回避するための救済システムだと思うんだ。まあ、確率はすっごい低いんだけどさ。通常の百分の一ぐらいになるんじゃないかって検証勢は言ってて……」
なるほど、とニキシーは心得る。
そうか……もう完全封印はしないようにしよう、と。
「……そろそろ、いいかしら? ここから先が『聞いてほしい』ことなんだけど」
「はい」
『約束』だ。
そう、これを聞くためにここへ戻ってきたのだ。
セレリアが真剣な顔をして言い、ニキシーも姿勢を正して頷いた。
「ニキシーには気にしないで、って言ったし、そうしてほしいけど、あたしは気にしないといけないの。『引退者』についてね」
わざわざ自分が気にしそうな話をしたのだから、それが絡んでいる話だろうとは予想した。
しかし、それそのものだとは。
「あたしは……あたしがこのゲームを始めたきっかけはね。『引退者』を減らしたいからなの。ううん、違うわね。別に合わない人にやめるなとは言わない。……このゲームを遊ぶ人を増やしたいの。それで、ディーにも協力してもらってる」
「人を増やしたいから……ゲームを始めた? 順序が逆じゃないですか?」
例えばアーシャだってそうだ。一緒に遊ぶ人を増やしたい、とそう考えたから自分を誘ったのだ。
それが人を増やしたいからゲームを始める、というのはどういうことだろう?
「それは――」
セレリアは語り始める。
セレリアとディーザンの関係。このゲームとの関わり。アーシャを知ったこと。遠くない未来に待ち受ける終わり――行動に移ったきっかけ。
「――だから、ニキシーに協力してほしいのよ。あなたみたいなのが、このゲームを続けてどう感じるのか……それってきっと、『こっち側』からしか気づくことができないと思うから。これが、あの時言った『聞いてほしい話』」
みたいのが、とはなんだ、みたいのとは。
が、言いたいことはわかった。動機も理解できる。
そしておそらく、打ち明けるのも難しい話だと思う。これを他のプレーヤーが知れば、セレリアは普通にゲームすることはできないだろう。ディーザンのようなタイプが、そのあたりに配慮できているのが不思議なぐらいだ。よほど信頼しているのだろう。
そして、ニキシーも。セレリアの瞳には、間違いなく信頼の光があった。
――このゲームはひどい。
ひらめきとかスキルとかめんどくさいし、SPが切れればおぞましい感覚がおしよせる。
普通はそうなるまえに思考停止状態に陥るそうだが、意識を手放さないことを信条とするニキシーにはとことん辛い仕様だ。
だが逆に言えば、それさえなければ楽しいものだ。
みたことのない景色、思うがままに動く手足、普段とは違う感情を動かされる。
そして――ここにしかない新しいつながり。
「わかりました、わたしでいいのなら」
責任感とか、そういうものもあるが、とにかく言葉を単純にすれば――
「一緒にこの世界を知りましょう。セレリアさん、ディーザンさん」
仲間は多いほうが楽しい。ということだ。
「……ありがと、よろしくね」
「あ、あれぇ!? わたしは!?」
しまった、完全にうっかり忘れていた。〈・x・〉越しだが、泣きそうなのが分かる。
「……スタさんは……弟子なので当然ついてきますよね?」
「ニキシーししょうぅっ! づいでいぎま゛ずぅぅ!」
「え、なに、そういう関係なの? うわぁ」
ニキシーに抱きつくスタを見て、セレリアが上体を引く。ニキシーは遠い目をした。誤解はいずれ解かねば。
「でへぇ。そゆこと言って、セレリアさんも相当なファザ……」
「家族思い」
「えぇー、絶対それって」
「家族思い」
「でもさ、セレリアは実際そういうところが」
「ディー!」
打撃音。悲鳴と笑い、溜め息。にぎやかな旅の仲間に……ニキシーは顔がほころんだ。
「ああ、ところでニキシー」
「はい? なんでしょう」
「別に、普通に喋ってもいいのよ?」
――は?
