突然授かった霊能力
俺の名は上郷達也、上郷家の27代目を継ぐ予定の人間だ。
上郷家は由緒正しい家柄で、遡ると平安末期までたどる事が出来るそうだ。
江戸時代はこの地方の庄屋で、名字持刀を許されていて、領主のお城にも登城が許されていた。
最も、ちゃんとした家系図は戦争の時に菩提寺の本堂が焼けてしまったので、今は無くなってしまってる。
だから口伝なのだが・・・
今日は俺の身に起こった不思議な事を聞いて欲しいのだ。
それは、俺が大学時代からつき合っていた麗子と婚約を解消した時だった・・・
麗子は俺が大学に入って、サークルの勧誘合戦に悩んでいた頃に向こうから声をかけて来た。
ショートカットに柔らかそうなジャケットを着ていた彼女は
「すいません、このサークルの方ですか?」
そういきなり訊いて来たのだ。
確かに俺は、あるサークルのポスターを見ていたのだが、そのサークルとは関係が無かった。
「いいえ、僕も1年ですから只見ていただけです」
そう言って彼女を見て俺は心が震えた。
目はパッチリと大きく、色白で、鼻筋は通っていて、まず美人で、しかもそこら辺に居るレベルの美人では無い事が俺にはすぐ判った。
黙ってるとやや冷たい印象も受けるが、こうして話している分には、そのような事は感じさせ無かった。
その会話が元になって俺たちは仲良くなった。
正直、俺には過ぎた女性だと思っていた・・・
俺としてはきちんと真面目につき合っていて、卒業する頃には結婚の約束もした。
その頃が思えば一番楽しい頃だったのかもしれん・・・
やがて、彼女は薬学部なので、薬剤師の資格を取り、製薬会社の研究所に就職をした。
俺は経営学部だったので平凡な会社に潜り込む事が出来た。
就職しても、はじめは変わらぬつき合いだった。
そのうち、彼女が仕事でのグチをこぼす様になり、俺としてはちゃんと聞いてやってるつもりだった。
俺も彼女も仕事が忙しくなり、前程は逢う機会が減っていたが、逢えば密度の濃いデートをしていた。
やがて、お互いの親から結婚の話が出る様になり、俺は給料の三ヶ月分をはたいて婚約指輪を買った。
そして結納を交わした・・・ここで俺の貯金はかなり減ってしまった・・・
思えばその直後から彼女の態度が少しずつ変わって行ったのだが、俺は良くあるマリッジブルーだと思い、初めは楽観視していた。
式場も決め、そろそろ具体的な事を決めようかと思っていた矢先、向こうの家から仲人を通じて婚約破棄を伝えて来た。
俺は驚き、兎に角彼女と話させて欲しいと頼み、話し合いに望んだ。
待ち合わせの場所にやって来た彼女は俺の知ってる彼女では無く、赤の他人の様だった。
人はここまで、親しくしていた人間に冷淡になれるのかと思ったが、その時俺は彼女が変わってしまった理由が判らなかった。
話し合いは全く話が噛み合なく、平行線のまま終わり、俺は彼女と復縁を諦めた。
少し経って、向こうから仲人を通じて、結納金を返して来た。
俺は指輪も返すと言われたが、そんなもの返されても困るので、要らないからそちらで処分してくれと頼んだ。
それから、これは仲人や彼女の友人や俺の友人で彼女の友達に近い者からの噂や情報を纏めたものだが、実は彼女は大学の頃から二股をかけていたそうだ。
その頃は俺が本命でもう一人は不倫だったそうだ。
不倫の関係では未来が開けないと考えたのだが、就職に当たって、その相手のコネで今の研究所に就職したのだと言う。
その時は、それが手切れ金代わりで、そのときは関係を清算したのだが、彼女が婚約をした事で事情が変わり、マリッジブルーになった彼女の相談に乗る事で関係が復活。
そして、彼女はおれよりそいつを選んだという訳さ。
俺の心の傷は半端無かった。大学時代から都合6年間も俺は裏切られ続けていた事になるとは・・・
人間体というのは運動しなくても、心に衝撃が加わるとこうも
簡単に体重が減るものだと思い知った次第だ。なんたって三日間で10キロも減るとは思わなかった。
当然、気力も湧いてこなけりゃ力もでない。
会社に行く元気さえ出ない有り様で、自分自身でも情けないとは思うのだが、どうしようも無い。
病気を理由に会社を休んでアパートで寝ていると、悪いことに友人から、またまた追加の情報が入る
「あのさ、聞かせたくなかったんだけど、俺も腹が立ったから教えるけどさ、おまえの元カノさ、おまえがやった指輪売って、その金で男と傷心旅行と海外へしゃれ込んでるぜ・・・」
それ以上は聞きたく無いのでそこで通話を切った。
ああ、全くどいつもこいつもロクな事教えてよこさない。
第一聞かせたくないなら言って来るな!
