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突然霊能力者になった俺に幸せを下さい  作者: まんぼう
第1章 突然霊能力者になった俺に幸せを下さい
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厄介な能力

 驚きの一夜の翌朝、俺は会社に行く事にした。

と言うより、もう休んではいられないからだ。

体力は未だ回復してなかったが、朝買ってあったあんパンを牛乳で流し込むと会社に出社するために表に出た。

朝の太陽の光をまぶしく受けながらも俺は何とか駅まで歩いて行く。

まてよ、昨夜の事が俺の夢で無いなら、ここで目をつぶると、アレが見えるのだろうか?

そっと、目をつぶってみる……すると、いるいる、駅に向かって歩いている人の頭のやや上の方向に何か丸い感じのモノが浮かんでいるのだ。

それは確実に人を思わせる感じで、しかもその本人となんらかの関係がある様だった。


何故そんな事が判るかと言うと、その頭の上に浮かんでいるモノとなんとなく交信みたいなものが出来るからだ。

とりあえす、それを便宜上ひいばあちゃんの言い方で「守護霊」と呼ぶ事にする。

その守護霊を見ていると、これも一応心の目で見ていると言う感じなのだが…・・相手の守護霊が何か言ってる感じがするのだ。

それを神経を集中して聞いてみると、おおよその事が判ってくるのだ。


現に今、前を歩いている女子高生の頭の上には彼女とよく似たおばあちゃんが浮かんでいる。

その霊に訊いてみると

「わたしは、この子の母親の祖母じゃ」

と返してくれた。つまりひいばあちゃんだ。

しかし、このままでは街中に行けばいくらでも人がいる。

そんなのを一々見ていたくないので、俺はなるべく目を開けたままで通勤する事にした。


その時、俺のひいばあちゃんが出て来て俺に

「大丈夫じゃ、そのうちにコントロール出来る様になる」

「ひいばあちゃんは、俺が目を開いていても通じるのか?」

「ああ、一旦回路が開かれれば普通の状態のお前でも会話出来るのじゃ」

「それにな、慣れれば離れている者の守護霊とも交信出来る様になるぞ」

それだけを聞くと、とても便利な様な気がするが、厄介な事が転がり込むとも取れる。

そんな事をひいばあちゃんと交信していたら、いつの間にか会社に着いた


自分の部署の「営業1課」に入ると、課長に呼ばれた。

まだ、遅刻はしていないと思いながら行ってみると

「上郷君、この度は災難だったねえ。見るからに体も痩せちゃって、如何に大変だったかが判るねえ」

「そこでね、それだけ大変な思いをした君に営業の激務はまだ辛いと思ってね。」

課長はそこで、一枚の紙切れを出し

「ここで暫く休んで貰ってね。回復したら戻って来ると言う事で、どうだろうか、と言う事になってね。暫くここに通って欲しいのだよ」

差し出された紙には「上郷達也  資料室に移動を命ず」と書いてあった。

つまり左遷だ。それもよりによって「資料室」とは……

「資料室」とはこの会社にあって究極の部署で、まずやる事が無いと言う話だ。

いや、あるにはあるのだが、それは社史の編纂と言う噂だが、本当はどうなのか判らない。

兎に角誰もやりたがらない仕事だ。

いったい、そこには何人ぐらいの人がいるのやら……

俺は絶望に似た気持ちで、「資料室」に向かった。


「資料室」はこのビルの一番上にあるのだが、直接ここまで来ているエレベーターは無い。

一階下の階迄しか通じて無いのだ。そこの階から、階段を半分登った所に「資料室」はある。

つまり簡単に言うと階段の踊場の所に入り口がある部屋と言う事だ。

その部屋の前まで行き

「失礼しま〜す」

そう言って俺は入り口のドアを開けた。

正面に定年間近と思われる人物が座り、左右の別れた机にも人がそれぞれ座っている。

右は40歳ぐらいの冴えない男で、左はこれも何処かの課で「お局様」になった挙句ここに飛ばされた30代後半のおばさん。

そしてその手前にはどう見ても俺より若そうな女子が座っていた。

そして、その前の机が空いている。そこが俺の席なんだろう。


部屋に入るとやや埃っぽい空気が俺を襲う。

喘息や鼻炎持ちじゃ無いからいいけど、その手の持病持ちだっらさぞ辛いだろうなと思った。

正面の人物の机の前に置かれたプレートを見ると「室長」と書かれているので、この人物に

「今日から配属されました、上郷達也です。宜しくお願いいたします」

そう挨拶して、辞令を差し出すと、室長は

「やあ、君か新しく配属されたのは、ここは地味だが大切な部署なので、宜しく頼むよ」

「私は室長の山上だ。机はその空いてる席に座ってくれまえ」

言われて俺は、その空いてる席に座る。