「ほら闘技場で、後半……ブチギレてるのかなって思ったら、アーシャが、アレが素だって……」
『アーシャ』
ニキシーはフレンドチャットを飛ばす。
『アーシャ』
アーシャ・マオドラゴン(オンライン)
『アーシャ、ちょっと話があるのだが』
アーシャ・マオドラゴン(オフライン)
『覚悟しておけよ?』
◇ ◇ ◇
わたしの名前は能見西姫。ここドロクサーガの世界ではニキシー・ノウミィ、慣れ親しんだあだ名を本名としている。
長い付き合いになるアーシャに誘われてこの世界にやってきて、冒険者として生活している。
はじめはここまでこの世界にのめりこむとは思っていなかった。
風景はリアルだし、感触も――味覚を除けば現実の世界と大差ない。だがゲームはゲームなので、よくわからないめんどうくさいルールがたくさんあり、嫌でも現実との違いを突きつける。
だがそれらも含めて、今やわたしはこのゲームを『世界』として受け入れている。
ひとりならそんなことはなかっただろう。ちょっとした新体験をした、というぐらいで終わったと思う。
だが目標を共にする仲間ができて、意識が少しずつ変わっていったのだ。本気で、真剣に向き合うべき世界へと。
「あ、ポップした!」
「ニキシー、行ったわよ!」
セレリアとディーザンが声をかけてくる。前方から土煙を上げて、化け物が走ってきていた。
ダチョウみたいな体型のカメレオン? どこを見ているかわからない両目とだらしなく外に垂れた舌がおぞましいモンスターだ。ダメレオンとプレーヤーたちに名づけられている。少しかわいそうだ。
「わかりました」
わたしは答えて、身構える。
今日は騎乗用のモンスターを捕まえに来ている。
この世界は移動距離がいやにリアルで、徒歩だと拠点間の移動だけで数日プレイ時間が消費されてしまう。だから高速な移動手段を確保することが、脱初心者の一歩だという。
一般的な乗り物といえば、馬だが――絶滅した。
いや正確には絶滅していない。存在する。だが、野生馬はもういない。もしくは、とても珍しい。なぜかというと、この世界に存在するすべての馬が他のプレーヤーに確保されてしまったので、新しい馬が生まれないのだという。
よくわからないし、めんどうくさいが、これも仕様だという。そのせいで馬は高価なので、わたしたちには手が出せない。そこで今日は、騎乗が可能なモンスターを捕まえにきているのだ。ダメレオンは人気がないのか、比較的容易に見つかる。
すでに他のメンバーはダメレオンを確保済みで、わたしが最後だ。呼吸を整え、ダメレオンとの接触を待つ。
ドドドド……と頭を激しく振り、舌を振り回しながら走ってくるダメレオンを見据え――
「やあッ!」
軽く手刀を繰り出す。軽くだ。ほんの少し。いさめる程度――
バキッ!!
「あぁ~、また殺しちゃいましたねぇ」
ゴミ袋――〈・x・〉な袋を頭にかぶったシスター、スタが言う。
ダメレオンは叩いたところから真っ二つに折れて地面に倒れていた。
「あぁ……ダメかな、こりゃ」
「ダメでしょ」
馬のような動物と違って、モンスターを捕獲するためには、捕獲者自身がモンスターに一度ダメージを与える必要があるのだという。弱ったところで【調教】に入れるのだと。
で、わたしはさっきからダメレオンを殺しまくっていた。
別に特別なことはなにもしていない。
ただの通常攻撃だ。素手の。
……まさか、威力の上がった通常攻撃に、こんな落とし穴があるとは。
おのれ、ドロクサーガ。おのれ、ゲームのくせに。
「もうあきらめたら? あたしたちが捕獲したやつを譲ればいいでしょ?」
「乗って移動するだけなら、それで十分だと思うよ。まあ名づけができないとか細かいデメリットはいろいろあるんだけど――」
ディーザンが何かペラペラと喋り始めた。たぶん仕様のことだろう。最近になって、だいぶそういった解説が耳を素通りするようになってきた。必要なことだけ覚えておけばいい。
……名づけをしたかったんだが……ダメなら、仕方ない。
「……それでお願いします」
わたしができなくても、できる仲間にやってもらえばいいのだ。
ひとりではないからこそ、協力して。
思えば、こんなに周囲に仲間と言える人間がいたことはなかった。隣にはいつもアーシャがいたが、二人で孤立していたようなものだし、その後は一人で――
「じゃ、じゃ! 自分が名前付けてもいいですねぇ?」
「えっ? ああ、まあそれぐらい……」
「よーしっ! それじゃカワイイスタ……いや、カワイイヒメ……カシコイヒメ……」
ちょっと待て。
「かっこいいのにしようよ。僕のビジリアンディスペアーみたいに」
スペル間違ってる。
「ポチ七世とかでいいじゃない」
確かに六匹殺したけどもな?