俺は今まで漠然と生きて来て、このまま大した事もなく、生きていくのだと思っていた。
あのことがあるまでは・・・
その晩、俺はいつもの様にアパートのベッドで寝ていた。
いつもの様にしていたのだが、気分は落ち込んだままだったし、会社ももう今日で3日休んでいる。
兎に角、表なんか出られる状態じゃあ無いので、寝たままなのだ。
会社には病欠と届けてあるが、どうなってるのかは判らない。
兎に角、婚約破棄から1週間、俺はやっと眠られる様になって来た処だ。
早く体力を回復して仕事に復帰しないと、クビになる。
何時頃だとうか、俺を呼ぶ声がしたと思い目が覚めた。
だが、目は覚めたのだが、まぶたは開かない。
俺の身体の周りに眩い光都と共に大勢の人、いや人みたいな何かが居る。
ちなみに身体も動かず、金縛りにあった様だ。
何事かと思い驚いていると、どこからか声が聞こえる。
いや、実際には聞こえているのでは無く、直接心の中に話し掛けられる様な感じだ。
『だれだ?』そんな事を俺が思っていたのを見透かす様にその声が
「達也、よく聞け。我は上郷家の祖先の総意志である」
『総意志?なんだそれは、つまりご先祖様と言う事か?』
「そう思って貰ってよい」
『げ、俺が考えた事がそのまま通じるのか?』
「そうだ、お前は思うだけで意志の疎通が出来る」
「今回、お前は大変なショックを受けたと思うが、これは全て我々が仕組んだ事だ」
『なんだって!なんでこんな酷い事を・・・』
「それは、あのような女が一族に加わるのを防ぐ為だ」
「あれは、駄目だ!あの女は我々上郷には相応しく無い。よって今回は我々の力で壊したのだ」
『簡単に言いますがねえ。俺はその為にもう心身ボロボロなんですよ。どうしてくれるんですか?』
「それについては、謝る。だからこうして出て来たのだ」
『俺はいったいどうなるんですか?』
「まあ、しばらくは独り身で過ごせ。そのうちもっと相応しい相手が現れる」
「それに、お前には秘められた力があるが、今回それを開放させた。充分に研鑽して使いこなせよ」
そう俺に伝えたかと思うと、大勢の人に似た何かも、まばゆい光の中に消えて行った。
これは視覚的に見えたのでは無く、いわば、心の目で感じた。とでも言うしか無いのだが・・・
現にまぶたの前に光を感じたのだが、それが収まり元の夜の闇が復活した。
目を開けてみると、寝る前と何事も変わりはしない。
ああ、変な夢だったと思い直し、寝る事にする。
そこで、気がついたのだが、俺の身体に気力と体力が戻った感じだ。
体力は実際には動いてみないと判らないが気力は充実していた。
「夢じゃ無かったのか?」
独り言をつぶやく・・・
すると、俺の頭のやや上から、声がした。
いや、声じゃなく心に直接響いたのだ。
「達也、ここじゃ大きくなっても、相変わらずじゃのう・・・」
誰だ? 聴いた事ある声だぞ。
そう思って、その方角を見ても何も無く、夜の闇があるばかりだ。
まぶたをつぶってその方角を見ると、なんと俺のひい婆ちゃんがそこに浮かんでるでは無いか!
実際に見えてる訳では無く、見えてる様に感じてるのだ。
「ば、ばあちゃん。なんでそこに、居るの?」
俺は後から思えばくだらない質問だが、思わず訊いてしまった。
「馬鹿かお前は、わしが死んで次の年からずっとお前の事を見守っているのじゃぞ」
「それって、守護霊、とか言うやつ?」
「まあ、そう言ったほうが理解しやすいな」
「ずっと俺に付いていたの?」
「あほたれ、ずっと付いてる訳無いじゃろう。ここに居るのは分霊したものじゃ、分かりやすく言うと・・・
そう!端末みたいなものじゃ」
「じゃあ、本体は何処にいるの?」
「そりゃあ、あの世じゃ。あの世でわしらは、色々と活動しておるのじゃ。その片手間にお前らを見守っているのじゃ」
宙に浮かんだひい婆ちゃんは分かりやすく言うと、パソコンのデスクトップにあるアプリのアイコンみたいな感じで、
それが喋ってる感じなのた。
最も、それを見ているのでは無くいわば心の目で見てるとでも言う感じなのだ。
「あの、ばあちゃん、一つ訊きたいのだけど、さっきした声はあれは本当?」
「お前は疑ったのか?馬鹿が、当り前だろう。可愛い子孫だからこそ、あえて荒療治かもしれんが、あの悪女と別れさせたんじゃ」
「悪女か・・・そこまで言わなくてもなあ・・・」
「本当にお人好しじゃのう・・・じゃあホレこれを見せてやる」
そう言われて、俺の脳内に映しだされた映像は、麗子と誰だか知らないオヤジが外国のホテルらしい所で一緒にベッドに居るシーンだった」
「判った、もういい!判りました・・・・じゃあもうひとつ。そのご先祖様が言っていた俺に開放してくれた力って何?」
「何って、もう判ったじゃろう。霊と交信する能力じゃよ」
「はあ? じゃあ、この今会話してるのも、その能力なんですか? 只の偶然じゃ無くて!?」
「そう、その通り!便利じゃろう。色々な事に使えるぞ」
「まあ。完全に使いこなすには、未だまだ修行が必要じゃがな」
俺はこれは大変な事になったと思った。
こんな事を人前え話したら、キチガイか変人扱いされる。
途方にくれる俺を尻目に、宙に浮かんでるひい婆ちゃんは、楽しそうな表情で俺を見ていたのだった・・・