表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
視点使いの転生勇者  作者: 悠然やすみ
最終話「視点使いの転生勇者」
66/67

16

「えーっ」


 話を聞き終わったアリーテはあからさまに不満げな表情となって、頬をハムスターのように膨らませた。するとメファヴェルリーアは不愉快そうに鼻を鳴らして、


「何よ、文句でもあるわけ?」


「だって、メガベロベロリってトラブルメーカーじゃないですかぁ。絶対に問題起こすに決まってますよぉ」


――お前も同じようなもんじゃねーか。


 心の中で、ポツリと呟く。下手にツッコんで火に油を注ぐ結果になったらマズいと思い、にらみ合って火花を散らし始めた天使と悪魔の姿を静観する。ふと、側でクスリと笑い声が起こる。見ると、傍らに兜を置いた騎士が頬を緩ませていた。俺の視線に気づいたらしい彼女は、照れくささを紛らわすように頭を撫でつけた。草原の穏やかな風に吹かれ、麗しいシルバーブロンドの髪が優雅になびく。


「どうしたんですか、セイーヌさん」


「いや、これから随分と賑やかになるだろうと思うと、ついな」


「賑やかになりすぎるのも、困りもんですけどね」


「それにしては、ユート殿も嬉しそうじゃないか」


「え?」


 虚を突かれたような感じがして、俺は戸惑った。そして、彼女の言を聞いてようやく、自分の顔もまた綻んでいたという事に今更気づく。どうやら、アリーテとメファヴェルリーアの喧噪を眺めているうち、俺もいつの間にか微笑んでいたらしい。途端、その事をセイーヌに見抜かれた気恥ずかしさを覚え、自然と苦笑した。先ほどと打って変わって、立場逆転だ。


「そうですね」


 俺は頬を掻きつつ、小さく頷く。


「騒がしいのも、悪い事ばかりじゃないですから」


 口にしてみて、自分自身の変化に我ながら驚く。いつからだろうか、本音をぶつけ合えるのが心地よいと感じるようになったのは。


――もしかしたら、アイツのせいかもしれないな。


 悪魔との口喧嘩を延々と繰り広げている天使の姿を見つめながら、そんな事を心中で思う。ふと、洋館で力尽きた時、脳裏に浮かんだ言葉を思い出した。次、生まれ変わった時は。命を賭けずとも大勢の人々を助けられるような、そんな強い自分になりたい。


 今の俺は、まだまだ至らない勇者だ。シュバトゥルスを倒せたのも、他者から与えられた能力や薬、そして仲間達の助けがあったからこそ。自分自身の実力で成し遂げられた事は、何一つ無いだろう。


――だけど、いつかは。


 いつかは、その名にふさわしい人間になりたい。何かの助けに頼る事なくとも、一から培った自らの力だけで他者を救えるような、そんな勇者に。


――その為にも、これから頑張らなきゃな。


 決心と共に立ち上がりながら、頭上を見上げる。広大な青空を、鳥達が彼方まで飛び去っていった。その姿が消え去るまで見届けた後、俺は全員に向かって声を上げる。


「それじゃ、そろそろ行こうぜ」






 これからも、俺達の果てしない旅は続く。






 胸に秘めた固い決意と共に、そして。






 この、かけがえのない仲間達と一緒に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