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【勉強会】



朝、台所に置いといた食器を洗いながら、思い出す。


あの時の、コージくんと話した時の会話内容を、思い出す。




{宮原、ちょっと訊きたい事があるんだが}


{なーに?コージくん}


{あいつの、錐斗の誕生日はいつだ?}


{えっ、コージくん知らなかったの?}


{ああ}


{ちょっとびっくりだなぁー。キリトの誕生日はね……}


{…待った}


{え?}


{………}


{どうしたの?}


{やっぱり、教えてくれなくてもいい}


{なんでー?}


{…………宮原}


{?}


{……─────}




パリーン!



「わあっ!?」



部屋に響く衝撃音が耳に広がると共に、身体をビクンッと震わせた。


音の発祥地を見てみると


「割れちゃった…」


見事に皿がバラバラに砕けていた。


「これじゃ遅れちゃうよ…」







部屋の中、男二人。



「こ、こうか?」


「違う。ここはこれにこれを────」


教え方は上手い。


上手いけどな。


解らないものは解らないんだよ。


「…答え見せてくれないか?」


「がんばれ、俺はお前を応援してる」


応援してるなら答えを…。


「なあ…」


「どうした」


「疲れた」


「そうか」


「そうかって…」


ポーカーフェイスの悪魔か。



そういえば、と時計を見た。5時36分。


一葉…遅いな。


「手が止まってるぞ」


そんな事言ったらお前だって表情が無くなってるぞ。


「…はい」


心の声でしか反抗出来ない俺って、一体何だろう。





……


………


やっぱり解らんって。


光二が何か言いたそうにこちらを凝視してる。


俺に惚れたか、光二。だが残念ながら俺にそんな趣味は無い。


「……………」


…心を読まれている!?



「ああ、そうだ」


そうだって……何ぃっ!!?


「今日、宮原は何か言ってたか?」


読心術を会得しているとは…こいつ、なかなか………え?一葉?


「何かって……何?」


「何と聞かれても困る」


完全に意味不明だ。


「そりゃこっちだって何かと聞かれても……」


「…そうだな、すまなかった」


「別に謝る事じゃ…」


「………」


「………」


俺がおかしいのか?そうなのか?


この沈黙は俺のせいか?なあ、嘘だと言ってくれよ。



……………。



その沈黙は、光二の一声によってかき消された。


「休憩するか」


「そうだな」


俺もコイツも、一体何がしたいんだ?


あ、いや、勉強だけど。


というか、今日の光二は何か変だぞ…。



…まあどうせ休憩時間だし、飲み物でも持ってこよう。


光二もそれなりに疲れてきてるだろうしな。




二つのガラス製コップに、慣れた手つきでボトルの中の紅茶を注ぐ。


コンビニで買った紅茶だけど文句は言わないだろう。


いや、言われても困る。



それにしても本当に疲れた。


自分が言い出したからとは言え…。


数学は特別に疲れる。


決して苦手だからとかそういう言い訳的な理由ではない。


なぜか数学は疲れる。


それだけだ。



ピンポーン。ベルの音。


一葉だな、と思い、俺は玄関へ直行。



ドアを開けたら、そこには艶やかなセミロングの少女がいた。


温かそうな白のセーターに、薄黄色のロングスカート。


手にある物は、まるで女の子が持つ様な可愛らしい桃色の手提げ鞄。



光二の時より表現の仕方が…と自分にツッコみたかったが、これはしょうがない。


あまり認めたくないが、どう見てもコイツの方が見栄えが良いからな。


さすがは女の子と言ったところか。



「えっと…食器を洗ってたらツルって落ちて割れちゃって、掃除してたら遅くなっちゃった…」


鞄を持ってない方の手で、コツンと自分の頭を小突き

「私、バカだね…あはは…」と言い、小悪魔の様な笑顔を見せた。


なるほど、指に巻いている絆創膏はそのせいか。


「バカだな」


微笑を作り、一葉を迎えた。




「飲み物持ってくから、先に俺の部屋に行っててくれ。 ああ、光二はもう来てるぞ」


「うん、わかった」


トコトコと歩き向かう一葉。


ペンギンみたいな歩き方だな、と思ったのは秘密にしておこう。


もう一つ棚からコップを取り出し、紅茶を注ぐ。


ふと時計を見た。6時近く。


もうこんな時間になったのか。早いな、時が経つのって。


………あいつら、いつ帰るんだ?


そんな事を思いながら、茶色のお盆に三つのコップを置く。


そのお盆を運び、部屋へ向かう。









あんなことを言ってしまって、本当に良かったのだろうか?


彼の前でも、彼女はいつでも笑っている。


変わることなく、喜怒哀楽の感情を絶やさない。




これで俺のやれる事は、終わりなのか。




ガチャリ。



「あ、コージ君。ほんとにいたんだ」


声がする方向を見た。宮原がいた。


「俺が必要とされる理由はあるのか解らないが、楽しくやらせてもらってる」


「そんなことないよー。私一人でキリトに教えたら、全然わからないって言うもん、絶対」


「さっき俺と勉強してた時、そう言いたげな顔をしていたが」


「え…そ、そうなの?あは、はは…」




幸せという名の日常の壁は、経てば経つほどでかくなっていく。


その反面、一つの些細な出来事で幸せは一気に崩れて、絶望という名の日常の壁に切り替わる。


だが、絶望も日が経つにつれ、どんどん崩れていく。


そして、絶望が崩れた後、幸せという名の日常の壁に切り替わる。


いつまでも幸せが続く訳が無い。


だから


幸せはなるべく大きく、長く続いてほしいと願う。











「紅茶持ってきたぞー」


「ありがとー!」


「感謝する。丁度喉が乾いていた頃だ」


それぞれにコップを配り、俺も座る。


「…でさ、数学はちょっとの間止めて、他の教科にしないか?」


「何を言っている。数学はお前の苦手分野じゃなかったのか」


「そうだけど…」


「時間はたっぷりあるんだから、ね?コージくん」


「ああ」


「…たっぷりあるのか?もう6時過ぎだけど」



「今日もそれなりに時間は残っているが、明日と明後日もだ」



俺は一瞬、光二の言葉を疑った。



「は…はぁ!?そんなの俺聞いてないし…俺自身も言ってないぞ!」


「だって勉強会でしょ?」


「い、いやだから…それに明日と明後日も学校だろ?その後にやるなんて…」


「え、明日と明後日は…試験休日の土曜日・日曜日で学校は休みだよ?試験は来週の月曜日からだし…でも、ある意味では、時間がたっぷりあるとは言えないかもね」


更に、一葉の言葉も疑った。


が、カレンダーを見る。


今日は…12月16日の…………金曜日。


つまり、テストは来週だから……それってどういう事?


…………………。


「それはそれで危ない!」


「だから、苦手なところは抑えておかなくちゃ」


「大丈夫だ、数学以外のも教えてやるから、明日と明後日に。とりあえず今日は数学だ」


「それじゃあ試験の前に俺の体力が保たない!」


「さて、休憩時間も終わったから再開するぞ」


「人の話を聞け!」


「私もちゃんと教えてあげるから…がんばろ?」


「その『がんばろ?』は『死んで?』に聴こえるのだが…」



「ノートを開くんだ」


「ほら、教科書もだよ」



こいつらは悪魔か…。

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