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星宮家と異世界的日常  作者: 兎花
第4章  星宮家と獣人の国
36/49

内容的には無くても支障はない回。


 翌日、私達は朝イチから冒険者ギルドを覗いてみることにした。せっかく冒険者登録をしたので、それっぽい雰囲気を味わいたかった。


「お、採集の依頼があるじゃん。これなんかどうよ、ゆり姉」


 人気の疎らな冒険者ギルド内で成君が持ってきた依頼表を受け取ると、内容をじっくり検分する。


『支部番号0074登録番号75-0008962


 依頼内容 ベルターの実の採集(期日無し)

 推奨ランク フリー

 報酬形態 専用計量容器ひとつにつき銅貨1枚を基本とし、その状態によって増減あり。


 注意事項 採集場所は兎人族の集落近辺の森です。くれぐれも不用意に集落へは近付かないようにしてください』


「これにする」

「おし、やっぱり兔人族で釣れたな。どうせ観光に行くなら冒険者の真似事もいいんじゃね?」


 鼻歌を歌いながら成君が手続きに向かう間、茉莉花と2人で掲示板を見ていく。

 仕事のほとんどは採集依頼や数日後に迫った武闘大会関係の仕事ばかりだった。


「その採集場所の森までどうやって行くの?」


 すぐに戻ってきた成君に聞いてみた。歩いていける距離なのか、それとも騎獣を使わなければ着けない距離なのか。


「んー? バルスに乗って行けばいいじゃん」

「歩いては行けない?」

「えー、日帰りで帰ってこれなくなるって。なに、ゆり姉、歩きたいの?」


 不思議そうに尋ねてくるでの頷いた。


「だってさ、なんか冒険者っぽくない?」

「なんだ、それ。冒険者っぽく、て言うんならまず装備だろ。さすがにシャツとスカートで冒険者です、じゃ怒られるって」

「あのねぇ、これは普通のシャツとスカートじゃないのよ。特殊な糸と魔法陣で作られた魔法のシャツとスカートなの。わかる?」

「……と言う設定なわけだ」

「そうそう、要は気持ちから入らなきゃ駄目ってこと」


 馬鹿なやり取りの後で、結局装備を整えることにした。何事も形から、ということらしい。


 とは言っても、私も茉莉花も自慢じゃないけど体力はない。そんな私達には本格的な装備は無理だ。なので魔術師の装備であるケープコートに茉莉花の護りの魔法陣を手早く描いてもらい、それを私達の冒険者スタイルにした。


「……へたな装備より防御力高そうだな」


 何か思い付いたのか、成君が茉莉花に話しかけているが、茉莉花の方は微妙に嫌そうな顔をしているのがちょっと笑えた。


 準備が整った後、真っ直ぐに中央通りを北西に向かう。途中で乗り合い馬車に行き当たったので乗せてもらい、門で降ろしてもらう。


 首都ノーブルを出た後はひたすら歩くか騎獣を使うしかない。


 しばらくは私が希望した通り徒歩で向かう。けれど雄大な自然に感動出来たのは精々30分までだった。なんせ、ずっと同じ景色が続くのだ。

 真っ直ぐに伸びる街道は一本道で草原が続き、時々丘陵の合間に海が見えるだけだ。魔獣も、この地で最上位に居る獣人族の気配のする街道には近付かない。


「……バルス、背中に乗せてくれる?」


 結局、成君の予定通りにバルスの背に乗せてもらった。



「兔人族ってさ、兎だろ?」

「うん」

「凄い地獄耳でさ、ちょったした物音を聞き分けるんだよ。話を聞くと、どうも相手の呼吸や更には心拍音を聞いて心情を読むらしいぜ」

「へぇ」

「だから兔人族では大声は絶対出すなよ? 囁くくらいでベスト。冒険者なんかは鎧や剣やらでガチャガチャ言ってるから、兔人族は冒険者嫌いで有名なんだぜ」

「ふーん」

「戦うと意外に強いんだよなぁ。あのトップスピードと機敏性で一撃必殺、その代わり長引くと途端に体力切れで弱くなるんだ」

「はー」

「茉莉花も戦う時は気を付けろよ、お前の戦闘スタイルは魔術だろ? 先手を取られると厄介だからな」

「ほー」


 背後でされるやり取りに私は涙を呑んだ。


 ……頑張れ、成君。



 兔人族の集落にはバルスに乗って一時間もしないうちに着いた。見晴らしのいい平原に、人の背丈よりも少し高い木の柵が兔人族の集落を囲っていた。入り口には完全人型の門番が立っており、早い段階からこちらを警戒心丸だして見ていた。


