【日常】
話が凄く長くなる…と思います。休憩しつつ、読んだ方がいいかもしれません。
「わぁー……桜がキレイ……」
ああ、キレイだ。ここまで満開してるとは思わなかったな。
本当に………キレイだ。
「知ってる?桜の木の下には、亡くなった人が埋められてるんだよ。 その亡くなった人の魂が、こんなに桜をキレイにさせてるんだって」
そうだよな……一葉────
今は12月半ば。俺は学校から帰っている、隣にいる少女と一緒に。
いつもの下校風景。
変わらない日常。
俺は学校から一葉と一緒に帰るのが、当たり前になっている。
「ね、どうしたの? ぼーっとして」
一葉が横から、俺の顔を覗き込む。
俺は少し素っ気ない感じの返事をしてやった。
「ん…?ああいや、なんでもない」
そう?と言い、また歩き出す。
俺は賽野錐斗。
この物語の主人公…な存在。
少し背が高く、至って平凡だろう。成績も中の中だ。自分ではモテないと思っていたが…意外と女子の間で噂されてるらしい、とコイツ(一葉)は言っていた。
俺の横にいるのは宮原一葉。
俺の幼稚園からの幼なじみ。
俺より少し背が低く、栗色のセミロングヘアが良く似合う。
よくありがちだが、ドジで天然。
天才とまでは言わないが、俺より頭が良い。運動神経もいい方だ。だけどバカ。
人によっては可愛いと言う奴もいるが、俺には良く分からない。俺も一葉も、高校二年だ。
「んー……なんかお腹減ったね、キリト?」
一葉のお腹からぐぅ〜、と腹の虫が鳴っている。
だが俺は間を空けずに
「減ってない」
と答えた。実際は少し減ってるが。
「へ、返事が速すぎるよ……」
当たり前だ、コイツの食事に付き合うのは心底疲れる。
なぜならば、一葉は意外にも大食いなのだから。
学校帰りに『いせや』というそば屋に行っては、だし染みそばというオリジナルの品を、普通に三人前もたいらげる。ワリカンの筈だが
「ゴメンね、足りない……」
などと抜かし、ほとんど俺が払ってる様なものだ。
そんな事が何日も続き、俺の大事なお金が手元から去って行く……そんなのはもう嫌だ。
「バカかお前、またいせやに行くつもりだろ。 それで俺に払わせるんだな?そんな魂胆は丸見えだ」
俺がそう言い放った瞬間、かなりしょんぼりとなり俯いた。しかも涙目になってやがる。だが顔を上げて
「じゃ、じゃあ今日はいせやじゃなくていいよ……お金もちゃんと払うから、他のところで食べよう…?」
と言う。本当に呆れた奴だ…と思い、ため息をついた。
「却下。俺の言ってる意味が分かるか?」
下唇に人差し指を当てて、首を傾げている。
……たぶん、考えているのだろう。
「…ん〜と……わかんない…」
もう駄目だこいつは。
「…もういい、帰るぞ」
俺がスタスタと早歩きをし始めたら、一葉が服の裾を掴んできた。
「だ、ダメッ! ちゃんと、考えるから……」
「むう………」
上目遣いで、しかも涙目で俺を見つめてくる。
俺は情けないことに、一葉にこの目で見つめられたらもう折れるしかない。
…反則だ、ペナルティだ、レッドカードだ…。
「……あーわかった、もうこれ以上帰りが遅くなるのも嫌だから、いせや行くぞ」
また負けてしまった…と思いため息をつく。
そんな俺をよそに、一葉はバンザイをして喜んでいる。
「ほんと!? やったぁー!」
さっきまでの涙目はどこへ行ったのやら、と思いながらいせやに着いた───
…コイツがどんな奴かを忘れてた。
