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「えーっ」
話を聞き終わったアリーテはあからさまに不満げな表情となって、頬をハムスターのように膨らませた。するとメファヴェルリーアは不愉快そうに鼻を鳴らして、
「何よ、文句でもあるわけ?」
「だって、メガベロベロリってトラブルメーカーじゃないですかぁ。絶対に問題起こすに決まってますよぉ」
――お前も同じようなもんじゃねーか。
心の中で、ポツリと呟く。下手にツッコんで火に油を注ぐ結果になったらマズいと思い、にらみ合って火花を散らし始めた天使と悪魔の姿を静観する。ふと、側でクスリと笑い声が起こる。見ると、傍らに兜を置いた騎士が頬を緩ませていた。俺の視線に気づいたらしい彼女は、照れくささを紛らわすように頭を撫でつけた。草原の穏やかな風に吹かれ、麗しいシルバーブロンドの髪が優雅になびく。
「どうしたんですか、セイーヌさん」
「いや、これから随分と賑やかになるだろうと思うと、ついな」
「賑やかになりすぎるのも、困りもんですけどね」
「それにしては、ユート殿も嬉しそうじゃないか」
「え?」
虚を突かれたような感じがして、俺は戸惑った。そして、彼女の言を聞いてようやく、自分の顔もまた綻んでいたという事に今更気づく。どうやら、アリーテとメファヴェルリーアの喧噪を眺めているうち、俺もいつの間にか微笑んでいたらしい。途端、その事をセイーヌに見抜かれた気恥ずかしさを覚え、自然と苦笑した。先ほどと打って変わって、立場逆転だ。
「そうですね」
俺は頬を掻きつつ、小さく頷く。
「騒がしいのも、悪い事ばかりじゃないですから」
口にしてみて、自分自身の変化に我ながら驚く。いつからだろうか、本音をぶつけ合えるのが心地よいと感じるようになったのは。
――もしかしたら、アイツのせいかもしれないな。
悪魔との口喧嘩を延々と繰り広げている天使の姿を見つめながら、そんな事を心中で思う。ふと、洋館で力尽きた時、脳裏に浮かんだ言葉を思い出した。次、生まれ変わった時は。命を賭けずとも大勢の人々を助けられるような、そんな強い自分になりたい。
今の俺は、まだまだ至らない勇者だ。シュバトゥルスを倒せたのも、他者から与えられた能力や薬、そして仲間達の助けがあったからこそ。自分自身の実力で成し遂げられた事は、何一つ無いだろう。
――だけど、いつかは。
いつかは、その名にふさわしい人間になりたい。何かの助けに頼る事なくとも、一から培った自らの力だけで他者を救えるような、そんな勇者に。
――その為にも、これから頑張らなきゃな。
決心と共に立ち上がりながら、頭上を見上げる。広大な青空を、鳥達が彼方まで飛び去っていった。その姿が消え去るまで見届けた後、俺は全員に向かって声を上げる。
「それじゃ、そろそろ行こうぜ」
これからも、俺達の果てしない旅は続く。
胸に秘めた固い決意と共に、そして。
この、かけがえのない仲間達と一緒に。