「集落に入るの?」


 バルスの背中に乗ったままのんびりと集落に向かうので、気になって成君に尋ねた。


「いや、門番に挨拶だけしとくんだよ。……中に入るとゆり姉は多分死ぬる」

「え!? なに、なになに、そんなに狂暴なの、兔人族って。近付いて大丈夫なの?」


 身構えた私に成君は緩く首を縱に振った。


「……まぁ、あれはある意味狂暴、と言うか凶悪と言うか。見ればわかるって」


 そして私は現実を知ることになる。


 警戒心を露にしていた門番も、成君が素材採集に来たのだと説明すると雰囲気が柔らかくなった。そんな彼らの向こう、間近にした村の中の光景に、私は軽い興奮からくる目眩を覚えた。


 ……リアルシルバ○アファミリー!! しかも小さな人型をとっていない仔兎達がじゃれ合う姿は天国!! はあああぁぁ、可愛い……。


 門番さん達は完全に人型だけど、村の中では人型の方が珍しいようだ。二足歩行はしているけれど見た目は兎のまんま。中には可愛いワンピースやエプロンを着けている子や花の髪飾りを長い耳元に着けている子もいて、冗談じゃなく私は命の危険を感じた。


 心の中で絶叫していると、視界の端にチラチラと動く人影が見えた。なんだろう、とそちらに視線を向けてみるとなぜだか転がり回る冒険者の姿がちらほらと見えた。


「ちょ、成君、あれなに?」


 もしかして変な物でも食べて苦しんでる?! そう思って成君に指差して聞いてみると、成君はちらりとそちらを見た後に興味を失ったかの様に視線を逸らした。


「あれはゆり姉と同類の野郎だよ。野郎が悶えてるのなんぞ気持ち悪い」


 ……ああ、要するにリアルシ○バニアファミリーに悶えてるのね。

 成君が言うには、仕事以外でノルブレストに来る人族のほとんどが極度の動物好きらしい。どうやらこの世界でも、もふらーの存在を確認出来て私は嬉しい。


 未練たらたらで動こうとしない私の背中を押しながら、成君は採集地の森に向かった。



 ベルガーの実は低木になるオレンジ色と黒い色の実で、大きさはグリンピース程だ。推奨ランクがフリーとあったように、この依頼自体は簡単だけど非常にめんどくさくて気力がいる。この2色の実、触れあうだけなら支障はないのだが、果汁が混ざると持っていられないほどの高温になる。


 冒険者に売り出される攻撃用アイテムとして使用するため、常に採集依頼が出されているんだって。


「ゆり姉はオレンジ、茉莉花は黒の実な」


 それぞれ防水性の高い袋に集めていく。


「成君はなにするの?」


 不信感丸出しの顔で茉莉花が尋ねた。


 低木が群生しているこの辺りは非常に陽当たりが良い。成君は僅かな空き地を探し出すと、そこに外套を広げて横になった。


「終わったら教えて~」


 木の隙間からひらひら揺れる成君の掌が見えた。それに対して茉莉花は2色の実を混ぜた小さな袋を用意すると、それを石で1度潰した後無言で成君が居る辺りに放り込んだ。


 成君の叫び声が聞こえたけれど、あえて私は聞こえない振りをした。



「――案外集まらないもんだね」


 茉莉花とお喋りしながらのんびり採集してたけど、2時間ほど辺りをうろうろしながら集めても袋一杯には成らなかった。


「これでどれくらいのお金になるのかな」


 茉莉花の呟きに答えたのは成君だ。


「俺もあんまりよく知らないけどさ。専用の計量容器一杯で銅貨1枚だったろ? うーん、さすがにこれだけだと200パッツとかじゃないか?」

「……えー、そんなもんなんだ」


 茉莉花が袋の中を覗きながら不服そうな声をあげた。

 まあ、真剣に採集してたわけじゃないってものもあるんだろうけど、これで200パッツ(銅貨20枚)か。予想以上に安いな、子供のお小遣い感覚だね。


 私がそんな風に感想を漏らすと、成君が苦笑したのがわかった。


「ゆり姉の中で冒険者って、どんな仕事だと思ってる?」

「んー? なんだろ、みんな強くて英雄譚も多い花形の仕事かな? そんなイメージだね」


 もしくはアメリカンドリーム。冒険者になって一旗あげてやる、みたいな。


「実際のところ、冒険者でやっていこうと思うなら相当な努力がいるぜ。強くなる努力はもちろん、こういった地味な作業を1日中でもやり続けることの方が圧倒的に多い」


 宿屋に来ていて冒険者の皆さんは、いわば一流の人ばかりだった。あの人達は別格らしい。上位ランクになればぐっと依頼料が高くなるが、下位ランクの人達はとにかく数をこなすか要領よく自分を売り込まないと食べていけないそうだ。