あの時、俺が負けたからいけなかったのか……。
「おばちゃん!おかわりー!」
「バカ!もう止めにしろ!」
「えー…だってぇ…」
俺と一葉は勘定を済ませる。
会計をするおばちゃんは、どこかおどおどしてる様に見えた。
「ごちそうさまでしたー!」
……やはり見間違いだろうか、店員さんのほとんどがおどおどしている。
「あ、ありがとうございましたーっ!!」
俺と一葉は店を出た。
もう外は暗い。
「あぁー、良く食べたぁー」
「…疲れた…」
疲れすぎて味なんかまったく覚えていない。
いつか病気になるだろうな。
「そういえばさ、キリトはちゃんと期末テストの勉強してる?」
「ああ、光二と一緒にな。 あいつのお陰で良い点が取れそうだ」
一ノ瀬光二。
俺の一番の友達だ。
相当頭が良い。
知的でクールなメガネ、という印象が似合うだろう。
あいつはかなりモテている方だ、本人はそれに気付いて無い様だが。
その光二と一緒に、期末テストに向けて勉強をしている。俺がわからないところは、光二が細かく教えてくれるからやりやすい。
…はっきり言うと俺の為の勉強、とも言える。
「コージくんと勉強かぁ、コージくんは優秀だから一緒に勉強すれば頭が良くなるかもねー」
「そうだな。 で、勉強してる事に対して何かあるのか?」
「うん、あのね……賭け、してみないかなーって…」
「賭け?」
賭事は嫌いじゃないが、なんかしっくりと来ない。
「キリトが五教科のうち一つでも80点以上だったら、キリトの勝ち。 それ以下だったら私の勝ち。 どう?」
なんだそれは、こちらの方が不利じゃないか、と思いながらも大切な事を聞いた。
「…お前が勝ったら、どうなるんだ?」
「んー…それは考えてなかったな……」
んー…と考えていたが、すぐにピーンとなった。
もう俺は解っている、コイツが何を言うかを……。
「私が勝ったら一週間ずっといせやに付き合ってね……にゃうっ!?」
やはりな、と思い一葉のほっぺたを引っ張ってやった。
「わひゃっはわひゃっは!キニトがかっひゃらにゃんでみょしていーかにゃー!(錐斗の推測 わかったわかった!キリトが勝ったらなんでもしていいからー!)」
周りの人が変な目で見てるので、引っ張ってた手を放した。
「お前が勝ったら一週間ずっといせや。
俺が勝ったらなんでもしていい。
これで本当にいいんだな?」
一葉はほっぺたに手を当てた。
「うう……なんでもいいよー…」
よーしわかった、と言い何故かハイテンションになってしまう。
「じゃあ今決めるか」
なんか色々な望みがありすぎて、どれにしていいか迷う。
とりあえず冗談混じりに俺は言った。
「そうだな……一葉の生着替え写真、なんてどうだ?」
一葉の顔が一瞬で真っ赤になる。
「え、ええぇっ!? だ、ダメだよそんなの!」
必死に否定しているが、更にからかってやった。
「いや、意外といいかもしれないぞ。 一部の生徒なら五万で買ってくれるかもしれないな」
もう湯気が出てくるんじゃないかってくらい、顔が真っ赤だ。
「はうぅ……」
「そうだ、高く売れたらお前に山分けしてやるよ。 結構売れると思うぞ?」
「そ、そんなの…」
「だがこんな事をしたら学校の掲示板に、載ってしまうかもしれないなー、一葉の写真と一緒に。 まあいっか、瞬く間に噂は広がり、写真を買う輩が多く………」
「…ぐすっ……ひっく……うっ……うええぇん」
「!?」
なんと泣き出してしまった、からかってたとはいえやりすぎたか?
