3話 少女の名前は③
side魔理沙
私は気づくと声とも声でないとも言えないような音を口から漏らしていた。ツムギの音は相変わらず凄いの一言に尽きる。それに対する惜しみない賞賛として、私は演奏が終わったツムギに拍手と笑顔を送った。
「いつも通り、演奏してる時のお前が一番活き活きしているようにみえるぜ。」
「まぁ、それが一番好きですから。」
ピアノを片付けながらそう返すツムギの顔には、少しながら疲れの色が見えた。いつも一つの音に全力を注ぐツムギは、その弱い体も相まって演奏が終わるといつもこうなる。激しい曲だと、倒れ込んでしまうこともある。しかし、ツムギは絶対に曲の途中でその様子を見せない。最後まで、全力で奏で続ける。その音に対する真摯さに、私は惹かれていったのだ。
ふわっ、と立ち上がったツムギの姿。じっくり見てみると、なんだか新鮮だった。透き通る様な銀色の髪、深く蒼い眼。そして、全体を見ると、13、14歳くらいに見える低い身長と雰囲気。こんなちびっ子があの音を……と思うと、末恐ろしいものがある。
「お疲れさんだったな。それじゃ、私は帰るとするぜ。ありがとうな。」
私は時計を見、そう言い、近くの棚の上にお代としての幾らかの金を置きすぐに店を出た。その理由は……
「あぁ!また!お金なんていりませんってのに!私はやりたくて弾いているだけで、聴いてもらえるだけでありがたいんですってばー!」
あぁ、また始まった。ツムギは自分の演奏に金を払われることを毛嫌いする。理由はさっきの言葉の通りらしいが、それ以外にお金を稼ぐ術がない未成年少女、ツムギに対しては、この私でさえ金を置いていく。そうでもしないとツムギは飢え死にしてしまうだろう。というか、そうでなくても、ツムギの演奏をタダで聴くなど、申し訳なくなってくる。そのくらい、ツムギの演奏には魂がこもっているのだ。
そのあたりを含め、超絶真面目少女、ツムギが追ってこれないように、私は箒に跨り、速攻で飛び立った。
sideツムギ
魔理沙さんの出ていった扉と、置いていったお金を交互に見て、私はため息をついた。楽器は全く売れないといってもいい(霖之助さんを除いて)ので、確かに有難いといえば有難いのだが……。とにかく、貰ってしまったものは仕方がないので、私はそのお金を握りしめ、とあるお店へと向かった。