回復と能力
結局、完全にダルさと言うか後遺症が抜けるまで1週間は掛かってしまった。
でも、その後は、俺の能力はかなりにになっていた。
まず、違うのはその霊の見え方が違って来た事だ。
肉眼の目で見えないのは同じだが、感覚で感じていた前とは違い、まるで本当に見えて居るような感じがするのだ。
それは、俺の肉体的な目と、心の目が完全に融合したと言う事で、それ自体がかなりの進歩だと言う事だ。
それから、霊との交信も今までは心の中で文字化しないと通じなかったが、今では映像を思っただけで通じる様になった。
1回のキスでこれだけ進化するのだから、次のキスではどれだけかと思っても、そうは行かないらしい。
キスはキス止まりで、よっぽど長く粘膜を結合させてないと、進化しないのだと言う。
と言う事は次はいよいよ……となるのだが、これをやってしまうと、どれだけダメージが身体にあるか判らない。
つまり、俺と陽子はお互いが思っていても、交われないと言う事だ。
只、解禁されたのがキスと言う事なんだと理解した。
能力が上がった俺に早速ボランティアの仕事が廻って来た。
これは会社の帰りなどに行われるのだが、俺の担当は、いわゆる霊障と言われる傷害で、、
その傷害をその人の守護霊に訊いて解決するのだ。
場所は都内某所で、桜井家が借りてるオフィスだ。
そこに応接間がありそこで行うのだ。
最初の患者と言うかお客は、霊障で頭痛が治らないと言う女性だ。
会ってみて、守護霊に訊くと、守護霊さんは怒っていて、霊障じゃ無く、冷えから来る婦人病で、医者に行けばすぐ治ると俺に伝えて来た。
全く……
大体がそんなたぐいの客なのだが、たまには本物が来る。
その女性は他所の所では「蛇の霊が付いている」と言われたそうだ
身体が兎に角冷えて仕方がないのだという。。
実際、見てみると、何だか守護霊の他に何だか別の霊も付いている。
「こいつは誰だ?」本人の守護霊に訊いてみると動物の霊だと言う
これは困った、何にしろ話が通じないのだから、と思っていると、その動物霊が何か言いたそうな感じなのだ。
まさか、動物 なんかと話が通じるのかと思っていたら、ハッキリとは判らないが、どうやら、懇ろに弔って欲しくて憑きやすい人に憑いたみたいなのだ。
だから、客には本当の事を言って、納得して貰った。
後日、俺の手紙が来て、お坊さんにお経をあげて貰ったら、嘘の様に治ったそうだ。
まあ、こんなのだったら良いのだが、ある日俺が会社で休んでいると、その日は室長は有給で休みで、編集長は一応予算の会議に出なくてはならず、部屋には居なかった。
資料室には俺と、島田さんと愛川さんの3人だけだった。
そのうち、お局の島田さんが
「今日何だか具合が悪いから早引きするわね」
そう言って帰ってしまった。これで愛川さんと二人だけだ。
彼女とは世間話以外はしたことがない。
それに前見た時は彼女には守護霊が憑いていないと思っていたのだが、俺の能力が上がって再び見た処、違っていた。
なんと、彼女の身体に守護霊が入り込んでいるのだ。
なんだ、これは?
そう俺が思っていたら、いきなり愛川さんが普段とは違う声で
「なあ、あんた上郷とか言っていたっけ?」
そう呼びかけて来た。
「は、いったいなんですか愛川さん」
「あんた隠してるけど、霊能力者だろう! いいや隠さなくても判って居るんだ」
俺は、それでも黙っていた。
完全に愛川さんの声じゃ無い……と言う事はこれが守護霊そのものの声なのだ。
「まあ、黙ってるなら、こちらから一方的に言うまでだがな」
「この、身体に入っていた元の魂つまり霊だがな、早とちりであの世に行ってしまったんだ。
だから、空白になったこの身体に、便宜上俺が入ったんだ」
ここまで言われては俺も黙ってはいない。
「それで、俺にどうしろと言うのですか?」
「おお、やっと本気で取り合ったか」
「それでな、大変に不都合なんだ。この状態は……」
「だから、どうするんですか?」
「お前の気、つまり霊力を少し分けて欲しいのだ」
「それでどうするのですか?」
「分霊をする!」
「ぶ、分霊!? それって、知ってはいるけど、ここで出来るの?」
「そこでお前さんの力がいるのだ」
「協力して貰う……まあ運が悪かったと思って諦めろ」
「俺が死ぬのか?」
「死にはしないが、かなり疲れるな……まあ受付の陽子に助けて貰えば良いな」
「陽子に助けて貰えばって……なんでそれを……」
「ばか、俺は守護霊だ。それくらい判らないでどうする」
「さいですか……」
「でも、先ほど言ってた、早とちりであの世に行ってしまった、ってどういう事?」
