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ユキア・サガ 航海① 海賊忍者とネフシュタンの魔片 第1巻  作者: ユキロー・サナダ 【ユキア・サガ(ハイ?ファンタジー)連載中!】
8/10

7.神約暦4015年4月5日 敵将の苦悶

第7章と第8章は、航海①の第1巻の収録することになりました。

よろしくお願いします。 m(_ _)m

 さらさらとした深く白い霧が舞い踊って絡まり、視界を閉ざしていた。

 神の怒声の如き雷霆が、天から蒼白の閃光と共に堕ちてくる。

 だが、雨も風もおとなしく嵐になっていないのは、聖エレミエル号には幸いだと言えるだろう。

「成程なー」オレは相槌を打ち「アトラス海、ティターン海では、各国の海軍と、それぞれの国の海軍賊、それらに与せずにいる海賊もいて、そうした海賊達は単独ではなく、艦隊を編成してるってことか。

 その連中の中で今一番勢いがあるのが、謎の人物、海帝って奴の艦隊だと。

 で、各国の海軍、海軍賊と、それに敵対している海賊達と、勢力的にはどっちが上なんだ?」

 オレの問いにファルカンは「微妙なとこだが、各国の海軍、海軍賊に敵対している海賊達の方が黄河勢力はつ強いそう答えてルム酒を呷った。

「そーそー、ところでさー」オレにはどうしても知っておきたいことあった。

 闘るやのはそれを訊いてからでも遅くはない。

「お前さー、オロアルマダ帝国海軍提督にまで上り詰めていたのに、どうして海賊になったんだ? キラもそれに就ては知らなかったみたいだけど」

 オレが言い終わらないうちに、霧の向こう側から「お前ふざけてんのか! 船長に対してお前とか偉そうに言うんじゃねぇ!」喚てきた奴がいた。

 オレが「お前、俺にファルカンをお前って言うなよっていうけど、お前こそオレのことをお前っていうなよ、お前!」反論すると黙ってしまう。

 海賊船の制圧はザザとゴリクの大活躍で完了し、聖エレミエル号でクレブリナ海賊団と闘う準備も、レイが鮮やかな手際で調えてくれていた。

 もう何時でも戦える。

 霧が晴れたら、海賊達は戦慄するだろう。

 キラも、改めて驚嘆するに違いない。

 オレはファルカンがキラを海帝に引き渡そうとしているのを、絶対に見過ごせない。

 だけど、メシア教カットリチェシモを国教とする元海軍提督が、神の存在を否定した時、その双眼に宿した暗い翳。

 本意ではないと言いながらも、キラをさらって引き渡し、海帝と組みたいろという故由。

 そのあたりが気になるし、ひっかかるんだよなー。

 海賊にしちゃ珍しく、思った通り飲食物を確り積み込んでいた。

 この船が神聖ロムルス皇国の国営船だと知ったうえで襲撃してきたのに、人名は奪わないと宣言している。

 それは、この近海の海軍や海軍賊を敵に回す覚悟をしているってことだし。

 オレはファルカンが、そこらの海軍賊や海賊の中にいる悪党には思えないんだよなー。

 ファルカンは「まだ霧が深い」葉巻を取り出して火をつけ、ため息を隠すように、ふぅーっと煙を吐き出す。

 「俺は16の時海兵になった。

 船首から船尾を走り回って、帆を畳み、縮め、操り、張った。

 大砲を運び、弾薬を込め撃った。敵船に乗り込み暴れ、闘ってきた。

 この海で敵国海軍や海軍賊との闘い明け暮れ、これまでに何度もこの命を危機にさらした来た。

