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序章
夕日が辺りを橙色に染めていた。
親友と二人で歩くいつもの帰り道は昨日よりも遥かその前よりも綺麗に思えた。熱い真夏の盛りが過ぎて
秋の気配がちらついているかの様に蜻蛉が飛んでいる
「この指とーまれ」
子供みたいな声で
人差し指を蜻蛉へと向けた。
蜻蛉は 何も見えていないようで素通りしていった。
親友である貴亜は
はっしゃいだように笑い出した。
馬鹿にされて顔を染めた私もささいなことながら
なんだか情けなくなった。
けれどこれは遠い幻であって
何時かの風景がまた現実に蘇るようなことはもう二度と。。
目が覚めた。
そこにはいつもと変わらぬ白い天井と
例の如く、夢の回想をしている自分がいた。
親友の貴亜がいた
あの綺麗な夕方の日
あの風景が夢となって
毎夜毎夜繰り返される。
一緒に写っていたはずの
写真からも
この日常からも消え去って今、何処にいるのかも
生きてるのか
もしかして死んでいるのかすらもわからない。
そう、貴亜はあの日
神隠しに遭ったのだ。