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SIDE――ユート
正直、アリーテの事を笑ったり蔑んだり出来るほど、俺だって勇者にふさわしいような人間じゃなかった。
勉強も運動も人並みには出来たし、学校生活だってまあまあ楽しんでいた。その場その場で話友達を自然に作って、教室で流行ったものにはそこそこに手を出し、誰とでも程々の人間関係を維持する。
クラス替えの毎に、進学の毎に、それを繰り返し、繰り返し。宿題に不満を吐き、親の悪口を洩らし、友人の溜息には相槌を打ち、行き過ぎた行為はやんわりと諫める。そんな日常を延々と送っていた。
どんな困難にも耐え抜ける強い意志。極悪非道を絶対に許さない正義感。困難に陥った者に手を差し伸べる思いやり。そのどれか一つでも自分にあるかと問われれば、首を横に振るだろう。そんな完璧な聖人君主ではない事を、俺が一番よく知っている。
ずっと、流されるように毎日を生きてきた。だから今でも、あの女神が俺を勇者として選んだ事には疑問を抱く。どうして俺だったのか、もしかすると人違いだったのではないか、と。強靱な心を持っていたわけではない、かといって獰猛な獣を殴り倒す力も持たない俺が、何故。
思い当たる節は一つだけ。俺が死ぬ間際に、女の子を助けた事。けれど、あの行動は衝動的なもので、決して正しい行いをしようと考えたわけじゃなかった。悲鳴が聞こえてきて居ても立ってもいられず、後先考えずに飛び出しただけだ。それが原因で殺される羽目になったのだから、思慮が浅かったのだと蔑まれても文句は言えない。
ただ、怯えた少女の瞳を見つめた時、俺の心の内に湧き起こった感情だけは、誰からにも否定させはしないものだった。そして、その気持ちが未だあるからこそ、俺は絶対にアリーテを犠牲にして生き延びたりはしない。
誰かを見捨てて逃げるくらいなら死んだ方がマシだと、心底思っているから。