それよりも周りの視線が気になる。どうにかして泣き止ませないと。
「だ、大丈夫だって。 光二には特別十万で売ってやるから。 きっと買ってくれるぞ?」
ヤバい、間違えた。
もう叫びと言って良い程に泣いている。
「…うわあああぁん!!」
どう考えてもこれは宥めてない。
待て待てそこの人、警察に電話してるんじゃない。
くそ、ギャラリーが集まってきた。
[逃亡者 賽野錐斗]
なんて俺は嫌だぞ。
「……わかった! 俺が決めるんじゃなくてお前が決めろ!それで良し!」
もう自分で何を言ってるかわからなくなってきた。
そこのお方が警察との会話を終了しそうだ。その前に速く逃げないと。
「…ぐすっ……ホント?」
今の俺は相当汗だくになってるだろう。
「あ、ああ。 そうと決まればレッツラゴーだ!」
「……じゃあそうする……ひゃわっ!?」
もう周りの視線に耐えられなかった俺は、一葉をお姫様だっこした。
「ま、待ってよ、もう歩けるよ!」
俺は一葉の言ってる事を無視して、全速力で走った。
人を押しのけながら、走った。
急いでいるせいか、一葉はそこまで重く感じなかった。
そして風を切るように、走った───
もうここまででいいだろう。
ん?なぜか一葉が赤面してる。
「ね、ねぇ……もう恥ずかしいから降ろしてよ……」
ああ、と気づき一葉を降ろす。
「そういえば忘れてたな。 よいしょ………っと」
俺は一葉を降ろして、伸びをした。
そして歩き出す。
「んぅーっ、軽かったけど意外と疲れるな。 何年ぶりだろうな、一葉を抱っこしたのは」
「もう……すごい恥ずかしかったんだよ?」
「ごめんごめん。 ところで、さっきはどうして泣いたんだ?」
「だ、だって…何でもしていいって自分で言っちゃったから……キリトが言った条件をどうしてもやらなきゃいけないんだって考えたら、急に涙が出ちゃって…」
「一応からかったつもりなんだが…そこまで本気にするとは。 まあすまなかったな、謝る」
俺は深々と頭を下げる。
それに一葉は反応して、両手をブンブンと横に振る。
「もう大丈夫だよ、気にしてないから。」
「そうか?そう言ってくれると気が楽になる」
「それよりね、さっきキリトが言ってた事なんだけど…」
「え?俺がなんか言ったか?」
「ほら、キリトが決めるんじゃなくって、私が決めていいって言ってたじゃない」
「ああ、あの時はお前を宥めようと必死だったからな。 それがどうしたんだ?」
一葉は頬を赤らめ俯いた。
「それでね……キ……キ…」
「き?」
「キ……」
「き、の続きは?」
「……う、ううん!何でもないの!何でもない!」
…つくづくおかしな奴だと思った。
俺は少し半目で一葉を見る。
「お前は本当に訳のわからない奴だな、言いたい事があるならちゃんと言え」
「な、なんだよっ!その言い方は! せっかくキリトが勝ったらキスしてあげようかなって思ったのに!!」
俺はその一瞬の言葉で、ぴたりと足を止めた。
俺の脳内は今『きす』という言葉を探している。 いろんな言葉があり、その中から『きす』を探している。
「……きす?キス……kissか?」
俺の脳内は見事に『kiss』を探し当てた。
一葉もぴたりと足を止めた
「…え?………あ…!!」
一葉の頭から湯気が出た。
早口でなにか喋り出した。
「ちちちち違うの!キキスっていうのはね、あのほらくくく口にじゃなくてほほほっぺたにしてあげる方のキキキスなの!あああいやそれも違くてキキス自体がちち違うの!いいい嫌だ、なな何言ってるんだろ私」
「知ってる」
「だだだからキスはキスじゃなななくて…………え?」
「冗談で言ったんだろ?そんなの知ってる。 本気で言う訳が無いだろ、キスするなんて」
内心期待してたが、とりあえず冗談だと自分に言い聞かせてた。
「あ…あはは、そうだよね。 キスしてあげるなんて普通言えないよね」
えへへ、と笑っている。
俺は冷静に装ったつもりだが、心臓がバクバクと鳴ってる。
正直な話、本気だったのか冗談だったのかわからない。
俺は落ち着いて、何をしてくれるのかを聞いた。
「……で、結局何をしてくれるんだ?」
「えーと……じゃあデートしてあげるってのはどう?」
(うーむ、今の俺は拒否出来る状態じゃないからな‥)
できれば断りたかったが、まあいいかと思い答えた。
「…ああ、それでいいぞ」
「あ、でも忘れないでね。 キリトが勝ったら、の話だからね」
「む、それはキツいな…」
