{ある少女の追跡}
【変動─2】の別視点Ver(番外編?)です。このお話は本編の物語に影響しません。
☆
見てはいけない光景を見てしまった様な気がする…。と、冷や汗をだらだらと流しながら、私は思った。
「な、な、な、なんでーっ!?」
たまたまシャーペンの芯を買いに外に出かけただけなのに!
一葉と光二くんがデート(?)してる所を見てしまうなんて!
これは友達として、見届けないと!と、電柱の陰で二人に熱い視線を送りながら、堯野可奈子は思った。
「カナちゃん、カナちゃん」って…私にばかり構ってたあの一葉が…ううっ。と、一粒の涙を流し二人をストーキングしながら、私は思った。
おっと、いけないいけない。二人を追わなくちゃ。
二人が着いた先は…
「…ここって…」
ハンバーガーショップよね?と、首を傾げて頭にハテナマークを浮かべながら、私は自問した。
うーん…本当にデートなのかしら?
「うわっ…あんなに頼んじゃって…光二くんも呆れてるじゃない…」
ついつい思った事を口に出してしまった。小声で。
少し経つと、二人は頼んだバーガーを運んで二階へと行ってしまった。
あ、私も注文しないと…。
とりあえず、私は二人より少し遠い席に座った。
一葉は一つ、ハンバーガーを口にする。
なっ…よくも男子の前でそんな風に食べれるわね…。と、ブツブツとおばさん臭く、私は思った。
すると光二くんが何か喋った。
やっぱり聞こえづらい…。なんて言ってるんだろ?
見ると、二人はどこか落ち込んでる様子だった。
…うう〜…話が見えない…どーゆー事…?
でも十秒くらい経ったら、すでに一葉は二つ目のハンバーガーに突入していた。ガツガツと。
はあ…。と、私は呆れ気味にため息をついた。
その瞬間だった。
あることを思い出した。
来週…明後日は試験!
こんな時にあの二人は何を…。言葉を紡ぐ前に、もう一つ思い出した。
『ねえ…カナちゃんって…好きな人いる…?』
なんとなく寂しげに見えたけど、あくまでも笑顔で、一葉は言った。
『んー?急にどうしたのー?』
話をはぐらかした訳ではないが、質問を返さざるを得なかった
『……ちょっと…気になって…』
いつも錐斗くんの話ばかりだったから……って。
…そういう事か。少しからかってやろう。
『…錐斗くん…だったらどうする?』
『…えっ!!!』
一葉は本気で驚いていた。
『顔は…まあ中の上ってカンジだけど。彼、優しいじゃない?』
『ほ…本当に?本当に!?』
一葉はぐぐっと顔を近づけてきて、じーっと私の瞳を見る。
『うん。本当』
私がそう言うと、一葉はよろよろと弱った動きで離れていった。
『そっ…か………』
しゅんとおとなしくなってしまった一葉を見てると、なんだかいじらしくなって…
『…一葉は?』
意地悪く、質問を返した。
『……い……』
『い?』
『………いない…よ…』
…本当に嘘をつくのがヘタ。一葉はそんな子だって、私と錐斗くんがよく知っている。
『ウソ。錐斗くんが好きなんでしょう?』
『っ!!』
図星だった。
びくっと体を震わせたのが何よりの証拠。
動揺を隠しきれずに───
『………』
一葉は───
『……………』
───泣いた。
『…う…くっ……うえぇぇ…』
『ちょ、ちょっと、なんで泣くのよ!?』
予想の範囲外だった。私の頭の中の脚本では、一葉は泣かないはずだった。
『カナちゃ…カナちゃんの…ひっ…ぐ……す…好きな人が……きっ…キリトで……っうぐ……ショックで……ウソ…つ……ついちゃった…から…』
『………』
声をつまらせて尚も一葉は喋り続ける。
『…私…も……キリト…す……す…き……だ…から……』
『……一葉…』
何とも言えない罪悪感が私を包み込む。
『…そうだね』
『……ひ…く…』
『そうだよね…』
一葉の想いは本当なんだから、謝らなくちゃいけない。
『ごめんね、一葉…。私もウソついちゃったの』
『…?』
『…その…別に嫌いじゃないんだけど…錐斗くんのこと、異性として好きって、さっき私が言ったでしょう?あれ、ウソなの』
『………』
『からかおうと思って言ってみたら、一葉の心を傷つかせちゃったみたいで…本当に、ごめんなさい』
私は深深と頭を下げた。色々な感情を込めて。
普通の人なら幻滅する。さすがに一葉だって…簡単には許してくれないだろう。
『………か…カナちゃん』
『…え?』
『…カナちゃんの…本当に好きな人を…教えてくれたら……』
許す。
たしかにそう言った。
一葉は優しすぎた。優しすぎて素直すぎた。
『……好きな人?』
『う…うん』
『…一葉に決まってるじゃないっ!』
『わ、わわっ!?』
今思うと、あの答えはせこかったなあ…。なんて、過去に浸ってる場合じゃない。
これでやっと…今更理解した事がある。
あの二人は…たぶん…いや、絶対…デートしてる訳じゃない。
何かの都合で一緒に出かける事になっただけ。そう決めつける。
少しでも疑った私がバカだったな…学校で一葉にまた…謝らないと。と、堯野可奈子は自粛した。