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視点使いの転生勇者  作者: 悠然やすみ
第三話「ラブロマンスは悪魔と共に」
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 悪魔が去った後、ドーネルは頭を小さく振り、独り言のように呟いた。


「やれやれ、随分と嫌われてしまったものじゃ……尤も、仕方のない事ではあるが」


「あの……」


「おお、そうだ」


 呼び掛けると、老魔術師は何かを思い出したように瞬きをして、俺の方へと杖をついて歩いてきた。


「どうだ、精霊には会えたか?」


「あ、はい」


 そういえば、予期せぬ来訪者のせいで、先ほどの摩訶不思議な体験もすっかり頭から抜け落ちてしまっていた。俺が小さく頷くと、彼はその顔を綻ばせて、


「それは良かった。で、どんな力を得たのじゃ?」


「えと……分からないです」


 しまった、という思いが胸を渦巻く中、俺は視線を地面に向ける。よくよく考えると、あの精霊は俺に何の説明もしてくれてはいなかった。こちらから訊ねるべきだったのかもしれないが、今更悔やんでも仕方がない。


 だが、ドーネルは平然とした様子で、


「分からない事はないだろう。お主の頭の中にはちゃんと、かの精霊が授けた知識が存在する筈だ。よく考えてみなさい」


 そんなまさかと思って思考を巡らせてみると、


「……あっ」


 確かに、あの精霊が与えてくれた能力の詳細を、俺は知っていた。


「どうして……いつの間に」


 俺が呆然としていると、老人は快活な笑い声を上げて、


「彼らは言葉を用いなくても、他者に知識を伝える事が出来るからの」


 さあ、儂に見せてみなさい。ドーネルに促され、俺は練習した事もない謎の力を、取りあえず発動させてみる。すると、忽ち俺の眼前に透き通る障壁が出現した。


「うわ……」


 自然と俺は声を上げる。一方、魔術師の方は感嘆した様子で、


「ほう、相手の攻撃を防ぐにはうってつけじゃな。これがお主の得たいと願っていた力か」


「ドーネルさん、その」


 些か困惑しつつも、俺は彼に言った。


「もう一つ、あるみたいなんです」


「もう一つ? 精霊から授かった力が、か?」


「はい」


「なんと」


 ドーネルは驚嘆したように目を見開く。その深い緑色の瞳が、キラリと光った。


「そんな者、儂の知っておる限りではお主だけだ。流石は勇者様というべきかの」


「いえ、そんな」


「で、その二つ目の力とは一体どんなものなのだ」


「えっと、こんなのです」


 俺は目の前の老人を対象にして、先ほどとは別の力を発動させる。ドーネルは一瞬ドキッとしたようで、その痩せた体をたじろがせたが、やがて自らにかけられた術の正体に気がついたようで、


「ほお、これは興味深い。どれ、儂も試してみるかの」


 と、体を支えていた杖を握りしめ、両目を瞑る。すると、彼の真正面に先ほど俺が作り出したのと同じ障壁が現れた。しばらくするとそれは消失し、老人は好奇の眼差しで俺を見つめる。


「実に珍しい能力じゃの。『他者に自らの力を移し変える』とは」


 そう。俺があの精霊から授かったのは、『攻撃を防ぐ障壁を素早く出現させる力』と『魔法を唱える知識や剣の技術なども含めた自分の能力を指定した相手に貸し与える』の二種類だった。ただ、ドーネルには伝えないのだが、後者には『誰かに力を移している最中、俺はその力を失う』という一つの欠点がある。また、前者は俺の力量に応じてその強さを変えるので、現段階ではそれほどの硬さではない。後者も、俺が魔法などを使えない以上、現状さほど役に立たないだろう。


 精霊が言っていた通り、使いこなすには結局、俺自身の成長が不可欠という事らしい。


――サイドなんか、誰かにやすやす貸しちゃいけない能力だしなぁ。


「では、夕飯も出来ておる事だし、話の続きは食事を囲んでするかの」


「待って下さい、ドーネルさん」


 屋敷へ戻ろうとした彼を、俺は慌てて呼び止める。いますぐ、聞きたい事があったのだ。


「メファヴェルリーアさんと、知り合いだったんですね」


 彼女の名を持ち出すと、老人の小柄な背がピクッと僅かに反応するのが分かった。やがて、ドーネルは俺に振り向き、


「……ああ、そうじゃ」


 と、些か沈んだ声色で口を開く。


「一体、彼女と何があったんですか?」


「もう、昔の事じゃ。お主には関係のない」


「教えて下さい!」


 彼の言葉を遮り、俺は自分でも驚くくらいの強い語調で言った。それほど、彼女の事が気がかりでならなかったのだ。彼女はどうして、俺の事をわざわざ助け、警告までも残していったのか。借りを返しただけと本人は説明していたが、どうも納得がいかなかった。老魔術師と彼女の過去を知れば、その疑念に対する答えに行き着けるのかもしれないと思ったのだ。


「お願いします!」


「うむぅ……」


 ドーネルは最初、俺に話すのを躊躇っていた様子だった。だが、俺が諦めずに真っ直ぐな眼差しを向けていると、彼は目を逸らして俯き、唸り声と共に考え込む。そのまま、穏やかな時間がしばらく過ぎていった。やがて、老人は再び顔を上げ、俺を見つめる。その表情には、確かな決心の跡が浮かんでいた。




「……長い立ち話になるが、構わんかの?」




 老人は静かな声で言った。

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