5話 お気に入り
sideツムギ
慧音さんと別れ、私は人通りのない道へと戻ってきた。日も真上に近くなると、この路地も少しばかり明るくなり、微かな生気を取り戻す。それもあり、私はこの時間がお気に入りだった。
家まで目と鼻の先、店の看板の文字が見えるようになるくらいになり、私は、はぁ……と息を吐き、一言。
「いるんでしょ?覗き見はやめてって言ったじゃん。」
一息あけ、放つ。
「…………母さん。」
side紫
「…………母さん。」
相変わらずの勘の良さに、私は思わずニヤついていた。完全にスキマの中に隠れていたのに、こうもあっさりと見破れる人は、昔からの付き合いで、私の気配を探れる萃香や幽々子。または相当の使い手に限られる。が、この娘はそれを無視して私の存在を言い当てた。というか、今まで私がスキマを使ってツムギに近づいた時は、その全てにおいて完全に見破られてしまっている。自分の実力に確かな自信を持つ私は、当然それを打ち破ったツムギに興味を持ち、こうして近寄っているというわけだ。
母さん、というのは、捨てられていた(?)赤子だった頃のツムギを里で拾った時に呼ばれたから、それが今まで続いているというだけの話だ。スキマを使って霊夢にでも押し付けようと考えていたのに、ツムギの勘があまりに良いせいでご破綻。まぁ、そのおかげで楽しく義理母やらせてもらってるけど……。
呼ばれたからには返事をしないわけにはいかない。私は顔を引き締め、スキマから降り立った。
「あら、私は愛娘に危険がないように見ていただけなのだけれど。」
不敵な笑みを浮かべて言ったが、ツムギにはあっさりと返されてしまう。
「それは有難いね。一番危険なのが誰かを考え直してからもう一度言ってくれる?」
まぁ……言い返せない。確かに一番危険なのは私だろう。しかし私はツムギに手を出す気は無い。逆に、手を出そうとした輩を成敗しようとしているだけだ。
「それで?何の用なの?」
軽く呆れたように聞くツムギ
「だから、見ていただけだと…………」
「そういうのいいから。」
バッサリと切られてしまった。どうやら反抗期らしい。が、私の狙いを感じ取ったところは流石と評するべきだろう。
「バレていたのね。私があなたに会いに来た理由。それは……。」
あくまで、サラッと、流すように。
私は、爆弾を投げかける。
「あなたを、妖怪にするためよ。」