覚醒
本来はここから第二部「霊能者になった俺は世界を救えるか?」という名前でdnovelsでは連載していましたが、こちらではこのまま連載を続けさせて戴きます。
霊能者になり,超能力一家と懇意になった主人公。
美人で素晴らしい恋人も手に入れて、いよいよその能力を発揮できるのか?また、恋人の凄まじい能力にも驚きます。
この二人が巻き起こす騒動をご覧下さい。
先ほどクーラーが指定した温度になったので一時停止をした。
表からは、セミの声が喧しく聞こえている。
俺は隣で横になっている陽子に語りかけた。
「大丈夫か?」
すると、今まで規則正しく呼吸をしていた陽子が
「大丈夫ですよ。毎日少しずつですが楽になって来ていますから」
「そうか、それは良かった……」
「それより達也さんはどうですか?」
「俺か? まあ何とかなってるよ」
「今日で4日目ですから5日を過ぎると一気に楽になるそうですよ」
「そうかあ、明日になれば楽になるのか……」
「もう少し寝ていた方が良いみたいですね」
「そうだな夜までは寝ていよう。それしか出来ないのだからな」
「そうですね……」
再び部屋に静寂が戻った……
俺の名は上郷達也、ひょんなことから霊能者になってしまった一介のサラリーマン。
俺の横で寝ているのは桜井陽子、都内にある中堅商社の受付嬢をしているのだ。
というのは名ばかりで、本当はパラレルワールドを行き来できる力を備えている超能力者である。
俺達はひょんな事から恋人同士となり、こうして先月から一緒に暮らしているのだが、恋人と言う関係になって、半年以上も経つのに未だ深い関係を結んでいなかったのだ。
それにはちゃんとした理由があり、俺達は常人には無い能力を持っているため、普通の人間なら兎も角、能力者同士で交わると、お互いの能力が触媒代わりになり、自信の能力が著しく向上するのだ。
しかし、それには副作用がある。
能力の向上が見込まれれば、見込まれる程、体がその事に対応するために、日常生活さえも困難になるほど、体力が低下するのだ。
俺達は8月の8日から夏休みを取り、都合10日分の生活の品物を用意して、その晩に結ばれたのだ。
それは、それは素晴らしい体験だった。
染み一つ無い陽子の白い肌を抱けて俺は最高に満足だった。
もちろん、最愛の人と一心同体となった感激は言う迄も無い。
それに、陽子も初めての体験をしたので、俺はその体の事も気がかりだった。
妊娠はしていないと思うが、初体験だった陽子の負担はやはり俺以上だったと思うのだ。
「わたし、達也さんと結ばれて、とても嬉しいです」
と言ってくれたが、それでも体に異変が無いか気になっていた。
クーラの設定温度を高めにしてあるので、じんわりと汗をかく。
俺は気力と体力を振り絞って、やっと起きあがると、とりあえずトイレに向かう。
用を足して流しで手をよく洗って、冷蔵庫からアイスコーヒーを出すと氷を二つのグラスに入れて注ぎ込んだ。
「ブラックでよかったか?」
俺は陽子に訊くと、柔らかい声で
「ありがとうございます。それで結構です」
「ん、良かった」
俺はベッドの脇のテーブルに二つのグラスを置いて、陽子の体を支えて状態を起こす。
「すいません、このような事までさせて……」
「気にするな、お互い様だ」
俺はその陽子の隣に腰をかけ、グラスを陽子の手に持たせる。
二人でほとんど同時にグラスに口を付けて、その黒い液体を喉に流し込む。
「ああ、生き返るな……」
「ほんと、そうですね……」
実際、飲み慣れてるコーヒーでも、今の俺達には最高に旨い物に感じるのだった。
「でも達也さんは大分回復して来ましたね。わたしはもう少し掛かりそうです」
「どうもそうもみたいだな、休みのうちに回復すれば良いがな」
「それは大丈夫だと思いますが……」
「陽子がこれだけ重いとなると、能力の向上も凄まじいかもな」
「そうでしょうか? わたしは心配です……」
「俺がついてるよ。安心しろ」
「はい、そうします」