すると前の女子がニコッと笑って

「よろしくね。私は愛川、愛川菜々ね。」

「上郷達也です。宜しくお願い致します」

そう挨拶だけして座ると、横の40歳ぐらいの冴えない男が

「矢口だ、矢口雅也。宜しく。一応編集長と言う肩書きだけは付いてるがな」

「ああ、上郷です。宜しくお願いします」

すると斜め向かいのお局様が

「やっと、新しい子が来てくれたのね。良かったわ。前の子は三月で耐えられ無くて辞めて行ったからね。ああ、私は島田歌穂、この会社の事なら何でも聞いてね」

俺は、このお局様が見かけよりくだけた感じなので面食らっていた。

「上郷です宜しくお願いします」

それだけを言うのがやっとだった。

俺は隣の編集長の矢口に

「あのう、編集長と言う事はやはり社史を作っているのですか?」

そう尋ねると矢口編集長は

「あれ、そうだよ。意外と知られていなんだな。 ここは5年に一度編纂されるこの会社の社史を編纂する部署だよ」

「5年に一度……それって……」

「そう、編集長なんて肩書き付いていても仕事しないうちに辞めちゃう人が多いからねここ」

島田女史が説明してくれる。

「前は何時出したんですか?」

「一昨年かな」

それまで黙っていた室長が口を開いた。

「おととし…ですか!?あと3年……」

「3年も持つかしら?」

さらに島田女史が言う

「あなたの前の子ね。三っ月で辞めたからね……持たなくてね」

矢口編集長が言い難くそうに

「君なんか早く戻りたいと思ってるかもしれんが、それは諦めた方がいいな」

「君は何処から来た?」

「はあ、営業1課ですが…」

「それじゃ尚更だ。もうあそこには戻れない。ここで我慢するか、辞めて他所に行くかだ」

「室長は失礼だが定年まて幾らも無いから我慢も出来るが、私なんか後14年あるからな、

ひたすら我慢だな」

「安心しろ。給料は多少減るがそんなに変わらん。だから段々嫌になって来るのだがな」

「そう、仕事もしないのに給料だけ貰っていいのか?…なんてね」

最後は、また島田女史が話を締めた。


さっきから俺達が話してるのに、愛川菜々と言った子は鏡を出して自分の顔とにらめっこして、色々と人相の研究をしている…と思う。

ふと、見ると、室長はスマホを操作してなにやら、やっている。

多分あれは、株か何かの売り買いをしてるのだろう。

矢口編集長は、もうネットゲームをやっているし、島田女史は本を読んでいるから何かと思えばハーレクイーンだった。

つまり、それぞれが仕事なんてやっていないのだ。

俺は、とんでも無い所に来てしまったと改めて思ったのだった。



前の部署から持って来た私物を机の引き出しに入れたりファイル類を並べたりしていたら、

ひいばあちゃんが早速俺に語りかける。

「のう、ものは考えようじゃ。ここに来れたお陰でお前は会社から給料を貰いながら、霊感の訓練が出来ると思えば良いじゃろう」

「そうですかねえ。確かに給料は余り変わらないのは助かるけど……」

「さあさあ、訓練じゃ。まずはこの部屋に居る守護霊を見てご覧」

そう云われて俺は今まで意識的に目を瞑らないでいたのだが、瞑ってみた。

そうすると、室長には江戸の頃の武士の格好をした人物が居る。

編集長は、ひどく痩せたおばあさんだ。

島田女史は、若い男の子だ。ほう…意外な組み合わせだな。

「見れたら、順番に話掛けてみなさい」

そう云われて、俺はまず室長に付いてる武士から話掛けた。

「あのう、こんにちは。室長の守護霊さんですか?」

俺が呼びかけたのがよっぽど驚いたのか、

「お主はわたしが見えるのか!?」

「はあ、見えるとはちょっと違いますが、感じる事はできます」

「そうか、それは驚いたな。そういう能力のある人物が居る、と言う事は聞いた事があったが、実際会うのは初めてだ」

そう言ったかと思うと、眠そうに目を閉じてしまった。

それを見て、ひいばあちゃんは

「霊も古くなると、寝てばっかりじゃのう」

他にも俺は使用室の”もう一人の住人達”の声を掛けた

編集長の痩せたおばあさんは話してみると、気のいい人で、ウチのひいばあちゃんと話をしていたようで、今後色々とあの世の事を教えて貰えそうだ。

島田女史の若い男の子は、ひどく自信家で、彼女が縁遠いのは、自分以上の人物でないと納得しないから行き遅れたと判った次第だ。


何もしない部署だが、昼休みと午前と午後の休み時間を除くと、9時から5時までは会社に居なくてはならない。まあ、これが辛いのだが……

その他は割合緩く、タバコ休憩やトイレは全くの自由だ。

要するにタイムカードさえちゃんとしてれば、良いみたいだと判った。

俺は会社内でひいばあちゃんの指導で、自分の能力を向上させる訓練を初めた。

最初は、目を瞑らなくても霊魂が見える(感じる)様にする訓練だ。


