5.最後のビデオ通話
一ヶ月前に亡くなった親友から、深夜にビデオ通話がかかってきた。
故障か悪戯かと思ったが、画面に映ったのは、生前と変わらない彼が自室のデスクに座っている姿だった。
「……お前、生きてたのか?」
僕が震える声で尋ねると、彼は悲しそうに微笑んで首を振った。
『いや、死んでるよ。でも、どうしても伝えたいことがあって。あの日、俺が死んだ事故……あれは不運だったけど、俺、死ぬ間際にあるものを見たんだ』
彼は画面越しに、必死に訴えかけてくる。
『いいか、よく聞け。俺が死んだ時、目の前に真っ暗な穴が開いて、そこから「お前の名前」を呼ぶ声が聞こえた。あっちの世界は、次に死ぬやつをもう決めてるんだよ。お前、最近変な視線を感じないか?』
確かに、ここ数日、部屋に誰かがいるような気配がして眠れなかった。
「どうすればいいんだよ!」
僕が叫ぶと、彼は画面に顔を近づけて、囁くように言った。
『今すぐ、その部屋のクローゼットの中に隠れろ。あいつらは、視界に入った人間を連れていく。姿を隠せば、ターゲットが外れるはずだ。……あ、今、玄関のほうがガタって言わなかったか? 急げ!』
僕はパニックになり、スマホを掴んだままクローゼットに飛び込み、内側から扉を閉めた。
暗闇の中、スマホの画面だけが僕の顔を照らしている。
『……よし、そこなら安心だ。……なあ、最後に一つだけ聞いていいか?』
親友の顔が、画面の中で、見たこともないような歪な笑顔に変わった。
『お前の部屋のクローゼット、内側から鍵かからないよな?』
その瞬間、スマホの画面がプツンと切れた。
同時に、クローゼットの扉が外からゆっくりと開き始めた。
解説
親友は、主人公を助けようとしたのではありません。
親友が死ぬ間際に聞いた「主人公の名前」を呼ぶ声。それは死後の世界からの招きではなく、親友自身が「道連れ」を探して呼んでいた声です。
彼はビデオ通話を使って、主人公を「最も逃げ場のない、狭い閉鎖空間」へと誘導しました。
最後に彼は「内側から鍵がかからない」ことを確認しました。それは、今から自分がそこを開けて、主人公を連れて行くためです。
親友が「あの日、事故で死んだ」のは本当ですが、彼は今、あなたの目の前の扉を掴んでいます。




