ニキシーと方針(前)
【三周年イベント】ドロクサーガ Part275【なかったね】
431:名も無き没入者
ついに四連ひらめき達成者あらわる!!!!
432:名も無き没入者
――――――終了――――――
433:名も無き没入者
鉄が値下がりしてて辛い。はよ消費してくれ
434:431
待って待ってマジだから。マジでオーナインの達成者がでたんだって!
435:名も無き没入者
などと供述しており
436:名も無き没入者
三連以上は実装されてないって結論出ただろ
437:名も無き没入者
テンプレ
日時:
場所:
対象:
武器:
その他の状況:
ひらめき始点とひらめいたスキル:
438:431
日時:昼
場所:南ルーシグの羊の平原
対象:怒りの羊公爵
武器:斧
その他の状況:
ひらめき始点とひらめいたスキル:通常攻撃→切り倒し→相活殺斬→虚空斬→次元斬
439:名も無き没入者
オーナインとかw
440:名も無き没入者
嘘乙
441:名も無き没入者
切り倒し→相活殺斬とかどんだけスキップしてんだよ
442:名も無き没入者
チートスキル虚空斬のさらに上があると主張していくスタイル
443:名も無き没入者
斧の新技とかやめてください。ボンバーさんがまたひらめき道場にこもってしまいます
444:名も無き没入者
はいはい僕の考えた最強のスキル
445:名も無き没入者
カシミヤ誰か売ってくださいモスファルにいます
446:431
ウソじゃないってば!
447:名も無き没入者
急にスレが伸びているから何かと思ったらデマ情報だった。こんな過疎ゲーに熱心ですね
448:名も無き没入者
なんかつええモンスターとの戦闘なら信じると思ったんだろうけど、羊公爵はないわー
レイド企画されてないだろ? 何? 何人で行った設定?
449:431
>>448 3人だけどオーナイン決めた子がひとりで倒した
450:名も無き没入者
はいはい勇者様乙
451:名も無き没入者
第十次討伐隊で開幕即死した俺の悪口はそこまでだ
452:名も無き没入者
次元斬って何だよスキル図鑑に載ってねーぞ
こんなところに書き込んでないでさっさとギルドに報告してみろよ
453:名も無き没入者
>>451-452 特定しますた
454:名も無き没入者
今まで黙ってたけど10連ひらめきしてクリアしてたわ、すまんなみんな
455:名も無き没入者
通常攻撃→切り倒し(わかる
→相活殺斬(まあわかる
→虚空斬(?
→次元斬(???????wwwww
456:名も無き没入者
虚空斬が相活殺斬なんかからひらめけんの? ランクは高いけど羊でも足りないんじゃね?
457:名も無き没入者
まず3人で羊公爵起こしてソロ撃破してきたとかいう時点で信じられんわ
458:431
どうしたら信じてもらえるんだ……
459:名も無き没入者
このゲーム、動画もスクショも取れねーしな
まあお前が思ったんならそうなんだろ、お前の中ではな
460:名も無き没入者
>>458
真面目な話、スキル図鑑に派生元が虚空斬で次元斬(笑)を登録したら信じてやってもいいよ
461:名も無き没入者
カシミヤ誰か売ってくださいクレイウェルにいます
462:名も無き没入者
>>461 移動してるんじゃねーよしね
◇ ◇ ◇
ゲームにログインして、ニキシーは悩んだ。
インベントリーを確認して、溜め息を吐く。
「なぜだ……」
どうするべきか考え、助けを求めることにした。フレンドリストを開く。
アーシャ・マオドラゴン(オンライン)
バンカズ・モテンタイン(オフライン)
イーシャ・マオドラゴン(オフライン)
セレリア・セレミアナ(オンライン)
ディーザン・フォッサマグナ(オンライン)
『あ、ニキシーさん、ログインした? ちょっと話があるんだけどさ』
「すいません、ディーザンさん。後にしてください」
