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星宮家と異世界的日常  作者: 兎花
第3章  星宮家と冒険者達
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閑話~譲れない戦い~

Round1


 人にはそれぞれ譲れないものがある。私が絶対に譲れないもの、それは家族だ。それ以外なら、まあなんとか流すことができる。けれど我が家では弟妹だけで6人も居ると、毎日のように小さないざこざが起きる。


 見てる方は馬鹿みたい、そう思うんだけど、本人達にしたらそこはどうしても譲れないらしい。


「いや、白味噌でしょ、やっぱり」

「はあ? いやいやいや、雑煮といったら醤油やろ。白味噌って、俺ら京都人ちゃうで」


 わざとらしい大阪弁で煽るのは成君だ。それに対して身を乗りだし煽り返しているのがかすみである。


「はあ? 馬鹿成が偉そうに! そのエセ関西弁もやめろっつうの。我が家のお雑煮は白味噌なの! それ以外は認めませーん」

「馬鹿なのはかす姉だろ? 雑煮は醤油だって毎年言ってんのに、毎回わすれんだもんなぁ!」

「誰がかす姉よ! そういうあんたもそこまで言うなら自分で作れ!」

「それこそかす姉が作れよ! あ、そうかぁ、かす姉女子力皆無だもんな、お雑煮なんて作れないよなぁ」


 ごめんねごめんねー、とわざとらしく明後日の方を見る成君。それに対してぶちギレたかすみが地団駄を踏んだ。


 妹の名誉のために言っておくけれど、かすみは女子力皆無なわけではない。ただ偏っているだけで、裁縫関連なら私より上手いと思う。


 それにしても、毎年毎年懲りもせずに同じ喧嘩をよくするよ。


「もう、あったぁ(頭)きた!! 馬鹿成! 表出な!」

「それこそこっちの台詞だぜ、かす姉! 泣きを見ても知らねーからな!」


 そのまま喧嘩をしながら2人は出ていった。私はオニキスの頭を撫でながら隣の司君を見た。


「止めなくていいの?」

「めんどくさい」

「でも近所迷惑じゃない?」

「大丈夫、馬鹿2人だからそんな大袈裟にはならないって」


 それでも様子を見に行くか迷っていると、ちょうど入れ替わるように茉莉花と光君がバルスの散歩から帰って来た。


「ただいまー。今ね、かすみお姉ちゃんと成君が通りでかけっこしてたよ。仲いいよね」

「でもあれは通行人の邪魔になるからね。茉莉花は真似しちゃ駄目だよ」

「するわけないでしょ、兄弟だけど仲間だとは思われたくないもん」


 バルスの足を拭きながら茉莉花が嫌そうに答えた。それもそうだね、と光君が同意している。


 すると寝正月を決め込んでいた真君がひょっこりと顔を見せた。


「おはよー」

「もう昼だけどね」

「今日のお昼ご飯は何?」

「お雑煮と炊き込みご飯よ。後は鯛を焼いた」

「雑煮かー。いいね、お正月っぽくて。味はどっち?」

「白味噌。今年は醤油味は作ってないから、白味噌が嫌な人はお雑煮無しでお願いします」


 そうは言ってもお雑煮に毎年こだわるのはあの2人だけで、他の弟妹達はどっちでもいい派だ。


 一時期は醤油味と白味噌味を両方用意していた。けれどもう、そんなめんどくさいことはしない。今回は茉莉花のリクエストで白味噌味に決めたけど、来年はどうなるかはわからない。


「ゆりなちゃん、お腹すいたよ。あの2人はほっといて、先にご飯食べよ?」

「そうね、どうせしばらく帰ってこないだろうから先に食べようか」


 それから小一時間も経って私達が昼食を終えた頃、成君とかすみは戻ってきた。王都を一周して速く家に着いた方が勝ちの勝負をしたらしい。


 なに、この人達……恥ずかしい。自分達から見世物になりにいって。また「あそこの兄弟は……」なんて言われるんじゃないだろうか。


「あー!! なんで雑煮白味噌なんだよ! ゆり姉!」


 昼食後のまったりとした空気をぶち壊す成君の声に、私ではなく司君が答えた。


「なんでもなにも。朝から白味噌の匂いがしてただろうが」

「へ?」

「お前らが争う前から百合奈さんは白味噌で雑煮を作ってたぞ。まさか、気付いてなかったのか」


 呆れたような司君の口調に焦ったのが成君だ。かすみは朝、厨房を覗いていたので気付いていたはずだ。意地の悪い笑顔で成君を眺めている。


「い、いや、確かに白味噌の匂いがしてたけど、てっきり違う物を作ってるのかと」

「それよりも早くご飯食べちゃって。後片付けが出来ないから」


 私があっさりと会話を打ち切ると、かすみがお腹すいたぁと席に着いた。


 結局。どちらが勝ったのか(あの口調なら成君だろうけど)誰も興味がないので聞かないままである。

 



