↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
視点使いの転生勇者  作者: 悠然やすみ
第二話「ザ・半人前パーティ」
21/67

「ん……?」


 火に当たりながら身を休ませていると、ふと掠れた呟きが聞こえてきた。ふと見やると、寝かせていた女性が上半身を起こし、未だ鈍く痛んでいるのだろう額に右手を当てて呻いている。


「ユートさん、目を覚ましましたよっ!」


 アリーテのはしゃぐような声に、彼女はようやく俺達の存在に気がついたらしい。ハッと顔つきを変え、顔を上げてまず俺にその澄んだ蒼い瞳を向け、次にアリーテへとその視線を移す。途端、彼女は驚愕からか目を瞬かせて、


「天使……か?」


 と、戸惑った口調で独り言のように言った。その声色は外見に違わず凛としていて、仄かな威厳すら含まれているように感じられる。


「そうですよっ」


 相手が自身の異質な姿に動揺しているのにも関わらず、アリーテは人懐っこい笑みを浮かべ、胸を張る。


「私は何を隠そう、天界からこの世界へ使わされたバリバリの現役天使なのですっ」


「まだ修行中だろ」


 ツッコミを入れると、騎士は再び俺の方を向いて、


「君は……」


 美人に真っ直ぐな瞳で見つめられ、俺は内心で照れながらも、


「俺はユートっていいます」


「私はアリーテです。ちなみに、ユートさんは勇者なんですよっ」


 今度は天使の方が横槍を入れてきたのだが、天使の言葉を聞いた途端、彼女の血相が変わった。


「ゆ、勇者殿!?」


 その声色はとても上擦っていて、俺は少し面食らいながらも、


「あ、はい。一応、勇者です」


 と、無難な返答をする。


「私達、近くで倒れてた騎士さんをここまで連れてきたんですよっ」


「それは……」


 彼女は両目を大きく見開き、しばらく言葉を失っていた様子だったが、やがて地面の上に姿勢を正し、


「素性を知らずに御無礼を働いた事、本当に申し訳ない」


 と、深い土下座を俺に向けてくる。俺は慌てて彼女に声を掛けた。


「いや、そんなにかしこまらなくていいですよ。多分、俺の方が年下ですし」


「ですが」


「大丈夫ですよ。ユートさんは勇者とはいっても、まだまだ駆け出しのひよっこですから。そこまで気を遣わなくても大丈夫です。敬語じゃなくて全然オッケーです」


 お前だってひよっこじゃないか、と思わず口に出してしまいそうになったが、それを懸命に堪える。何にせよ、ここで彼女の言があるのは有り難い。


「はい、アリーテの言う通りですよ」


 騎士の女性は俺達の言葉に気を許したらしく、


「それでは……お言葉に甘えさせてもらおう」


 と、平静を取り戻した様子だった。


「私の名はセイーヌ、メデキア王国の第九十六騎士隊に属する者だ」


「メデキア王国?」


 首を傾げたアリーテに、セイーヌと名乗った騎士は説明を始めた。彼女の話によれば、メデキアはケーリアとは別方向に存在する強大な王国なのだそうだ。ここから遙か遠い地にあるのだという。


「そんな王国の騎士さんが、どうして遙々こんな所までやってきてるんですか?」


 アリーテが不思議そうに目をパチクリさせながら質問すると、彼女は真剣な表情で、


「その理由は……王都内で、奇妙な事件が起こったからだ」


「奇妙な、事件?」


 聞き捨てならないフレーズを受け、俺の背筋に緊張が走る。


「一体、どんな事件なんですか?」


「話せば少し長くなるが」


 そう前置きしてセイーヌは語り始める。王都には沢山の店が存在し、凄惨な商売戦争を繰り広げられているらしいのだが、ここ最近になって、魔力補給を効能とする薬の類が、大量に盗まれる事件が多発しているらしい。標的となっているのは、主に道具屋や魔法店なのだが、その全てが被害を受けていたので、犯人の調査は著しく難航したのだそうだ。


 だが、王国にやってきていた幾人もの旅人達の証言で、事態は一気に進展を迎えた。悪魔とその手下である魔物達が、盗まれた物品をネメラ山の方向へ運んでいる事が判明したのだ。そこで国王は、第九十六騎士隊に対し、現地へ赴き調査を行うよう命じたのだった。


――それって。


 話を聞き終えた俺とアリーテは、自然と顔を見合わせる。


「ユートさん」


「ああ、俺も同じ事を思った」


 困惑の表情を浮かべる彼女に、俺は同意の頷きを返し、そしてセイーヌへ向き直ると、


「セイーヌさん、実は俺達の方も話しておきたい事があるんです」


 これまでの経緯を説明すると、彼女もまた驚いたように目を見開き、自身の口元へ丸めた人差し指を当てて考え込む。微風と友に、彼女の艶のある銀髪が僅かに揺れた。俺は言葉を続ける。


「メデキア王国で起こってる事件と、俺達が遭遇した事件。もしかしたら、何か関連性があるんじゃないんですか?」


「確かに……私もそんな気がする」


 俺は事件に関して話し合いを更に続けよう口を開きかけた。だが、俺が言葉を発するその前に、


「……あれ? ちょっと待って下さい」


 と、何かに気がついたらしいアリーテが、可愛らしく首を傾げて会話に割り込んできた。




「さっきの話だと、セイーヌさんは騎士隊の皆さんと一緒にここまで来てたんですよね? それなのに、どうして今はお一人なんですか?」




――あ。


 彼女の疑問に、俺もまたハッとさせられる。確かにアリーテの言う通りだ。セイーヌの話が本当なら、彼女の他に隊員がいて当たり前な筈だ。いくら何でも敵地に近い場所で単独行動など、普通なら有り得ないだろう。


 にも関わらず、彼女は一人で道に倒れていた。


 その状況が示す理由を考え、俺の脳裏を真っ先によぎったのは。


「それは」


 表情を曇らせたアリーテは、やがて、言葉を震わせながら告げた。悔しさと憤りと、そして悲しみの綯い交ぜになった声色で。




「……私を残して、全滅したからだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。