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星宮家と異世界的日常  作者: 兎花
第3章  星宮家と冒険者達
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閑話~お餅つき~

 年末年始の宿泊客はさすがに少なくて、部屋は3部屋ほどしか埋まっていなかった。そのうちの一部屋がロッドさんで、もう二部屋は流れの冒険者で、一部屋は女性のソロ冒険者、最後の一部屋が男2人のパーティーだった。


 今日は朝から餅つきをしようと思う。


 日本にいる頃は数えるくらいしか餅つきをしたことがない。弟妹達の学校行事や子供会のお手伝いくらいだ。


 それでもまあ、なんとかなると思う。


 前日から宿泊客には声をかけていたので、多少騒がしくしても問題はない。むしろお昼ご飯に間に合えば出すと言ってあるので楽しみにしてくれているようだった。


「ゆり姉、蒸籠は厨房でいいの?」

「あ、ありがとう、成君。―――あれ、もしかして新しく造ったの?! わー、わざわざありがとう、助かります」

「リクエスト通りに3段にした。もう少し大きくてもいいかな、とも思ったけどさ。宿屋辞めるならそんな大きな蒸籠はいらないだろ? 3段もあれば一周すれば全部蒸せるだろうしな」

「ん? 宿屋を辞めるってなんで」

「え? だってここ出るんだろ? まさか新天地でも宿屋をする気かよ」


 なんで呆れたように言われるのかがわからない。ほんとに働くの好きだな、と言い残して成君は厨房の裏口に蒸籠を設置しに行った。


 いや、生きてる限り働くのが当たり前だと思うんだけど。まあ、働き過ぎだと言われればそうなのかもしれない。


「成君、真君と一緒に裏庭の準備しててくれる?」

「ん、了解。杵と臼を出してお湯で温めておけばいいんだっけ」

「そうそう。お願いします。それ以外の準備はアリス達がしててくれてるから」


 前日のうちに洗って水に浸けていた餅米をざるに上げて、よく水切りするためにしばらく置いておく。その間に蒸籠を軽く水洗いして布巾で拭き、きれいな手拭いを軽く絞って蒸籠に敷いていった。その上に餅米を敷き詰めていく。中心に穴を空けて準備万端だ。


 淡々と仕事をこなしていると、裏庭に成君真君の声が聞こえてきた。


「やっぱり杵と臼があるならアレをしないとなー」

「お、真兄、ノリがいいねぇ。じゃあさ、やる? やっちまう?」

「おし、やるか! お前臼の方でいいよな。俺杵の方やるから」


 何やら馬鹿2人がやり始めた。

 まあ、薄々こうなるだろうな、とは思ってたけどさ。予想通り過ぎて面白くもなんともない。


 厨房の棚から片栗粉を取り出すとそれを持って裏口から外へ出た。調子に乗った2人のネタが聞こえてきた。


「―――な奴が居たんですよぉ」

「なあぁにぃい? ぁやっちまったなぁ!」

「男は黙って」


 そこで私は口を開いた。


「仕事しろ!」


 タイミングよく発した私の声に、杵を振り上げていた真君がゲラゲラ笑った。成君もツボに入ったみたいでターミネーターの出現シーンのように、蹲って笑っていた。


「百合奈さん、ナイスタイミング!」

「やりたくなる気持ちはわかるけどね、早くお湯に浸けてよ。もう蒸していきたいからさ」


 臼の中にお湯を張り杵の方もお湯に浸けておく。


 臼の横には長テーブルがありその上には餅箱がすでに置いてある。ちなみにこの餅箱や杵臼共に成君が作ってくれた物だ。固有チートで作ったらしい。


 けど、成君の固有チートは錬金術なのよね。それなのに木工まで出来るものなんだろうか。小さい頃から粘土遊びが大好きで造形の腕は確かによかった。このまま美術学校でも行くのかなー、なんて考えてたけど、気が付いたら中学校の頃には部活もしていないのに帰宅が遅くなって、ついにお前もか! と心の中では突っ込んでいたっけ。


 けど帰宅が遅い以外真面目に学校にも行っていたので、そのまま放置している間に異世界ここに飛ばされたのだ。


 結局成君が何をしていたのかは謎のままだ。


「真君、蒸籠に火を点けてくれる?」

「ふぉい」

「成君は臼杵を温めるお湯をお願いね」


 餅箱の中の片栗粉を大量に広げて、後は蒸し上がるのを待つだけだ。


 蒸籠の番はベルに任せてある。彼女は力があるから蒸籠を2つまとめて持つくらい余裕だろう。成君真君は餅つき要員だし、茉莉花と光君と私は餅を丸める係りだ。アリスとピーターは宿屋の仕事をしているし、シシィも雑貨屋の店番をしている。

 ちなみに司君とかすみはお仕事でいない。


 裏庭の隅の木の下で、バルスとオニキスがお腹を出して眠っている。その様を眺めながらオニキス大きくなったなぁと感慨深く思う。バルスもオニキスが居ると刺激になるのか、以前のようにボンヤリした雰囲気が無くなりつつあった。