Round2



 お正月料理に飽きてきた私は茉莉花に食べたいものを聞いてみた。


 茉莉花は少し考え込んだ後、オムライスが食べたいと言った。


 それを聞いてヒートアップしたのが成君と真君だ。今回は他の兄弟を巻き込んでの戦争である。


 真、かすみ、光 Vs 司、成の対戦だ。


 ―――司君が入ってる時点で勝負は見えてるよね。私は茉莉花と2人でそのまま戦いの行方を見学である。


「さて、今日のお昼ご飯はオムライスだ。ライスはチキンライスだろ? 異論はあるか?」

「「「ありません、ボス」」」

「よろしい。では何が争点か。光、述べてみよ」

「はい! これは世間で幾度となく議論されてきた、オムライスの卵は巻く派? それとも乗っける派? 問題です!」


 なんだろう、真面目くさった光君が面白い。多分司君の真似をしているんだろうけど、全然似合ってないなぁ。


 そんな事を考えていると先手必勝とばかりにかすみが身を乗り出してきた。


「司兄! 卵は半熟ぷるぷるが美味しいんだよ! 想像してみてよ、こんもり小山の上でオムレツが割れて流れる様を。その上にケチャップをかけたら卵で滑って下に流れる、その様を! どう、どうよ?! 食べたくならない?!」


 かすみはなんとか司君を口説き落とそうとしている。司君次第で戦況がどの様にも変わる事を知っているから、どうしても自分の派閥に引き込みたいのだろう。


 それを阻止すべく成君が立ち上がる。


「は! あんなのはオムライスとは言えないな! あれは卵乗せチキンライスだ! そもそもオムライスの本命はライスであって卵ではない。さらに言うなら巻いた卵の柔らかな流線型と、品のある佇まいこそがオムライスの真価なのだ!」

「お子様成には巻いたオムライスに国旗でも立ててればそれで充分だろー?」


 からかうように真君が言えば、成君は胸を張って答えた。


「完璧だな!!」


 成君は相変わらず揺らがないね。この子は昔から他人に全く左右されない子だった。唯一揺らぐのがかわいい女の子が絡んできた時かな。見ている方が恥ずかしくなるくらい硬派を気取るから、こっちが罰ゲームを受けている気分になる。


 私はそこでふと茉莉花に尋ねた。


「茉莉花はどっちがいいの?」

「私はどっちでもいいよ。でもお手伝いしたいから巻く方がいいかも」


 茉莉花はここ最近料理にはまっており、ここで学んだ薬草の知識と料理を結び付けて、薬膳料理のようなものをよく提案してくる。実際に作るのは私なのはご愛嬌だ。

 

「じゃあ作ろうか。茉莉花は人参切ってくれる? お姉ちゃんは玉ねぎ切るから」

「うん、いいけど。あれはほっといていいの?」

「大丈夫よ、すぐに決着つくって。次に司君が口を開けば勝敗は決するから」


 私の予想通り、すぐに決着はついた。お互い熱く卵に関して喋っている横で司君が動いたのだ。


「お前達の言い分はわかった。特にかすみ、お前がとろとろ卵を愛する気持ちはよく分かる」

「それじゃ、司兄……!」


 嬉しそうに食い付いてきたかすみを制するように司君は右手をあげた。


「だが、ここは譲れないものがあるんだよ、かすみ。―――なぁ、真。オムレツを作るのに卵をいくつ使うか知っているか?」

「え? あ、うーん……。2個くらいかな」

「そうだ、2個は確実に使うんだ。小さい卵なら3個は使う。この意味がわかるか?」


 司君の言わんとしていることがわかったのか、光君やかすみに真君が悔しそうに下を向いている。唇を噛み握り締めた拳は小刻みに震えている。


 ……いや、そこまで? そこまで悔しいのかよ。逆にひくわ。


 司君が目を細め、無情なる宣告を下した。


「7人分のオムライスを作るためには、卵を巻く方が断然安く上がる。経済的だ。よって卵は巻くオムライスを―――」


 そこまで聞いて私は口を挟んだ。


「あ、ちなみに卵はたくさんあるからその辺は考えなくていいよ」

「―――ならば乗っける方でお願いします、百合奈さん」


 見事な手のひら返しで決着はついた。


 茉莉花と一緒にチキンライスを作る。チキンライスのこだわりはあまりないけど、ナポリタンと一緒でケチャップはケチらずに入れた方がいい。少しケチャップが焦げるくらいによく炒めれば完璧だ。


 私と茉莉花と成君は卵で巻くタイプのオムライスで、それ以外は卵を3個使ってとろとろオムレツを作り、盛り付けたチキンライスの上に乗せて真ん中に切り込みを入れて開く。


 あ、卵を焼くときは油の代わりにマヨネーズを使います。これでこくが出て美味しくなるんだよね。中には卵の中に入れる人も居るみたいだけど、うちでは油代わりに使います。


 最後にケチャップでそれぞれの名前を書いておしまい。付け合わせにポテトサラダを出す。


「茉莉花は自分で巻いたのか?」

「うん。上手く出来てるでしょ?」

「ああ、焦げてないし破れてないし、茉莉花は料理上手だな」


 司君が甘々に茉莉花を甘やかしている気配に、成君が横から覗き込んだ。


「お、ほんとだ。茉莉花は上手いな! どっかのゴリラ女とは大違いだ」

「は? 馬鹿に言われたくないし」

「これは動物を描いたのか。うーん、兎だろ、これ!」

「違うし」


 茉莉花が嫌そうにお皿を成君から遠ざけた。

 あれは本人は熊さんを描いたつもりだったが、オムライスの丸みに耐えきれず耳と顎の部分のケチャップが垂れたのだ。そのせいで耳と顔の長い兎のような生き物になってしまった。


 本人がすごく気にしてる部分を的確に突いてくる成君は、悪気がない分救いがない。


 こうして食に関する譲れない戦いは幕を閉じたのだった。




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