『あ……うん』
助けを求めるとしたら、アーシャかセレリアか。
まずはわずかな希望を胸に、アーシャにフレンドチャットを投げる。
「アーシャ、質問があるのだが。このゲームは他のプレーヤーに物を渡すことはできるのか?」
『あら、二日ぶりねニキシー。もちろん、できるわよ。バンカズから槍貰ったじゃない』
「そうだった。遠く離れた相手にも送れるのだろうか? 例えば、わたしからアーシャに」
『普通のゲームなら、メールに添付とかでアイテム送れるんだけどねぇ』
これはドロクサーガなのだ、と暗に言われる。
『配達を依頼することになるわね』
「配達」
『NPCの配達屋さんがいるから、それに渡すのよ。そうすると配達屋さんは徒歩なり馬なりで目的の町に行って、アイテムを届けてくれるわけ』
「つまり……時間がかかると」
『そうね。リアルの通販より遅いわよ。盗賊に襲われて荷物が奪われることもあるし』
「わかった、ありがとう」
ニキシーはアーシャとの通話を切り上げる。
頼めばアーシャはワープで飛んできてくれるだろうが、今は会いたくなかった。
となると、取れる手段は一つだけ。
「……セレリアさん、お願いがあるのですが」
ニキシーは精一杯猫をかぶってお願いするのだった。
◇ ◇ ◇
「……何してんの?」
南ルーシグの平原にたどりついたセレリアは、思わずそう呟いた。
「その、服を買って欲しいと言ったのはそういうわけで……」
羊毛を体に巻きつけながらニキシーは言う。
「ログインしたら下着姿で、インベントリーにも服がなくて」
「ああ……そう、そうだったわね」
羊公爵との戦闘の際、ニキシーは防具を破壊する代わりに致死ダメージを防ぐスキル【空蝉】をひらめいた。忍者系武器を装備していないとひらめかないのだが、ちょうどそのとき装備していた『初心者の鎖』がそのカテゴリーに当てはまる。
「というか、服って壊せるものなのね……」
『服』系装備は耐久度が0になっても、古臭いグラフィックになり、防御力がなくなるだけで破壊はされない。
そのうえで、『初心者の服』はさらに特殊な防具であった。
リアルで泥臭い世界観を演出するドロクサーガ。サービス開始当初、初心者町には下着姿のプレーヤーで溢れていた。ネズミにやられて死亡し、初期服を死体に残してしまったせいだ。ゴースト状態から蘇生すると一切の情欲が沸かないデザインの下着姿になってしまう。そのダサさからか、下着姿という恥ずかしさからか、とにかく下着姿で脱落するプレーヤーが大発生した。
それゆえ、初心者の服には特別にパッチがあてられる。死亡すると死体は服を着たままだが、ゴーストから蘇生しても服を着た状態になったのだ。そうすると服が無限増殖できるのでは? と一部プレーヤーが悪用しようと試みたが、死体からは初心者の服を脱がすことはできなくなっていた。
そういう、特殊な『防具』だった。
『防具』であり、耐久度が0になっても壊れないだけで、『破壊』は不可能ではない。ゆえに【空蝉】の対象となってダメージを防ぎ、破壊された。
で、ニキシーは下着姿で平原に出現したわけである。
「安いのでいいっていうから、防具屋で中古を買ってきたけど……」
「ありがとうございま――」
セレリアが取り出したのは、『農家の服(女)』。長袖の上下の下着とワンピースを重ね着したような、いかにも中世という感じの風情があるデザインだった。
無難なデザインのはずだった。血の染みで汚れていなければ。
「あの……血染めの服、というのは?」
「NPCを殺して奪って、それを売り払ったんでしょうね。まあ、鑑定しても痕跡がたどれなかったから、あたしの熟練度不足というより、時効だと思うわ。だから安心して着てちょうだい」
安心できない。ニキシーは服を手にしたまま固まっていた。
「何よ?」
「いや、いえ、その」
