2話 少女の名前は②
side魔理沙
人里。というと、人が多く、賑わっている様子を想像するかもしれないが、ある路地を曲がると、そこには人里とは思えない異質な空気が漂っている。人気が無く、左右を無機質な壁で囲まれたその様子は、下手をしたら夜の森の中よりも生気を感じさせないほどだ。そんな路地の奥地に、いや、そんなところだからこそ、「アイツ」は店を構えている。「アイツ」曰く、人が多いところだと恥ずかしいらしいが……私は、「アイツ」はもっと表立っていても全く問題ないと思う。
などと、適当なことを考え、私はその路地へと入り込んだ。ヒヤッとした空気が私の頬を撫で、思わず目を細めてしまう。
そして、やっと辿り着いたその店。可愛らしい字で書かれた「OPEN」を見て、私はその店の主に向けて、大声で叫んだ。
紡ぐ言葉は「アイツ」の名前。
たった一言。「ツムギ」と。
sideツムギ
お店の準備をしていると、突如、私のことを呼ぶ声が聞こえた。こんな変な場所まで来るような物好きで、尚且つ私を名前で呼ぶような人は、とりあえず私に絡んでくる魔理沙さんか、古いものが好きな霖之助さんか、人里の統治をしている慧音さんか……。と、考える間もなく、白黒の格好の女の子が入ってきた。
「魔理沙さんでしたか。いらっしゃいませ。」
私は、取り柄である笑顔を浮かべて対応した。魔理沙さんは、私の店のお得意様。蔑ろにする訳にはいかないのである。
「あぁ、また聴きに来た。」
魔理沙さんの言葉は、普段通り。そして、私にとって一番嬉しい言葉ともいえる。
(ここで、少し私のことを話しておきましょうか。
私は、ツムギ。人里で、楽器屋兼演奏活動をしています。もちろん普通の曲も演奏しますが、私の能力、「忘れられた音が流れ着く程度の能力」によって、誰からも覚えられることのなかったフレーズ、リズム、響きが流れてくるため、その音を求めてやってくるお客さんが多いです。……こんなところでしょうか。)
だから、先程の魔理沙さんの言ってくれたようなことが、一番私の心には響くのだ。私はまた笑い、
「ありがとうございます。今日は、どんなものにしましょうか?」
いつも通りの返しをする。魔理沙さんの返事も、いつもと変わらないものだった。
「新しい、面白い音を頼むぜ。」
刺激を求める魔理沙さんにぴったりの返答だと、心の底から思う。そうでなくても、今日は新たな音が丁度舞い込んできたところ。自分で奏でてみるまでなんとも言えないが、私の好きそうな匂いを放っていたので、誰かに聞いてもらいながら奏でたいと、思っていたところだった。
軽く頷き、私は目を閉じる。奏でる時は、いつでも本気だ。そのまま私の友達……ピアノの前へ。
その音を作った人が、何を思って作ったか。何を伝えたくて作ったか。ただ、演奏するだけじゃない。その作者へ、そして、聴いてくれている人に感謝を込めて。私は、元の音を完璧に届けるための、感情溢れるレコードとなっていく。