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視点使いの転生勇者  作者: 悠然やすみ
第一話「始まりの日は慌ただしく」
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「な、何よ!」


 開き直った様子のメファヴェルリーアが、少々後ずさった俺達に怒鳴った。


「どんな趣味を持ってたって、人の勝手じゃない!」


「だから貴方は悪魔じゃないですかっ」


「それに誘拐してる時点で駄目だろ」


「ぐぐっ……」


 俺とエリシアの指摘に、彼女は不服そうな唸り声を上げながらも言葉を失った。


「まあ正直、貴方がどんな性癖を持っていようと興味はないんですけど」


「お前、たまに容赦ないよな」


「それより、まだ聞きたい事があります」


 いつになく険しい表情で、アリーテは言葉を続けた。


「さっき出てきた『計画』について、詳しく話してもらいましょうか」


 天使の言葉に、メファヴェルリーアは苦虫を噛み潰した顔つきになり、


「悪いけど、それについては口が裂けても教えられないわね」


 と、頑なな口調で告げた。そんな彼女をアリーテは睨みつけながら、


「今の自分の状況、分かって言ってますか?」


「当たり前でしょ」


「それなら、言葉通りにしてあげます」


 アリーテは右手に握っていた俺の剣を再び振りかぶり、メファヴェルリーアへと近寄る。


「お、おい」


 俺は慌てて両者の間に割って入った。傷だらけの悪魔に背を向け、両手を広げて天使と相対する。そんな俺を一瞥して、真剣な様子のアリーテは、彼女に似つかわしくない冷淡な口調で告げた。


「ユートさん、そこをどいて下さい」


「もう、いいだろ。いくら悪い事したからって、これ以上メファ……リーネさんを傷つけるのは」


「ユートさん、貴方の後ろにいるのは人間じゃありません。世界に仇なす悪魔なんです」


「そんなのは分かってるよ。でもさ……」


「でも、何ですか?」


 言葉に詰まる俺に、彼女は先を促してくる。俺はすぐに答えられなかった。正直、どうしてこのような行動に出てしまったのか、自分でもよく分からなかったのだ。胸の奥にうずまく曖昧な気持ちを何とか形にしようと、俺は強く悩みながら、ゆっくりと言の葉を紡ぐ。


「そりゃあ、薬を盗んだり人をさらったり、彼女の行いは許される事じゃないと思う。だから、その裁きは受けるべきだ」


「なら……」


「でもさ」


 発せられたアリーテの声に被せるように、俺は語気を強めた。


「悪魔だからって差別したりとか、身体を容赦なく傷つけたりとか……そういうのって正しいのか? 悪魔だったら殺しても罪にならないのか?」


「そ、それは」


 今度は、アリーテの方が言い淀む番だった。背後でも、メファヴェルリーアがハッと息を飲むのが耳に届いてくる。俺は自分の思いをアリーテに理解してもらおうと、少し口調を和らげ、必死に語り続けた。


「それにさ、彼女の言い分が本当なら、子供達には危害を加えてないって事になるだろ? 勿論、ポーションの損害とか、弁償してもらわなくちゃならないものは沢山あるけどさ。少なくとも、命まで奪う必要はないんじゃないか?」


 しばらく、アリーテは顔を俯け、何も発しないままだった。静けさを取り戻した室内に、夜空を飛び回っているだろう鳥の鳴き声が虚しく響きわたる。


 やがて、上目遣いで俺を見つめたアリーテは、ポツリと言った。


「……ユートさんがそう言うなら。私は構わないです」


――良かった。


 彼女が説得を聞き入れてくれた事で、俺の心の中には安堵の気持ちが広がっていった。


 だが、すぐに後ろから、突っ慳貪な声が聞こえてくる。


「それで、恩を売ったつもり?」


 振り向くと、メファヴェルリーアが俺を強く睨みつけている事に気がついた。その表情を崩さないまま、彼女は言葉を続ける。


「始めに言っておくけど、坊やの言葉で改心しようなんて気はちっともないわよ」


「別に、今すぐ反省しろとは言わないさ。それよりも……あ、いいところに」


 周囲を見回すと近くの棚に包帯があった。何故ここにあるのかは分からないが、そこら辺はまあ適当に何か理由があったのだろう。俺はそれを手に取り、メファヴェルリーアの側でしゃがみこんだ。


 そして。


「ちょ、ちょっと。何し……」


 悪魔の甲高い狼狽えた声に、俺は笑って答えた。


「見て分かるだろ。傷を塞いでるんだ」


「け、けれど私は敵なのよ……」


「だから、さっきも言ったろ」


 血だらけの背中に白い包帯を巻き付けながら、俺は言葉を続ける。


「たとえ相手が敵だからって、悪魔だからって、どんな酷い仕打ちでもやっていいわけじゃないって、そう思ってるだけさ」


「……その甘さ、いつか命取りになるかもしれないわよ」


「それでもいいよ」


「……馬鹿な坊やね」


 やがて、応急処置が終わり、俺はふうと小さく息を吐いた。


「それじゃ、朝が来たら取りあえず町の人達に謝ってもら」


「謹んでお断りするわ」


「え?」


 途端、俺は見えない力に押されるようにして、後方へと吹っ飛ぶ。


「うわっ!」


「ユートさんっ!」


 アリーテが抱き止めてくれたおかげで、何とか怪我を負わずに済んだ。ふと視線を向けると、腕組みをして立ち上がっているメファヴェルリーアが視界に入る。彼女はフンとソッポを向いて、


「絶対、この礼なんか言わないわよ! それに、今度会った時だって手加減はしないわ! 覚えておきなさい!」


 と、尖った口調で叫んだ。そして、次の瞬間。彼女の姿は、忽然と消失したのだった。




「やっぱり逃げられちゃったじゃないですかー! ユートさんのバカー!」


「わ、悪い……」

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