 それでも俺は船に乗り続けた。

 国を守るってことは、、家族や仲間を守ることと同義だと、オレは信じていたからだ」

 その時俺には、低く酒焼けしたファルカンのその声色が、潤んで聞こえた。

 オレは、威炎槌ノ術を解く。

 ファルカンの物語を訊き洩らさない為に。

「2年前、俺達は海帝配下の配下、茶髭のバルバロッサと率いる海坊主海賊団と交戦していた。

 当時オロアルマダ帝国の海軍賊と海帝艦隊は始終闘りあっていたからな。

 その援護をしてたって訳だ。

 お蔭で帝国の海軍は、あちこちの海帝艦隊と闘う状況になっていたから、帝国の本島は手薄になっていた。

 そんな頃、帝国は、ある海軍賊の襲撃をうけた。

 奴等は殆ど出払っていた俺たち海軍の隙を衝き港や街で暴虐の限りを尽くして、悠々と逃亡した……。

ーー世界の国と国を囲む大海。

 そこは、世界中の富が行きかい溢れていた。

 あまりの眩さと煌めきで観る者を魅惑する、珍しく貴重な宝石ーー幻玉とは異なるものーーをはじめ、美しい白金、それと同等の価値があるとされた、様々な香辛料。

 更に、金、銀、銅、鉄、錫。

 華やかな織物や染料、毛皮、ヴェートロガラス、香木。

 人々が地で作られたと嘆いた……砂糖ーーそれほどまでに入手困難な貴重品ーー。

 忘れてはならないのが、人間ーーヒト族、亜人族を問わずーーつまり奴隷だ。

 海賊や海軍賊は交易目的で会場を賭ける商船や、他の海賊、海軍賊、時には各国海軍の船舶を狙い、積み荷をを強奪し売り捌いて金貨を稼ぐ。

 のみならず、沿岸の港や街に上陸して、掠奪する海賊や海軍賊が近年急増している。小さな島はそのまま支配下に置かれてしまうこともあった。

 オレもそれを知っているだけに、ファルカンの告白に嘘はないと思う。

 パークスの任務で、いくつかの島から海賊や海軍賊を撃退していたから。

 無敵艦隊を擁す、オロアルマダ帝国の接している、ティターン海沿岸も、被害に遭遇した港や街は1か所や2か所に止まらない。

 ファルカンはルム酒を口に含み、目を閉じ眉根を寄せ、苦い薬のようにそれを喉に流し込む。

「俺の女房と一人娘は、海軍の艦が繋留する港の近くで、安い報酬で雇われている若い海兵達に、安くて、美味くて、腹一杯食べれるバルを開いていたんだが、二人とも……その時海賊惨殺されちまった。

 年中海に出ていく俺を、いつも微笑んで送り出し、愚痴一つ零さずに、俺達の還る港で待ってくれていた。

 俺には勿体ない良い女房だったよ……」

 その眼に俺自身も見た、あの漆黒の深い闇が宿る。

 それは、正に悲壮感に満ちたーー絶望だろう。

 闇は、癒されることの悲しみや苦しみを吞み込み喰らい、覆いつくす為に生まれてくる。

 でも……、とオレは思う。

 あの闇の中には、心魂をズタズタに切り裂いた、悲痛な悲劇が、葉脈さながらに根を生やして、今も尚ひっそりと息衝いているのだ、と。

 「娘も俺に似てなくて美しく、優しく、素直な子だった。

 コーサと結婚して子を宿したばかりだったんだよ」

 コーサの左手薬指を通した白金の指輪は、その胸底に潜んでいる悲憤慷慨を象徴しているのだと、オレの緋隻眼には映る。

 オレは、コーサの眸にも、あの闇が巣食っていることに気付く。

 神よ、何故この二人に、試練という言葉さえ霞んでしまう程の不幸と悲嘆を、お与えになったのですが?