ニキシーは言葉をごまかすのが苦手だ。ましてや、猫かぶりモードでは無理に無理が重なる。
「呪われている、とか……?」
「鑑定したけど、ただの服よ。何の効果もない」
「その……」
「……もしかして」
セレリアは眉を寄せる。
「オカルトのほう? 殺された女の怨念が、とか?」
ニキシーは、黙っている。セレリアは――溜め息を吐いた。
「笑いを通り越してあきれたわ。あのね、これはゲームよ。プレーヤーは死んでも生き返るし、NPCはただのデータ、死んでもそのうち代わりがあらわれる。たとえ呪いや幽霊がいたとしたって、それもゲーム内で用意されたデータ。オカルトじゃないの」
わかってる。わかっているが、服の血の跡がやけにリアルなのだ。
一度でも着たら、怨霊にとりつかれて体を乗っ取られてしまう、ような――
「それともその下着姿で町に帰る?」
「着ます」
ニキシーは着た。インベントリーに入れて、装着を選択するだけだった。血染めの服で立ち上がり、羊毛をインベントリーにしまう。
それほどまでに、ドロクサーガのデフォルトの下着は、ダサかった。
◇ ◇ ◇
「それにしても一昨日は心配したんだから」
南ルーシグへ向かって移動しながら、セレリアは話しかける。
「あのでかい羊の化け物を倒したと思ったら、急に消えちゃうし、次の日はログインしてこないし。いったいどうしたっていうの?」
「あの日は……」
モンスターが道を阻むと、セレリアがスキルを使って倒していく。武器を全部失ったニキシーは後方で見ているだけだ。セレリアは新しいスキルをひらめいたのか、反撃を受けることなく片をつける。おかげで、おしゃべりする余裕は十分にあった。
「すごく、気持ち悪くなって。気づいたらログアウトしてました」
「え……どういうこと? あの日は、大技を連発してたけど――ただのSP切れよね? 強制ログアウトが発生するようなことはないと思うんだけど……」
世界初の完全没入型VRMMORPGであるドロクサーガは、デザインは古臭いが業界において一定の評価を得ている。それは没入型における安全規定をきっちり作り上げ、法を通した上でサービスインしたことだ。後発の没入型は、すべてこのドロクサーガの安全規定を遵守することになっている。
規定のひとつ。精神変調の禁止。
全身の神経感覚をごまかして没入するということは、実は『やろうと思えばかなり危ないこともできてしまう』ことである。前時代のフィクションで散々扱われたように、ログアウト不可のデスゲームだって不可能ではない。
そういうわけで様々な安全規定がとられた。そのひとつの精神変調の禁止は、一定以上の精神的影響を禁止するものだ。例えば、『強制的に』楽しい気持ちにするような――『電子ドラッグ』化を防ぐ、といえば分かりやすいだろう。
楽しいと思わせるようなイベントは起こしてもよい。だが、神経感覚をごまかして楽しいと思い込ませてはいけない。
SP枯渇による思考力低下が、許されるギリギリの範囲である。それ以上のこと――気持ち悪いだの気絶するだのまでは、やってはいけない。
むしろ精神や体調に異変が生じたら、瞬時にログアウトさせて現実に帰還させるのも、安全規定のひとつである。
「動きが激しかったから……酔ったのかもしれないですね」
「ああ。VR酔いは仕方ないわね。スキルの動きとか、人間離れしてるし」
とは言ったものの、ニキシーはそうではない気がしていた。車酔いなら少し休めば治るのに、今回は丸一日寝込んでしまった。頭痛がひどく、物を食べるのでさえ億劫だった。
こんなことが起きるなら、もうログインしなくても――そうも考えたのだが。
「もうそろそろ町ね。あーSP使うと疲れる。ディーが食堂で席取ってるっていうから、さっさと行きましょう。ディーもずっと、あんたのこと心配してたんだからね」
この二人の新しい友人に、黙って消えていくわけにもいかなかった。