 かなりシビアな世界だと、身を以て知った。


 茉莉花も「薬作って売る方が、よっぽど手間も時間もかからないし、お金もたくさん入ってくるね」と、しんどそうに呟いていた。


 それから1時間くらい採集を頑張った。集中すれば倍以上は採れたと思う。


「まだ続けんの?」


 暇そうにあくびをしながら成君が聞いてきた。


「……そういえば、お昼御飯食べてないよね? 茉莉花、お腹空いてない?」

「そう言われると空いたかも。今何時くらいかな?」

「とりあえず昼は過ぎてる。シルバニア村に戻ろうぜ、俺もう腹減った」


 あんたはなにもしてないだろ、とは言わない。それよりもやっぱり同じ印象を持ったんだな、とちょっと微笑ましくなった。


「入れてもらえるの? さっき冒険者は駄目って言ったじゃん」


 茉莉花の質問に成君は茉莉花の頭をくしゃくしゃに撫で回す。当の茉莉花は嫌そうにその手を払い除けていたけど。


 ……うん、頑張れ。


「まあ、大丈夫だって。俺の交渉術を見てろよ」


 何やら自信満々の成君に連れられて兎人族の村に戻ってきた。そして何やら門番の兵士と話し込んでいる。どうやら本当に交渉しているようだ。


 しばらくして成君が私達を手招きした。茉莉花と目を見合わせた後、門へと近付く。


「こっちの小さい方が薬師でこっちが獣使いです」

「なるほど、女性二人ならば問題ない。しかしくれぐれも村人には勝手に触らないように注意してくれ」

「わかりました。ありがとうございます」


 成君はそう言って腰に差していた剣を外し、兵士に預けるとさっさと村の中へと入っていった。


 

 村の中に唯一ある食事処に行く。途中すれ違う兎人族の人達が不思議そうにこちらを見上げていた。


 彼らは小柄な体格をしていた。おそらく成体でも150センチくらいだと思う。女性だとさらに低い。耳を入れてそれくらいだから、実際の身長は130あるかないかくらいだと思う。


 ……そう考えると、見た目からしてピーターは兎人族そのものなんだね。


 こちらを不思議そうに見ていても警戒心は感じない。むしろ好奇心が強いのか、お鼻や耳が動いてて可愛い。


 ……耳がピルピルしてて可愛いなぁ。


 視線を固定しないように意識しながら村の様子を眺めていた。


 食事処に着くと遅めの昼食を摂る。もしかして兎人族と言うくらいだから野菜しか食べないのかな? と考えたけどそうでもなかった。ちゃんとお肉も食べるらしい。ただ、比率は野菜が多かったけど。


 後、驚いたのが建物の造りだった。平均的に小柄な種族なので天井の高さもや間取りが小さめなのかな、と思ったけれどそうでもない。


 話を聞くと獣人は兎人族の様に小さい種族もあれば、逆に大柄な種族もあるらしい。普段から多種族間の交流があるので、個人宅でもない限り大きめに造るそうだ。


 現に私達が入った食事処は様々な種族が寛いでいた。


 私はその様子を食事を摂りながら愛でる。ご飯も美味しいしもふもふがいっぱい居て、最高のお昼御飯になった。


「この後はどうするの? ゆりなお姉ちゃん」


 食後の柑橘系のジュースを飲みながら茉莉花が訊いてきた。私と成君は紅茶だ。


「そうだね、どうしようか。もう採集はしたくないんでしょ?」


 2人に尋ねると揃って何度も頷いた。その仕草が思いの外可愛くて思わず笑みを溢しながら考える。


「……この辺りに、観光地ってあるの?」

「俺もあんまり詳しくはないって。ただ、日帰りで行ける距離では聞いたことないな」

「ノルブレストで有名な観光地って何処なの?」

「一番は首都ノーブルだろ。その次が魚人族の棲む

星屑の入江、それから羊人族の棲む地方にある温泉地だろ、それから」

「温泉! 温泉があるの?!」


 それはぜひ、日本人として行っておかねば!


「茉莉花も温泉行きたいよね?」


 ウキウキ気分で尋ねると、茉莉花も嬉しそうに笑顔になった。


「うん。行きたいな。露天風呂とかあるといいよね」

「成君もいい?」

「おう、いいぜ。俺は武闘大会に間に合えばいいしさ。羊人族の村ならバルスに乗れば1日で着けるだろ」

「……バルスに乗るの、前提なのね」

「おう。だってゆり姉、他の騎獣に乗れないだろ?」


 ……まあ、確かにそうだけどさ。


 結局、今日はノーブルに戻り、明日温泉のある羊人族の村に向かうことになった。


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