実際問題、結構危ない。 一教科とはいえ、80点は無理があるかもしれない…。
(…まあ負けたら光二にも罰を受けてもらおう)
そんな事を思いながら歩いてたら、いつの間にか俺の家に着いた。
俺と一葉の家は近い、と言うよりもお向かいさんだ。
「着くの速いねー。 今何時くらいだろ」
「…俺はいつもより遅く感じたけどな」
そんな話を終えた後、一葉はじゃーねーと言い手を振り家に入っていった。
(さて、俺も入るか)
俺はドアを開けて家に入った。
「ただいま」
居間の方から父の声が聴こえる。
「おかえり」
(……本当にいつもと変わらないな)
この無愛想な声の主は賽野流。
俺の父親だ
今50代前半だが顔立ちは整っていて、結構かっこいい。
それでいて最大の魅力は無精ひげ、と一葉は言っている。
一葉曰く第一印象は『無精ひげが似合う男』だと。
仕事は何をやってるのか、息子の俺でもわからない。いつもはかなり遅いが、週に一回速く帰ってくる時がある、それが今日だ
ただ問題なのは性格。
いつになってもこの性格は治らない。
俺の赤ん坊時代は優しかった……はずだ。
その父親は俺と二人で暮らしている。
つまり、俺の母親はいない。昔にある病気で亡くなった。
でも俺も父さんも、今は気にしてない。
『昔の事はあまり振り返らない』
これが父さんの特性だから、俺にもちゃんと受け継がれてる。
【あまり】の部分は情けないなと思った時もあるが。
「おい」
二階に行こうとした時に、父さんが俺を止めた。
「…何?」
「晩飯はどうするんだ」
「さっき友達と食べた」
「そうか」
そう、俺が帰ってくるといつもこれだ。
下手したら会話はこれだけの時もある。
親子とはこんなものだろうか?と深く考えた事もある。
俺は二階にある自分の部屋に入った。
ちらっと机の上にある時計を見る。
(もう6時手前か…って言うか五時になったら流れるあれ、鳴ったか?)
考えながら制服を脱いでいく。
そして私服に着替え終わる。
(鳴ってないな、いや鳴ったな。 だがもしかしたらいせやで既に5時を過ぎていた可能性も……もういい、疲れた)
とりあえず考える事を止めて、ベッドに寝っ転がる。
(来週に試験か……明日は金曜日だし、そろそろ時間も無くなってきたな。 まあ光二に働いてもらうとしよう。……さて、俺も勉強するか)
俺は立ち上がり机に向かった────
◇
シャアァァー……
私は今シャワーを浴びている。
キリトの事を考えながら。
(デートって言っちゃったけど……どうすればいいのかな?)
シャアァァー……
(でもキリトが勝ったらだし……いや、もしかしたら勝っちゃうかも…)
シャアァァー……
(う〜…緊張する〜…デートの計画なんて建ててないよ……)
シャアァァー……
(だけどキリトがいいムードにしてくれて最終的にキスを……)
シャアァァー……
という音の沈黙を破るかの様に、私は頬を赤く染めながら誰もいない中で、手をブンブンと振った。
「……いやいやないよ!ないないないないない!そんなことあるわけないって!」
…しかも声が出ていたみたいだ…。
当然、お風呂場なので声が響く。
窓を開けていたら確実に近所迷惑だった。
そして振っていた手が止まる。
「…ない……よね…そんなこと…」
◇
「ないな」
俺は勉強を一時的に終了して、風呂に浸かっている。
「光二と勉強してるんだ、一葉に負ける訳がない!そうだ、そう信じろ!」
小声でそう叫んだ。
そして風呂を出た。
時計を見る。
もう10時だ。
父さんはテレビも見ずに、なにかの書類をせっせと書いている。
「カリカリカリカリカリカリカリ……」
「えーと…おやすみ」
「カリカリカリカリカリカリカリ……」
(会話が出来なくなるほど忙しいのなら、速く帰ってくる意味はあるのか……?)
深く考えない事にして、自分の部屋へ向かった。
ベッドに腰かけ考える。
何をやればいいのだろうか。
勉強か?やはり勉強なのか?
そうだな、勉強しかないな…。
というわけで勉強をしよう。
10分後…
「わ、わからないっ! なんでだ?なんでわからないんだ!?」
誤算だった、光二がいなくては全く勉強が進まない…。
「そうだ、ここはこの公式を使えば…いや待て違う、やはりここはこれをこうして………」
俺は光二がいないと勉強出来ないのか?情けない……。
「…駄目だ、無理。 ……とりあえず休めば解けそうな気がする」
俺は机から離れてベッドで横になった。
(20分、20分休んでから再開だ………)
そして俺は、眠りに落ちた。