◇ ◇ ◇
――わたしはニキシー・ノウミィ。ドロシア王国に生きる冒険者。
スキルとかめんどくさい。だから、通常攻撃を選んだ。
いま、乗り物もだいぶめんどくさくなった。
だからきっと――徒歩でも問題ないだろう。
仲間なんだし、一緒に歩いてくれるだろう、うん。
◇ ◇ ◇
ログ ??????
>思ったよりハデなイベントになったねぇ
>まさか闘技場壊しちゃうとは思わなかったけど
>いーじゃねえか、盛り上がったぜ、ここ最近じゃ一番の成果だ
>うまうま。火事場ドロめちゃうまよぉ
>足はつかないようにしてくださいよ
>しかしこれで『狂月』も退場か。伸び代は一番あると思っていたのだが
>やっぱ組織を抱えるとダメなんだってぇ。『黒男』も『全裸』も最近はおとなしいしさぁ
>いや、あいつはしぶといからな。まだわからん
>組織にいても『斧』はいい感じだろ?
>斧君はテンプレ化してる気がするなー
>それより今回の子の話しましょうよ
>ああ、いい拾い物をしたな。間違いなく因子持ちだろう
>やー、わからなかったねぇ……まさか持ってたとはさぁ
>予感はあったでしょう? でなければ話題に上がらなかったでしょうし
>まぁねえ。一発だもん
>こちらもあの状況から、もしかしたら、と思ったのですよ。長いこと潜っていた甲斐がありました。うまく誘導できたでしょう?
>ええ? お前が言う? 泣くぜぇ、月の字
>因子の観察としか考えてませんから、どうなろうと知りませんよ
>あの子は『剣聖』タイプかな? 剣聖はいじめすぎて引退しちゃったけど、あの子はいいね
>『泡』の連れなんだろう? ずいぶん近くに出たな
>泡姫も最近はおとなしいしなァ
>三年もすれば保守的になるか
>あんなにバックアップしたのですから、もっと暴れてくれないと困るんですけどね
>そういう意味では、闘技場を壊した狂月は大貢献だな。荒れるぞ、相場
>その原因はあの子じゃん
>なんて呼ぼうか。『乱数』?
>『通常攻撃』
>なげーよ。『サークラ』
>字数減らしたほうがかっこいいよぉ
>『幸運』……は『観光客』とかぶるか。『狂戦士』?『脳筋』かな?
>『不屈』
>そっちの方向か。
>不屈。ああ、いいな。折りたくなる
>折っちゃだめだって。剣聖君あんなに闘技場で活躍してたのにさー
>あまり一箇所にとどまられても、全体に波及しないですから
>んじゃ、『不屈』でいい?
>驚いたよね、SP切れで動き回るんだもんね
>ていうか一言だけ言ってあと黙るとかやめろよな……かっこいいじゃん
>無口キャラはいいよね
>では『不屈』で
>ひさびさの新しい因子かー、これで状況がもっと動いてくれるとなぁー
>見つけやすいと助かるのですがね
>役に立たなねえよなひきこもりも
>ま、ほっといても浮かんでくるのがそもそもの因子だしぃ? 探して見つかんないのはしかたないってぇ
>なんにせよがんばってもらいたいね。この世界のためにも
>あまり性急に動きすぎるなよ。壊れては元も子もない
>いーじゃねえか。壊れるぐらいしねえと面白くねえし。壊れたらそれはそれでな?
>ええ。壊れるときほど美しい、というものもありますからね
>三年は長すぎると思うし、そろそろねえ?
>あの子がねー、ちゃんと分かってくれればいいんだけど、ほんとヌルいから
>殺意がたりないんだよ。所詮は模造品さ
>そのくせ勘はいいからたちが悪い。おかげで古臭いチャット使わないといけねえし
>古臭くて悪かったですね。
>勘というか統計なのだろうな、中身は良くわからんが
>甘ちゃんてことは確実さあ。だからアタシらでかき回さないとね
>停滞すればその先に待つのは衰退ですから
>衰退だけはいかんな。おもしろくない
>楽しくしていこうぜぇ
>じゃ、不屈ちゃんの今後の活躍を祈って
>はいおつ~、おやすみ~
3ヶ月に渡り応援いただきありがとうございました。感想がいっぱいついたのは初めてで勉強になりましたし、幸せでした。
今後の予定ですが、番外編を最低1つは投稿して、いったん締めさせていただきます。
もう当初の予定はほとんど書きつくしてしまったのですが、アイディアが溜まることがあれば、旅の続きを細々と書いていけたらと思います。ほかに完結させたい作品もあるので、半年とか一年とかそれぐらい検討中になります。
最後にもう一度、ありがとうございました。また機会がありましたらよろしくお願いします。