 心魂の底から、オレは神に問いかける。

 然し、神は沈黙。答えは返ってこない。

「俺はいつだって海にいたから、女房や娘には寂しい思いをさせた上に、苦労をかけた。

 だから、二人を幸せにしてやれたと思ったことは1度もない。

 だが、二人は俺が海から戻ると、必ず幸せだって言ってくれた……」

 ファルカンやコーサの心魂に刻まれた深い傷が、悲鳴を上げているのが、オレの心魂を突き刺す。

 目頭が熱くなったオレは、それが零れないように白く深い霧を見上げて堪える。

「俺は、女房と娘を殺した海賊への復讐を、敢えて地獄の支配者ルキフェル(ルシファー)に誓った。

 この命を賭けて。

 神は、何の罪もない女房と娘を守ってくれなかったからだ」

 ファルカンの眼眸が、今度は血が滲みだしているのかと思しき、真っ赤な怒りを発する。

「海賊は某国の海軍だった連中だった。

 オロアルマダ帝国とその某国は、当時も今も交易がある。表向きの争いはない。

 そいつらを海軍賊した某国は、その海賊に免状は発行してない、無関係だと釈明したが、それが虚偽であることは明々白々だった。

 だがオロアルマダ帝国はそれを黙認し、暴行の言い分を容認した。某国からオロアルマダ帝国の帝王に、海軍大将を通じて、砂糖や香辛料が秘密裏に渡ったらしい……」

「そっかぁ……」オレの聲は、怒りと悲しみでかすれていた。「そうなるとお前の立場じゃ、その海軍賊と正面から闘りあうことはできない……」

 その無念さを受け止め、知らぬ間に歯を食い縛り、両拳を握りしめるオレ。

「そういうことだ」暗く重く沈んでいくファルカンの聲が、まるで心魂が吐血しながら溢れて、オレの耳を貫く。「もし強引にその海軍賊と闘って奴らを皆殺しにしても、今度は正式に免状を発行している海軍賊だと抗議してくるだろう。

 勿論、免状の発行はあの事件以降ということとしてな。

 そうなるとオレは当然のこと、仲間にも害が及んでしまう。だから、それはできない」

 オレは、相槌を打つこともできず、ただファルカンの言葉に耳を傾けることしかできない自分が、無力で情けない。

 「俺の国は、その海軍賊の国以外にも表面上交易を続けながら、裏では海軍賊同士が争っている国がある。

 この近海じゃオロアルマダ帝国は無敵艦隊を誇っているからな。

 他国はどこも簡単に宣戦布告できない。

 ところがだ、無敵艦隊も訊いてあきれる話がある」

 ファルカンは感情を押し殺したしゃがれた聲で、淡々と話し紡ぐ。

「オロアルマダ帝国も免状を発行して、望む者に海軍賊をやらせているが、その中には元海軍だったものが少なくない。

 オロアルマダ帝国は連中に、国庫に差し出させる、海賊家業によって得る利益を、2割から3割に増やす契約で、海軍の闘える艦を奴等に与え始めた。

 国を防衛する精鋭感が姿を消し、時には最新鋭の戦列艦が海軍賊に持って行かれちまった。

 そりゃそーだ。奴らはオロアルマダ帝国に金貨を納めるが、海兵は1ドエルンだって滅多なことでも起こらない限り、納めることはできないからな」

 どの国の海軍でも、たとえ敵国の商船であっても、軍に民間人を巻き込むことは赦されていない。

 あくまでも、敵国海軍とその海軍賊、海賊でなければ戦えない。

 敵国海軍に勝利して、たまたま敵船を無傷で拿捕したとしても、その艦を金貨に変えることはできないし、ほとんどの場合お宝も積んでいない。

 敵船は戦闘によって破壊されるのが大方で、無傷で入手しても自国海軍へ編入されるか、捕虜と一緒に返還されるかそのいずれかに決まっている。

 海賊を倒しても、お宝は一旦根城に持ち込み分配されるのが掟だから、必ずしもそれが積載されているとは限らない。

 もし、運よくお宝が積載されていても、海賊船は戦闘によって破壊するのが常だったから、海底の藻屑となる運命にあった。

ーー海軍の海兵が国庫にドエルン金貨を積み上げるのは、極めて難しい。

「話し絵を戻す。」

 ファルカンはそう言って、一語一語に怒りという感情を激しくぶつけてくる。「俺は、女房と娘の命を奪った連中を、必ず殺して、二人への手向けとしなければならない。

 だがオロアルマダ帝国は、海軍として奴らと闘うことを、がんとして赦してはくれなかった。

 その理由は先刻言った通りだ。

 22年間海軍に尽くしてきた俺に、それを支えてくれていた家族の命を奪われても、報復する機会を与えないなら、オレはいったい何のために、闘ってきたのかと!

 奴らに復讐したいなら、国から免状を貰って、海軍賊になれとでも言いたいのかと!?

 それなら奴らと闘って皆殺しにしても、オロアルマダ帝国は関知していない、某国が使った手で、責任逃れをすることができるからなっ!