 時々、じっと見詰められるのだがそこに知性を感じることが多々ある。


 なんだかボンヤリしていないバルスというのは、違う生き物のような気がして不思議な気分だ。


 しばらくすると匂いに釣られたのか、光君と茉莉花が姿を見せた。


 およそ蒸し初めて35分くらいで一番下の蒸籠が蒸し上がる。兄弟で雑談しているとベルが湯気の立った蒸籠を持ってきた。


「ありがとう、ベル。まだ餅米残ってるからどんどん蒸していって」


 臼の中のお湯を捨てて蒸した餅米を代わりに入れた。真君と成君が杵をそれぞれ手にした。


「よしッ、早速やるか。おい、光、手伝えよ」

「俺と真兄がつき手やるから、お前合いの手な!」

「えー、やだよ。合いの手は絶対嫌だ。手伝うんならつき手がいいな。真兄が合いの手やってよ」


 そんなことを喋りながらも成君真君は臼の中の餅米を潰している。ここを丁寧にやっておくと餅米が跳ねないし、つき上がりも早くなる。


「ち、仕方がないなー。おい、成。代わってやれよ」

「絶対やだね」


 どうやらつき手は2人体制でやるつもりらしい。それは嫌だろうね、私でも嫌だ。


 私はふっと息を吐くと茉莉花に向き直った。


「茉莉花、お餅を均等に千切るのやったことある?」

「ないけど。均等じゃなきゃ駄目?」

「出来れば均等がいいんだけどね。お客様に出したいし、お裾分けもしたいし」


 私が合いの手に入ろうかと思ったけれど、茉莉花が出来ないんじゃ仕方がないよね。


 話し合いの結果、合いの手は真君に決まったらしい。ベルが持ってきたぬるま湯に手を浸けてスタンバっている。


「んじゃ、行くぜー。よっ!」

「ほい!」


 成君がつき始めて光君がつく。交互にリズムよく繰り返していくうちに、お餅が臼の縁に広がるのを真君が濡れ手で真ん中に寄せる。その繰り返しだ。粘りが出てくると杵にお餅が引っ付くので、そんな時にも合いの手はタイミングを見てお餅を濡らす。


「……男の子は楽しそうだね」


 茉莉花は笑いながら餅をつく兄達を生優しい目で見ている。私は思わず吹き出して茉莉花を見た。


「茉莉花もやってくる?」

「ううん、いい。それよりもさ、ゆりなお姉ちゃん。この間司兄が旅行に誘ってたでしょ? どこ行くか決めたの?」

「あー、あれねぇ。うーん、この世界にはガイドブックがないから、私的にはどこか行きたい所ある? て聞かれても困るんだよね」


 私はこの王都すらまともに出たことのない人間だ。行きたい所を聞かれても……思い付くのはひとつだけだ。


「司兄って、ゆりなお姉ちゃんと2人でいくつもりなのかな?」

「いや、それは違うと思うよ。むしろ司君は忙しいから無理じゃないかな」


 そんな事をだらだら話しているとどうやらつき上がったらしい。真君が白い固まりを持ち上げて餅箱の中に放り込んだ。


「あっちぃ! まだけっこう熱いもんだね」


 お餅を放り込んだせいで片栗粉が辺りに舞い上がった。私は手早く片栗粉を手に付けると右手でお餅を伸ばして握りこみ、親指と人差し指をわっかにして捻り出していく。それを左手でねじ切ると茉莉花の方に渡した。


 後はひたすら丸くなるようにコロコロするだけ。千切り方が上手いとこのコロコロが非常に楽だ。変なシワが入ったりすると割れの原因になる。


 この流れを5回くらい繰り返した頃、蒸籠の火がやっと止まった。最後の餅つきを楽しんだ後は、お楽しみの食べる時間だ。


 味はあんこときな粉とゴマ、それと砂糖醤油を準備した。

 時間的にもちょうどお昼ご飯の時間帯だ。最後についたお餅を食堂に入れてもらい、早速お客様に声をかけて準備をする。


「どうせならお雑煮も用意したらよかったかな。アリス、ご飯の用意は済んでる?」

「はい。どうしますか? テーブルに並べますか?」

「そうね、お願い。私は着替えてくるから、後はお願いね」

「わかりました」


 今日のお昼ご飯はバイキング式だ。お餅メインで、後は惣菜が4種類と果物を数種類盛り付けてある。


 その配置を決めて部屋に戻ると、少し粉っぽくなった服を脱いで着替えた。再び食堂に戻った時にはみんなが勢揃いで昼食を摂っていた。


 砂糖醤油の小皿を持ってお餅をひたすらに食べているのはロッドさん。茉莉花に話しかけながらきな粉をまぶしたお餅を食べているのが、女冒険者のルーナさん。もう一組の男2人、ハイドンさんとルークさんは何故か真君と腕相撲をしている。

 ……凄いな、あのハイドンさんて人。真君と力が拮抗してる。この2人もかなり有名な冒険者なんだろうな。


 みんな、私の顔を見ると「美味しい!」と満面の笑みを見せてくれる。


 それが嬉しくて私も笑みを返す。


 久しぶりの餅つきはとりあえず大成功で終わった。この後、差し入れに餡ころ餅を作りギルドへ差し入れをしたり、お雑煮の味で兄弟喧嘩が勃発するのは、また別のお話―――。






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