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プロローグについて(2)

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ーーー幼い頃から隣同士の家で育った者を、遍く『幼馴染』と呼ぶのならきっと俺と悠凪もそうだ。だが、もしもそこに『友情』とか『かけがえの無い何か』などの関係性を見出せなければ『幼馴染』との通称が使えないとあらば、俺たちはただの他人に違い無かった。


俺こと『水上楓』と『宮城悠凪』の関係を特別たらしめていたモノ。それは別に幼稚園、小学、そして現在に至るまでの腐れ縁そのものでは決して無い。そのことは、悠凪も共通の認識であろうと思う。


ーーー剣の道。

それだけが、俺たちの関係を切っても切れない何かにしていたことだけは、火を見るより明らかだった。


俺が初めて竹刀に触れたのは、五歳の時だ。悠凪の父が運営している剣道場に入らせてもらい、竹でできた量産刀の柄をしかと握ったことを、今でも良く覚えている。


思い返してみれば、これが全ての始まりだったのかもしれなかった。




事件が起きたのは2014年の12月頃のことだ。その日は、冬も本番という厳寒の日だった。普段から道場を利用させてもらっていた俺を通じて、仲を深めていた水上家と宮城家の土曜二家族でご飯でも食べないか、という話が出た。


悠凪とは家族ぐるみで仲良くさせてもらっていたので、ちょくちょく合同でバーベキュー会などを行っていた。その日も、例に漏れず数種類の肉や野菜が、屋外に並んだ。


ーーー開催も数度目となるそんな楽しい場で、大人たちの会話に入れず暇を持て余した俺と悠凪は、ある禁忌を犯した。


自身の両親からも、悠凪の父からも『決して入ってはならない』と言われていたおよそ六畳ほどの小さな部屋に忍び込んでしまったのだ。俺たち自身は、別に誰かを困らせてやりたい、などということを思っていた訳では無い。ただただ、あれは幼子ならではの好奇心の表れであったと今でもそう思っている。


ーーーしかし、その部屋に祀られていたモノが、そんな理由による入室を許すはずも無かったのだ。

その部屋の最奥部には、ただ、二本の刀がそこにあった。

だが、近づいてよく観察してみると、それが見知った普通の刀では無いことに気づいた。


まず、刀身が諸刃で見たことも無いような形状をしている。おまけに鍔も無い。持ち手の部分は、見たことのない素材の革ーーー?のようなモノで柔く包まれているーーー


俺たちは、この時点で溢れ出る興味に歯止めを掛けるべきだった。

心の奥底では感じている『危険だ』との声に、素直に従い建て付けの悪い戸を無理やりに開け放って部屋の外へ飛び出せば良かったのだ。

あの時、すぐに引き返して大人たちと一緒に肉にありついていれば.........との思いは、未だに俺を蝕んで来る。


ーーー二人はそれぞれ、黒に光る刀身を持つ剣と、窓辺から照り付ける夕暮れが反射して赤に光る剣を小さな手に触れた。

「わァ.........」

まず声を上げたのは悠凪であった。彼女に至っては、俺より二年も早い時期から竹刀を手に取り、父からの指導を受けていた。更に、無理を言って早朝から父の持つ道場へ着いて行き、門下生たちの打ち込む様子から学び取る、見取り稽古にまで勤しむほどの剣への憧れがあったので、感嘆の声が漏れるのも当然と言える。

対して、俺はこの後に及んで両親に叱られることを心配していた。悠凪が無理に手を引っ張ってこの部屋まで来たのは確かだが、俺にとっても特筆立って抵抗などしなかったのだから、見つかればただでは済まないだろうーーーと考えたのだ。

おまけに、俺とて普段から両親に『ねえ、ユウナちゃん家の刀見たいな』などと宣っていたのだから『ユウナちゃんが無理やり』だの何だのと言う弁解の余地など一分も存在しない.........


言い訳を考えることに脳のリソースを使い始めた、その時だった。

一対のうち、紅く光る剣に触れた悠凪が突然硬直し、力を失ったように仰向けに倒れたのだ。

「なッ.........ユ、ユウナちゃん!?」

俺は今でも忘れない。

その時の悠凪の様子がーーーまるで、エラーを起こしたモニター画面のようにジャミングを起こしていたことを。

血を吐くでも無く、うめき声を上げるでも無く。ただ目を見開いて、体全体を硬直させている。

「まっ.........待ってて!すぐお父さんたちを呼んでくるからね!」


部屋から駆け出し、大人たちを呼びつけて戻った時には、悠凪は正常に戻っていた。

いつものように、畳の上に礼儀正しく正座をしてこちらを眺めていた。その瞳は、何かーーー俺たちとは別の領域に踏み入った者のようなそれに感じられた。


「ゆ.........悠凪っ!」

悠凪の父が小さな体を、取りこぼすまいと包み込んだ。駆け付けた俺の母は『何やってんのよアンタは.........』と俺の頭をぽかりと叩いた。父も『すみません、私の管理不足です』と頭を下げ申し訳なさそうな顔をした。

『ごめんなさい、もうしないから』と謝った五歳の俺は、子どもながらに思ったことがある。


ーーー温度差が違いすぎる。

悠凪の父の狼狽えよう、そして青ざめた顔は、間違いなく切迫した危険を感じ取った時の顔であった。額に浮かぶ脂汗も、その信ぴょう性を確かなモノと思わせる材料だ。

対して、俺の両親からは『どうしたのかしら』『そこまで狼狽えなくても』といったような気配を感じるし、酷く困惑している様子が見て取れる。


『すみませんでした、ウチの息子が』『娘さんはお怪我などされていませんか』そう口々に話す俺の両親。しかし、悠凪の父は、娘を抱きしめながら、ぽつりと呟いた。

「取り乱してしまい、失礼しました」

続けて、こう言った。


ーーーこうなってしまったからには、楓くんのご両親にも全てを話さねばなりませんーーー


その先の記憶は、俺にはほとんど無い。

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