【試験】
…そんなこんなで結局、休日は色々とあった訳で…。
ああ、本当に色々あった。
思い出したくない、本当に思い出したくない。
「───で?」
「………」
「…はい」
今更
「さすが響子先生!今日もお美しい!」っておだてたところでもう遅いな。
……前言撤回しよう、この人には通用しない。
バゴォッ!
爆裂音が脳に響き、響子先生に胸倉を掴まれる。もちろん、悲鳴も出せる訳がない。
「バカかてめぇらは!!試験日だって言うのに、何が
「遅れました」だ!?」
その鬼の様な形相で叫ぶ声量のせいで、キーンと耳がつんざく。
周りの教師達は、やはり驚いていた。
横で見ている一葉はさっきの音と、今の声に相当驚いたみたいで、今にも零れそうなくらい目に涙を溜めていた。
そして、響子先生は俺を押す様に、掴んでいた手を離した。
「……教室に行け」
さほど痛みは感じない。
ただ、一歩を踏み出す度にズキズキと痛むだけ。
「ったく…殴るほどじゃないだろ…」
「……………」
今、俺と一葉は教室へと向かっている。つまり、廊下を歩いている。
一葉の横顔を見れば、既に涙を溢れさせていた。
声を出さずに、泣いていた。
「お前も泣くなよ。皆に笑われるぞ」
「……ごめんね」
私のせいで…。そう呟いたが、それに対しては返事をしなかった。
「…んん、と…」
…せめて、教室に着くまでに何か話をしたい、と考えていたら、ある事を思い出した。
そう、あの『賭け』の事。
「…賭けの内容さ、覚えてるか?」
一葉はこくりと、何も言わず頷いた。
「俺が80点以上取れば、俺の勝ち。取れなかったら、一葉の勝ち。…いやー、今期の試験が五教科だけっていうのが厳しいな。ある意味では嬉しいが」
そんな話に対応する事もなく、一葉は頷いてるだけだった。
…よーし、ここは…。
「…で、俺が勝ったら、一葉をもみくちゃにする権利が手に入る…だったか?」
わかってたけど、そう言った。
いつも通りに、一葉の顔が赤くなって…
「…違うよ」
いや、ならなかった。逆に冷静に返された。
「キリトが勝ったら私とデート。 私が勝ったら…一週間ずっと、キリトがいせやに付き合ってくれる…」
なんだよ。
俺がバカみたいじゃないか。一人で抜け笑ってて。
いつもみたいにお前も笑えよ。
一週間ずっといせやなんだから、もっと張り切れよ。
それで
「負けないよ!」とか、言えよ。
俺はお前の笑顔が見たいんだよ。それなのに、
「………ごめん…ごめんね…ごめんなさい………」
……謝らなくても、いいのに。
「では…始め!」
まず最初は国語。
当然、やる気なんか出ない。
とりあえず名前欄に[賽野 錐斗]とだけ書いておいた。
あいつってなんで、どうでもいい責任を感じちゃうんだろうな。
私のせいだって思い込んで、俺が殴られただけで更に、プラスだ。
お前がそんなだから、俺もこんななんだよ。
ああもう、解答欄も埋める気にならない。くそ、ちくしょう。
土曜日、一葉を帰して、夜は俺一人で過ごしてた。
当然勉強もした。ハンバーガーを食べながら。
「そういえば、まだ洗濯機の中にあいつの服入ってるの忘れてたな」なんて思いながら、眠りについた。
日曜日になると、昼の時間に光二が来た。
少し経ってから一葉も来た。
あの時だけは、本当にマジメに勉強してたつもりだ。
だから皆は、話をまったくしなかった。
だが、光二がアクションを起こした。
「…錐斗」
「ん?」
俺は手を止め、光二の話を聞こうとした。
「……いや、な、なんでもない…」
「…そうか」
また時間が経つと…。
「……錐斗」
「…?」
俺が対応しても
「なんでもない」になる。
そんなやり取りを…何回だろう、五回以上は繰り返していた。あからさまに挙動不審だった。
その時はマジメだったから、俺もイライラしてたんだと思う。
「…さっきから、何がしたいんだよ」
誰がどう見ても、俺は不機嫌で、怒っていた。
「…すまない」
そうやって謝るだけだったから、俺の気に障ってしまったんだ。
そして喧嘩になった。違うか、あれは俺が一方的に怒鳴ってただけだ。
一葉はびくびくとしてて…途中で会話に入り込んできた。
「こ……コージくんのせいじゃないよ。私のせいなの。私が変な話をしたから…」
一葉が変な話をしたから、光二があんな行為をしたとか、そんな話はどうでもよかった。
俺はずっと怒鳴ってた。
時間が経って落ち着いた頃には、もう遅かったけど
「…ごめん」と、二人に言うしかなかった。
二人が帰った後にも、俺は後悔していた。
バカな事をした。と。
一時、二時、三時になっても眠れなかった。
だから試験の日になれば、遅刻したんだ。
「よし、回収するぞ」
…もう終わったのか。早いな。
解答欄には何も書いてないけど、今更だ。悔やんだって遅い。
次は社会。
でも、やはり俺は名前以外何も書かずに、時は流れていった。
その次に数学。
あんなに勉強したのにな…。と思いながら名前を書いていた。
違和感に気づいたのは、遅くはなかった。
[サ賽の キりリ斗]
名前欄には意味不明な俺の名前が書かれていた。
「あれ?」
思わず声が出てしまう。
俺、何書いてるんだろう。
そう思っても無駄だった。