目を開いていて、意識を心に集中させ、段々開放していく。

そうすると、目を瞑った時の感覚が自分の中に宿って行くので、その感覚を見えている映像と脳内で融合させるのだが、意識してると、出来るのだが、集中力が続かない。

仕事が無いものだから、朝から夕方の退社時までやっている。

他の3人は俺の事を「おかしな奴」と思ったらしく、俺のやることを訊いて来なくなった。

ひいばあちゃんが言うには、人間の内でもかなりの人に、この様な能力があるらしいのだが、

殆んどの人が「自分にはそんな能力は無い」と自意識の下で思ってしまってるので、

見えないのだそうだ。

だから、その様な先入観が無いか薄い人物は、ある時俺みたいに、いきなり見え始めるのだそうだ。


1週間も訓練すると、目を開いていても霊の存在が判る様になってきて、その見え方もちゃんとコントロール出来る様になった。

これがちゃんと出来ないと、何時でも見える事になり、満員電車の中なんかは大変な事になるのだ。

「やっと第一段階は終ったようじゃのう」

俺は、ひいばあちゃんの存在も声も自由に聞こえ感じる事が出来る様になった。


訓練をしている時に俺は、ひいばあちゃんから、あの世の事について色々と教わった。

ばあちゃんの様に守護霊をしている霊は結構霊格の高い部類に入るらしい。

基本的には輪廻転生でこの世に修行する為に生まれてくるのだが、何回も生まれ変わっていると、段々霊格が上がってきて、転生のサイクルが長くなってくるのだそうだ。

その転生を待ってる間に守護霊をするのだと言っていた。

そして、守護霊をちゃんと務めるとまた霊格が上がるのだそうだ。


親兄弟や夫婦だからといっても亡くなったら同じ処に行く訳では無いらしい。

その人物の霊格に合った処に行くのだという。

そこで、真の仲間と共に修行するのだと言う。

修行と言ってもこちらのボランティアみたいな事で、新しく来た霊の世話だとか、

あの世で暮らしてる所を良くする為の活動とかをするらしい。

あの世は観念の世界なので、形あるものは重要視されないそうで、

心が汚れていない事が最大の価値があるのだと言う。


まあ、俺なんかが聞いていても半分は良く判らないのだが、そのうち判ると

ひいばあちゃんも言っていた。

それにしても、守護霊と言われる霊は大変だと思う。

その人物にずっとひっついているのだから、見たくも無い事も見てると言う事だ。

すると、俺と麗子の睦ごともひいばあちゃんは見ていたのか!?

それを聞いて見た処

「ああ、ちゃんと見ていたが、あの女はお前に抱かれながらも舌を出す様な女じゃった」

「あれは駄目じゃ。男女の営みを快楽だけでしか計れない女は駄目じゃ」

「あのな、わしらはそんな行為を別に見ていても何とも思わん。次元が違うからな。例えばな、

犬の交尾を見て人間は興奮するか? せんだろう……そういう事さ」

「あの女は顔や形は素晴らしかったかもしれんが、中身はとんだ醜女だったよ」

ひいばあちゃんの言った事を俺はもう一度胸に言い聞かせた。


「よし!じゃあ実践訓練をしてみようかの」

受付の子の処迄行って、その子の守護霊と仲良くなって来い!」

「ええ、受付って……あの可愛い子と仲良く……無理だろう」

「馬鹿!守護霊じゃ。ちょっと離れた場所から問いかけるのじゃ。さあやって来い!」


俺は、そう云われて、1階の受付に行った。

1階にはロビーがあり、そこからなら、彼女を見る事が出来る。

心のチャンネルを開いて、霊を見れる状態にすると彼女の守護霊は彼女のお婆さんらしかった。

俺はそのお婆さんに語りかける。

始めは大層驚いていたが、やがて打ち解ける事が出来た。

その守護霊さんの悩みは、彼女が交際している男の素性が良く無い事だそうだ。

守護霊さんは別れた方が良いと思っているが中々上手く行かないのだそうだ。

守護霊さんは、「あんた代わりに彼氏になってくれ」なんて言われたが、

「無理、絶対無理、だって口も利いた事も無いのに……」

何とか俺は断り、ひいばあちゃんに言われた「守護霊と仲良くなる」と言う問題はクリアしたので、これで帰ろうとした時だった。

「あのう……以前営業1課にいた上郷さんじゃありませんか?」

なんと彼女の方から声を掛けて来たのだった。

これって、もしかして……守護霊さんの……


出来すぎだろう…これで彼女と俺が仲良くなるなんんて……


「はい、そうですが……」

「良かった!最近ここを通らないので心配していたのです」

「今日、お元気な姿を見て安心しました」

そう言ってニコッと笑ってくれた笑顔は最高だった。

もしかして、早くも俺に春がやって来る?

俺は少しだけ希望を持つのだった。

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