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視点使いの転生勇者  作者: 悠然やすみ
第一話「始まりの日は慌ただしく」
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 あれから。メファヴェルリーアが逃走してからすぐ、俺達が昨夜の出来事について報告しにいくと、町長はすぐに住民達を召集し、早朝には森へと大規模な捜索隊が出発した。彼らの調査によって、彼女の証言していたらしい森奥の洞窟は発見され、男の子達は一人残らず無事に救出された。ちなみに子供達は皆、自らが誘拐されていた時の記憶が欠落していたそうだ。ただ、全員が傷一つ負っていなかったそうなので、どうやら彼女の言っていた事は真実だったらしい。


 また、洞窟内からは魔力補給のポーションも大量に発見された。ただ、盗難被害に遭っていた総量には程遠く、こちらもまた、メファヴェルリーアの話していた通り、その大部分が別の拠点へと移されてしまっていたらしい。

 森から引き上げた後、町長達は悪魔を雇っていた宿の主人を問いただした。彼が身を縮こませて語ったところによると、彼もどういった経緯でリーネを雇ったのか、全く覚えていないのだという。ただ、気配りの出来る美しい看板娘はいつの間にか働いていて、客からの評判もすこぶる良い彼女のおかげで宿が繁盛していたという事もあり、彼自身もその事を全く気にしていなかったのだそうだ。


 とにかく、事件の犯人だった悪魔も何処へ消え去ったため、取りあえず事件はこれで一件落着となった。町の住民達はこちらが恐縮するくらい何度も何度も頭を下げてきた。町長は代表として惜しみない援助を申し出てくれ、その厚意にあずかり、俺達は旅に必要な物品を分けてもらう事にした。荷物を詰め込むバックパック、替えの衣類に調理器具、日持ちのよい食料等々。


「もう出発なされるのですか? せめて一晩でも泊まって頂けましたら、最大限のもてなしを振る舞えるのですが」


 出立の際に町長から告げられた有り難い申し出を、俺達はやんわりと断った。確かに事件は解決したが、未だ謎は残っている。メファヴェルリーアの告げていた『計画』と、その鍵を握る者『シュバトゥルス』だ。一刻も早く、俺達はその真相を解き明かし、必要となればその計画を阻止しなければならない。その旨を説明すると、彼は残念そうながらも納得してくれた。


「そういう事なら、仕方ないですな。お二人の旅路に幸多き事を祈っておりますぞ」


 私は人間じゃないですっ、と空気を読まずに幾度目かの抗議を上げたアリーテの首根っこを掴み、俺は御礼の言葉を告げた後、彼女を引きずるようにして、ケーリアを後にしたのだった。延々と続く草原の中を歩き始めた俺の耳には、町の人々の歓声が長い間、ずっと届いていた。


 だいぶ時間が経ち、町がすっかり見えなくなった頃、すっかり膨れっ面をしているアリーテが口を開いた。彼女の気持ちに呼応しているのか、その背中では二枚の羽がパタパタと元気にはためいている。


「全くっ。どうして人は天使を単位『人』で数えようとするんですかっ」


「お前って変なところに拘るよな」


「じゃあ、ユートさんはどうなんですかっ」


「え?」


「もし自分の事、『一匹』扱いされたらどう思います?」


「あー、確かにそれは嫌だな」


 なるほど、と俺は彼女の憤りにすんなりと納得していた。実に分かりやすい喩えだったと思う。ただ、同時に一つの疑問も浮かんできた。


「じゃあさ、お前って自分をどう数えてほしいんだよ」


「それはもう、決まってるじゃないですかっ」


 俺の質問に、彼女は朗らかな笑顔を浮かべ、歌うように宣言した。




「『一羽』ですよっ!」




 予想の遙か斜め上をいく回答に、俺は開いた口が塞がらなかった。


「……は?」


「違いますよっ。『は』じゃなくて『わ』ですっ」


「お前は本当にそれでいいのか、それで」


「え、どういう意味ですか?」


「だって、羽って鳥とかの数え方だぞ」


「むー、それは聞き捨てなりませんね」


 アリーテは再びしかめっ面に戻って、


「そういう言い方は私達だけでなく鳥類や可愛い兎達に失礼なんですがっ」


「いや、別にそんなつもりじゃ」


「謝って下さいっ。全ての天使と鳥と兎達、その他諸々に!」


「す、すいません……」


――もうコイツ、本当に訳分かんねぇ……。


 天使とはどうやら、人間の想像を遙かに越えた感覚を抱いている生き物らしいという事だけは理解出来た。いや、つまり。彼女の言い分を整理すると、天使は人間より鳥に近しい存在なのだろうか。


「……うう、色々と考えすぎて疲れちまう」


「そんな、まだ旅を始めて二日目なんですよ」


 殆どお前のせいなんだよ、そう口を開きかけようとしたところで、彼女の言葉にはたと気づかされる。


「あ、そういえばそうだな」


 もう、かなりこの世界で過ごしていたような感じがしたのだが、実際はまだ一日程度しか経過していない。


「昨日が大騒ぎ過ぎたんだよなぁ、色々と」


「とんでもなく慌ただしい初日でしたねっ」


「全くだ」


 ああいった日々がこれからも続いていくのかと思うと、何となくげんなりしてしまう。落ち込んでいく気分を首を振って紛らわし、俺は気分転換に懐から地図を取り出した。町で貰った道具の一つだ。


「ええと、ネメラ山っていうのは、こっちの方角であってるんだよな」


 隣から覗き込んできたアリーテは小さく頷いて、


「はい、そうみたいですよっ」


 と、同意の声を上げる。


「よし、それじゃあ張り切っていくかっ!」


「はいっ!」


 俺の高らかな叫びに、彼女もまた元気よく返事を続けた。燦々と輝く陽光と雲一つない晴れやかな青空の下、俺達は目的地を目指して進み続ける。




 こうして、俺とアリーテの長く険しい旅路は、本格的な始まりを告げたのだった。

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