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視点使いの転生勇者  作者: 悠然やすみ
最終話「視点使いの転生勇者」
51/67

 頭をポンポンと叩かれる衝撃で、俺は意識を取り戻した。続いて、誰かさんの間延びした呼び掛けが耳に入ってくる。


「ユートさーん、いつまで居眠りしてるんですかー」


 すぐに目を開き、返事をしようとは思った。だが、瞼が異常に重く、頭も殆ど働かない。敗北の余韻が心を満たしていた事もあった。後、もう少しだけ。いつ何度湧いたかしれない想いと共に、俺は狸寝入りを決め込もうとする。


「起きて下さーい、朝ですよー。出勤時間ですよー」


 だが、声の主はそんな俺の意を汲み取るわけもなく、ゆさゆさと身体を揺らしてくる。


――悪いけど、もう少し寝かしてくれ。


 大体、出勤時間って何なんだよ。胸の奥でそう呟き、俺はあくまで眠っているフリを続けようと試みる。


 しかし。


「早く起きなきゃ会社に遅刻してしまいますよー! 上司に怒られますよー!」


 ドカッ、バキッ、ドゴッ。擬音語を仮に付けるとするならばこんな感じだろうか。とにかく、俺を起こそうとする行為がエスカレートしてきたので、俺は堪らず跳ね起きた。


「おい! 俺は会社員でも何でもないだろ!」


「あっ、ようやく起きましたね」


「ようやく起きましたね、じゃねえ!」


 と、目の前で悪びれる事もなく平然としているアリーテに怒鳴りつけながら、俺はハタと気づく。


「……って、ここは」


「あの牢獄ですよっ」


 天使は溜息混じりに言う。その背中に生えている純白の羽も、心なしか萎れているように感じられた。


「あれから私達、またここに閉じこめられちゃったんです」


「そうだったのか」


 頬を掻きつつ、周囲を見回す。脱出を阻む頑丈な鉄格子。俺達はその内に閉じこめられている。ただ、前回と違うのは、収容されている数が一名増えた事くらいか。俺と会話している彼女の他、セイーヌは暗い表情で壁に背を預け、メファヴェルリーアは神妙な面持ちで檻の外を眺めている。ちなみに、目に入る剣やら荷物やらは全て没収されたらしい。


 皆、意気消沈している様子だった。


「私達はすぐに目が覚めたんですけど、ユートさんがあまりに眠りっぱなしなので、それで起こしたんですよ。今後の事について全員で話し合いたかったですし」


「今後の事って?」


「勿論、ここを脱出する方法です」


「ああ……けど、もう打つ手がないよな。二度目は流石に警戒されるだろうし」


 すこぶる目覚めが悪い中、俺は額に手を当てて思案する。最初はメファヴェルリーアの手引きで何とか脱出に成功した。だが、今や彼女は俺達同様に捕らわれの身だ。魔力すら奪われた今、その援助は期待出来ないと考えた方が良いだろう。となると、ここから逃げ出す策は新たに捻り出す必要がある。


「見張りとかはいるのか」


 アリーテはコクンと頷いて、


「はい、頻繁に様子を見に来ます」


 やはり、警戒は強まっているらしい。どうやら、一筋縄ではいかないようだ。その時、ふとシュバトゥルスが最後に告げた言葉を思い出す。


「アイツ確か、俺達の事を魔力の源とか言ってたよな?」


「私に仕掛けたような魔術を貴方達にも使うつもりなのよ」


 と、メファヴェルリーアが渋い顔つきで会話に割り込んでくる。セイーヌもまた、口を開いた。


「けど、それだと変だぞ。既に魔力を吸収された筈なのに、何故、お前は処分されない?」


 すると、悪魔は苦々しい口調で、


「さっき、魔法を幾らか試してみたのよ。そうしたら、初歩的な術はまだ扱える事が出来るみたい。尤もかなり威力は落ちてたし、上級の魔法は発動すら出来なくなってたけど」


「じゃあ、お前の力は完全に吸い取られたわけではないのか?」


「まあ、そういう事ね」


「それなら、メファヴェルリーアさんの力でこの状況を何とか出来ませんか?」


 俺の問いかけに、彼女は残念そうに深い息を吐いて、頭を小さく振る。


「そういう力が残っていれば、もうとっくにここから逃げ出してるわよ」


「……そうか、そうですよね。じゃあ、この館の構造を教えてもらえませんか?」


「構造?」


 彼女の問いかけに俺は頷いて、


「はい。取りあえず、どんな場所に閉じこめられているか把握しておきたいので」


「なるほどね、分かったわ」


 メファヴェルリーアの解説によると、この館は三階建てであるらしい。地下は俺達が閉じこめられているこの一帯のみ。各階を繋ぐ階段は一ヶ所しか存在せず、シュバトゥルスのいる三階までの道のりは厳重に守られているそうだ。


「多分、外へ通ずる扉の方も今は警護されているわね」


「ううむ、退くのも仕掛けるのも一苦労ってわけですか」


「その前に、ここから再び逃げられるかどうかも危ういぞ」


「誰か、思いついた作戦とかないか?」


 俺の問いかけに良い反応を示した者は皆無だった。セイーヌは浮かない表情で目を落とし、メファヴェルリーアは唇を結んで天井を見上げ、アリーテは超高速で頭を横にブルブルと振る。俺もまた、約一名の既視感を覚えるオーバーリアクションにツッコミを入れる気力すらなくしていた。はぁ、と嘆息をついて、壁に背中を打ちつける。




 何か固い、小瓶のような物の感触を体に覚えたのは、その時だった。

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