そう言って俺も陽子の隣に並ぶようにすると、口づけを陽子が求めて来たのでやさしく応じる。
以前は口づけだけでダウンしたのだがな……
翌朝、起きると気力回復しているのが分かった。
体力も元通りとは行かないが、かなり回復しているみたいだ。
俺は寝ている陽子を起こさない様に静かに起きて、とりあえずトイレで用を足す。
真黄色な尿が出て、俺の体が回復しつつある事が分かった。
慎重に手と顔を洗ってベッドに戻ると、陽子が丁度起きた処だった。
「おはよう、よく眠れたか?」
「あ、はい。おはようございます」
「どうだ、調子は?」
「そうですね……もう少しだと思います」
朝起きて最初にしたい事はだれでも同じだ。
俺は陽子を抱き抱えるとトイレに連れて行った。
「恥ずかしいので見ないで下さいね」と言う陽子に
「ああ、大丈夫だ、心配するな」と言い聞かせて座らせ、ドアを閉める……
やがて「もう良いですよ」と言う声でドアを開け再び陽子を抱き抱えてベッドに戻ろうとすると「台所のテーブルに座らせて下さい」と頼まれるので、その体を望みの所に座らせる。
「ありがとうございます。わたしも明日には大丈夫かも知れません」
「そうか、なら良かったな。じゃあ朝ご飯でも作ろうか」
そう言って支度に掛かる。
ここで俺は自分の能力がどれぐらい上がっているのか興味が湧きだしたので、久しぶりに心のチャンネルを解放してみる。
なんせ、昨日までは、こんな事さえ出来なかったのだ。
何日ぶりかで霊達を見ていると、驚いた!
この部屋一杯に上郷の霊と櫻井の霊で充満しているのだ。
「驚いたな」
それが正直な感想だった。
「久しぶりじゃの」
「ああ、ばあちゃん。でも凄い数だね。どうしたんだい?」
俺は挨拶もそこそこに訪ねてみると
「バカ者、こうして上郷の霊と櫻井の霊がおまえ達をしっかりとガードして守っていたのじゃぞ」
「え、ずっと?」
「そうじゃ、うん、しっかりと二人が契りを結ぶのも見届けさせてもらったぞい」
「見ていたのか!こんな大勢に……」
「それにお前さん、以外と優しいのお、甲斐甲斐しく陽子ちゃんの世話を焼くので櫻井の霊達は皆喜んでおるぞ」
「そ、そんな事まで見ていたのか……かなり恥ずかしいなこりゃ……」
「でも、お前も自分の能力が上がったのが判らないか?」
そう、ひいばあちゃんに言われて俺は冷静に霊視してみると、自分の祖先や櫻井の祖先、それにそれ以外の集まっている霊の素性が手に取るように判るのだった。
要するに、ここにいる何千と言う霊と同時に交信が出来る様にになったと言う事だ。
これは凄い! これほどの進化とは思わなかった。
しかも、ひいばあちゃんは
「まだ、まだ、序の口じゃて、もっと驚く事になろうて」
と言って笑ってる。
体験上、凄くなる事は判っていたが、これほどとは思わなかった。
「だがの、陽子ちゃんの進化はお前さんを凌ぐかもしれん」
「そんなに凄いのか?」
「ああ、きっと異世界へお前を連れて行ってくれるじゃろう。ワシもお前に付いて一緒に見物出来るじゃろうて」
「なに、ひいばあちゃん達は霊でも異世界へ行けないのかい?」
「当たり前じゃろう!ワシ達はこの世界の霊じゃ。形は無くともお前らとその点では変わらん」
「そうなのか。それじゃ陽子の能力は凄いんだな」
「そうい言う事じゃ」
「達也さん。どうかしましたか?」
陽子が不思議そうな表情で俺を見ている。
今、行った俺とひいばあちゃんの交信は時間で1秒か2秒の間だったから、陽子には俺が一瞬考え事をした様にしか見えなかったのだと思う。
俺は、今ひいばあちゃんに訊いた事を陽子に話し、もうすぐだと励ますのだった。
俺の能力もその実力も未だ真価を発揮させていないそうだし、更に陽子の能力も凄まじい事になりそうだ。
果たしてこの後どのようになって行くのかは、俺達にもひいばあちゃん達にもそれは判らない事なのだ……
俺は陽子と朝食を食べながらも、この想い人をしっかりと守ってやらねばと心に誓ったのだ。