「それはな、事故で偶然だが魂が身体から抜けてしまったのだ」
「こういうのはたまにあるのだが、大抵は我々守護霊がすぐに返すのだが、今回は本人が自殺を考えていただけあって、これ幸いとあの世に行ってしまったのだ」
「へええ、そんな事が……」
「一度でもあの世に行ってしまえば、生まれ変わる以外はこの世には帰って来られないのだ」
「じゃあ、そのまま死んだ事にしていた方が良かったのじゃ無いの?」
「ばか、この体が滅する日はちゃんと定められている。その期限前に傷つけたり、死んで無くしてしまうのは大罪なのだ」
「じゃあ、自殺も大罪?」
「当たり前だろう、神との約束を破ってしまったのだからな」
「そう言う事だ、だから力を貸せ!」
そう言って愛川は俺の腕を掴んで来た。
全く外見は女子なのに、中身はおっさんだからな……
やがて、俺は激しいエネルギーの躍動を感じ、愛川を見ると、全身が光に包まれている。
物凄いショックが俺を襲い、身体が言う事を利かなくなって来る。
やがて、倦怠感が俺を襲い、意識が遠くなっていく。
薄れていく意識の中で俺は彼女の守護霊が分霊に成功した事だけを確認するとそのまま机に倒れ込んで意識をなくした。
「どうしましたか……達也さん……」
俺の耳元で陽子の声がする。
俺はなんとか目を開けると周りを確認した。
資料室には俺と、陽子しか居なかった。
「ここに、もう一人女子が居なかったかい?」
「いいえ、私が来た時は達也さんだけでした」
そうか……俺を残して帰ったのか、俺には陽子がいるからと言っていたな。
俺は事の顛末を陽子に話すと、陽子はすぐ理解し、俺と手を繋ぎ、気を俺に分けてくれた。
15分もすると何とか歩けるまでには回復をした。
「でも達也さん、かなりの進歩じゃ無いですか!」
「そうかぁ、何だか災難だけが多くなった気がするがな」
その日はボランティアは無い日だったので、俺は陽子に送らてアパートに帰った。
一緒に陽子も部屋に入って来たので、俺は
「もう、大丈夫だよ。うん」
そう言うと、陽子は少し恥ずかしそうにして
「違うんです。これからの事を話そうと思いまして」
「これからの事? 俺と君の事か?」
「そうです! つまり、二人のその……あの……」
いくら鈍い俺でもここまで陽子に言われれば判る。
「つまり俺が陽子、君を抱くって言う事だろう?」
「はやい話が……そう言う事になります?」
「なるだろう!」
「そうですよね……」
陽子は、いわゆる時期を決めようと言うのだ。
「果たしてどれくらいダメージがあるんだろう?」
「そうですねえ……私の両親の時は1週間は寝ていたそうです」
「1週間! それはたまらんな」
「でも3日間は寝たきりで、その後は外出は控えて、家の中で暮していたそうです。
「じゃあ、食料やなんか買い込んで、準備してそれからか……」
「そう、ですね……夏休みですかね?」
「う?ん、有給を組み合わせて、10日間くらい貰わ無いと駄目だね」
「そうですね。上郷さんは大丈夫でしょうけど、私は難しいですかね」
「受付が10日も休んじゃ困るか……」
「そうです、忌引きを使いましょう。伯母か叔父が亡くなった事にして、夏休み前に休むのです。そうすれは都合10日は大丈夫です」
「そうか、じゃあそれにしようか」
何とも締まらない話である。
だがきっと、上手く行った暁には二人共大変な能力が身に付いているのだと思う。
その後、実は陽子からの提案で、一緒に住もうと言う事になり、ここの処、一緒に住む部屋を探している。
俺達は頻繁に抱き合ったり、キスしたりはしているが、そこから先は未だなのだ。
今の俺の部屋で一緒のベッドで抱き合って寝ていても、只それだけなのだ。
でも、毎日逢って身体が接近した生活をしていると、慣れてくる感じがして、この分なら、
夏の事も上手く行く様な気がするのだ。
俺の能力は段々上がり、一度コンタクトを取った霊なら、この地表なら、かなり遠くても通じる様になって来たし、殆んどの霊とも上手く交信出来る。
ひいばあちゃんの言う事には、夏休みに向けて、上郷の霊と桜井の霊が共同で影響が他に及ばない様にするのだと言う。
つまり、それだけ凄い事なのだそうだ。
実感が湧かないがな……
その夏休みももうすぐやって来る。
俺と陽子はこの先も何時までも一緒にいようと約束をした。
俺にも人並みに幸せがやって来たらしいと感じる昨今だ。
次からは、その夏休みの俺達のてんてこ舞いぶりをお伝えしよう。
本来はここまでが第一部でしたが、ここではこのまま連載を続けさせて戴きます。その為オリジナルとは若干違っています。