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視点使いの転生勇者  作者: 悠然やすみ
第二話「ザ・半人前パーティ」
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17

「だから、えっと」


 上手く、言葉が見つからない。女性の扱いに慣れていれば、気の利いた発言でも出来たのだろうが、生憎、誰かと交際した経験なんて皆無だった。一度、年下の後輩から告白を受けた事はあるのだが、当時の俺が中学三年生で受験を控えていた事、そして彼女が将来有望な弓道選手で、俺の第一志望校にその部活が存在しない事の二つを理由に断ってしまった。性格も明るく愛嬌たっぷりで、俺自身も彼女に惹かれていたといえば惹かれていたのだが、彼女の将来を考えると付き合えなかったのだ。初彼女と遠距離交際を成功させる自信が皆無だったという事もある。


 だが、今更引くわけにもいかない。俺は高熱を帯びている頭をフル回転させて、自分の伝えたい気持ちを何とか表現しようと懸命に口を動かす。


「え、ええとですね、俺もセイーヌさんには悲しんだ顔より笑顔でいてほしいっていうか、少しばかり戦いが下手でも可愛げがあって良いと思いますし、ちょっとドジって転んでもギャップがあって大変ナイスですし、騎士団の人達も同じ気持ちなんじゃないかなと」


――って、俺は何を意味不明な発言してるんだ!


 勢いに任せた結果、とんでもなさ過ぎる文章を口にしてしまった。忽ち強烈な自己嫌悪感と羞恥心に苛まれた俺は両手で頭を抱え、ガックリとうなだれる。


 だが、返ってきた反応は、俺の予想に反していた。


「ふ、ふふ……」


 押し殺すような笑い声が耳に入ってくる。戸惑いつつも、俺は恐る恐る顔を上げてセイーヌの方を伺った。彼女は肩を小刻みに震わせている。だが、その動作が悲しみから生じたものではない事は、彼女の顔を見れば一目瞭然だった。


「す、済まない。ユート殿が真剣に話していたのは分かっているのだが、つい」


 目尻に涙を溜めて、セイーヌは言った。やがて、笑いの発作が収まったらしい彼女は、


「優しいな、ユート殿は」


 と、穏やかな声色で呟く。俺は照れ笑いと共に頬を掻いた。


「いえ、そんな」


「私も駄目だな、年下に励まされているようでは」


「セイーヌさんは立派ですよ。だって、自分一人になっても与えられた任務を果たそうとしていたじゃないですか」


 俺は嘘偽りない本音を力強い口調で言った。すると彼女は頭を軽く振って、


「いいや、ユート殿の方が立派だ。まだ若いのに、勇者という大役を果たしているのだから」


 そういえばまだ、年齢を聞いてなかったな。セイーヌは興味深げな眼差しを俺に向けて、


「ユート殿は一体いくつなんだ?」


 と、問いかけてくる。当然、サバを読む理由なんてある筈もなく、俺は素直に返答した。


「十六歳です」


「そうか。すると、私の二歳年下か」


「ああ、じゃあセイーヌさんは俺より二歳年上なんですか……」


――えっ?


 思いがけないタイミングで判明した驚愕の新事実に、俺は自然と硬直してしまっていた。十六歳より二歳年上、という事は。彼女の年齢は。


――セイーヌさんって、まだ十八歳なのか!? 嘘だろ!?


 外見からして、若くても二十代前半だろうと踏んでいた。何しろ長身だし、何せ立ち振る舞いが落ち着いているし、何とも抜群なスタイルだし。世が世なら、一流企業のキャリアウーマンとか国会議員の秘書でもやってそうな印象だったのだ。


 それが、俺とたった二歳しか違わない、世が世なら、高校三年生でもおかしくない年頃だとは。


「……ユート殿? どうしたんだ、固まって」


「え、いや。何でもないですよ、アハハハハ」


 心底不思議そうに呼びかけてきたセイーヌに対し、俺は笑顔を取り繕って返答した。まさか、女性に対して『若くても二十代だと思ってました』なんて、そんな失礼な本音は出せるわけがない。


「申し訳ない。もう少し年を取っていれば、シュバトゥルスとの戦いでもっと役に立てるのかもしれないが」


「そんな、別に関係ないですよ……って」


 先ほどとはまた別の意味で驚き、俺は神妙な面持ちの彼女を呆気に取られて見つめた。


「……セイーヌさんも、シュバトゥルスと戦うんですか?」


「ユート殿も、そのつもりなのだろう?」


「……それは」


 当然そうだと言わんばかりの口調に、俺は返答に困って押し黙る。その態度を肯定だと受け取ったのだろうセイーヌは、自らの胸に手を当てて、


「私はまだ未熟な騎士だが、それでもユート殿と最後まで、シュバトゥルスと戦うぞ。散っていった仲間達の為にも」


 散っていった仲間達の為。そのフレーズに、俺はハッと気づかされる。


「……セイーヌさんは、やっぱり強いですよ。俺なんかより、ずっと」


 自然と、そんな呟きを俺は洩らしていた。だが、彼女が何か言う前に俺は立ち上がり、


「セイーヌさんのおかげで、俺も吹っ切れました。ありがとうございます。それじゃあ、お休みなさい」


 と一礼して、自分の部屋へと戻った。障子を閉め、布団を被り、天井を見上げる。今度は恐怖心を、微塵も感じなかった。


――セイーヌさんだって、戦うんだ。


 俺なんかよりよっぽど辛い気持ちを抱えている筈なのに、だ。ならば、男の俺が怖がっていてどうする。


――だから、俺も戦う。戦って、シュバトゥルスを倒す。そして、その為に。


 柔らかい布団の上に置かれた二つの拳が、無意識のうちに強く握りしめられていた。




――今よりもっと、強くなる。

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