プロローグ
はじめまして。
本作をお読みいただきありがとうございます。
世界観重視のハイファンタジーです。長い旅の始まりですが、ゆっくりと広がる物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。
荒涼とした大地のはるかかなたにタリデューサの峰々が連なっている。
そこから時折吹き下ろす冷たい風は、砂漠を越え、平原を東西に貫いているクリュージ川へと至る。
やがてその風は、クリュージ川中流域のレジイ湖畔に眠る遠い古代の都市タラサの遺跡をかすめ、さらに南の草原地帯へと抜けていった。
砂に埋もれたタラサでは、わずかに頭を覗かせている柱と思しき構造物が、夕陽に照らされていた。
その遺跡を、一人の青年が、大型の哺乳獣の手綱を引きながら静かに足を運んでいる。
彼は装甲獣の革で作られた外套をまとい、黄金の長剣を腰に下げていた。
剣には深い青の宝石が埋め込まれ、わずかに光を帯びている。
日が沈む――
何かが、青年の前を掠めた。
遅れて、空気が歪む。
その瞬間、青年は蜂蜜色の長髪をなびかせながら、左後方へと跳んだ。
先ほどまで立っていた地面が、赤い光と爆音とともに消し飛ぶ。
巻き上がる砂埃の中、大型哺乳獣のミュルもまた寸でのところで後方へと飛び退いていた。
低く唸る声。
濡れた嘴。
血のように赤い目。
褪せた紫の体毛。
鋭い爪を備えた細い翼。
腐肉のような臭気が、風に乗って流れてくる。
「スカードルか……」
青年のその言葉に応じるかのように、それは目を細めた。
口元が歪み、嘲るような気配を帯びる。
なぜ北方の異形がタリデューサ山脈を越えてタラサに――
その思考は、次の瞬間、断ち切られた。
一頭に見えたそれは、二つに分かれた!
青年を左右から挟み込むように、空へと跳ね上がる。凄まじい旋風を叩きつける。
その刹那――
周囲が青白い閃光に包まれた!!
耳を裂くような爆裂音。
叫びとも唸りともつかぬ声。
二つの影が地に叩きつけられ、重い土埃がそれらを覆い隠す。
やがて、
残照の下、再び静けさが戻る。
二頭のスカードルは、どす黒い紫の塊となって四散し、煙を上げながら泡立っていた。
焦げた煙は、甘く、粘りつくような匂いを帯びている。
やがて泡立ちは収まり、それらはゆっくりと石へと変わっていった。
青年の右手に握られた黄金の剣は、なおも淡い青白い光を宿している。
二百年続いた平穏が、静かに揺らぎ始めていた。
妖国伝 エルソラーナス ― 剣と石の叙事詩 ―
Ersoranus
PART 1
動乱の予兆 ― The Omen ―
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