 然し、それは女房と娘の仇を討ちたければ、国に金貨を積めということなのかとっ!!」

 ファルカンの悲憤にくれる長恨の呻きが、オレの肺肝を鋭く抉り、激しく苦悶させる。

「俺はオロアルマダ帝国はにこの身命を捧げてきた己自信を恥じた。

 あの腐りきった帝国でオレが海兵なんぞにならなきゃ、女房と娘も港の側でバルなんて開かなかっただろうよ。

 二人は俺のせいで死んだようなもんだ。結局俺は、国も家族も守れなかったんだっ!」

 喉を鳴らしてルム酒を水の如く呷る元海軍提督に、オレはどんな言葉をかけられるだろうか?

 オレには、簡単に言葉を選択できない。

 「挙句の果てに、海軍賊になろうとはしない俺に、俺達の艦を、他の海軍賊に引き渡せと通告してきやがった」

 そこまでするのかーーオレは心中で絶句してしまう。

 聞くに堪えない話だった。

 でも、オレは世界をじわじわと蝕んでいく、人の希望の光を喰らいつくす漆黒の闇をよく知っている。

 世界から、理不尽や不条理な出来事が一掃されない限り、悲しみや苦しみは生まれ続け、その負の感情が、暗黒の闇を引き寄せていることを。

 悪魔達は、その闇を嬉々としてと大歓迎しているに違いない。

 なんとなれば、犯した罪を暗闇の中に隠すことができるから。

 オレは神に祈る。

 世界中の蒼氓に、闇という絶望に抵抗できる、希望の光をお授け頂けますように。

「その続きは俺が話そう」コーサが話を引き取る。「オレはその決定を下した海軍大将に、それを撤回させようと直談判に行った。その時、奴は俺に言ったんだ」

ーーファルカン提督と君の不幸は、私としても実に胸を痛めておる。

 然し、私は自分の部下である海兵を一兵たりとも喪いたくない。だからこそ、海軍賊に艦を与えているのだ。

 奴等は、我が国の免状がなければ、ただの海賊に成り下がる。

 つまり犯罪者として、罰を与えられる身になってしまう。

 それだと困るから、免状が必要な訳だ。

 それは、我がオロアルマダ帝国が危機に陥った時、その盾となって防衛しなければならないことを意味している。

 私としてはそうすれば、我が海兵を失う危険を可能な限り回避できる上に、奴等は収益の一部を国庫に納めてくれる一挙両得の上策だと自負しておる。

 奴等は、我がオロアルマダ帝国に収益の一部を納めることと、我が帝国を防衛しなければならないという2つの義務を負っているのだ。

 いずれは、海兵も優秀な少数精鋭に編成できるだろう。

 そうなれば、海兵に支払う報酬も削減できる。

 国家経営、政治とはそういうものなのだーー。

 コーサは怒髪天を衝く勢いで語を叩きつけていく。

「俺はそこまで黙って聞いて、金貨の計算に聡いだけでその地位にいるような奴の話を聞くことが堪えられくなった。

 奴の顔面を俺が思い切りブン殴ってやったから、奴は泡を吹き血を流し失神しちまったんだよ。

 それを義父おやじに奉告してから、他国に亡命しようと覚悟した。

 だが義父は『俺から息子を奪わせはしないと、オレを匿ってくれたんだ』

 血が繋がっていなくとも、強くゆるぎない絆を持つ、ファルカンとコーサの関係が、オレは羨ましく思う。

 オレには血が繋がっている父とも、繋がっていない義母とも、絆はない……。

「そんなこともあったな」悲し気な苦笑いを浮かべるファルカン。

「コーサの事件は、俺の迷いを断ち切るきっかけになった。

 オレは気の置けない仲間達に、国の免状無しで海賊になる決意を伝えた。

 嬉しいことに、殆どの者が同意してくれて、改めて仲間になってくれたんだよ。

 俺達は艦の引き渡しを拒否し、逆に俺達と共にいつも一緒に闘ってくれた、その精鋭艦を奪い、海賊として旗揚げしたって訳だ。

 俺は仲間達全員に感謝している」

 ファルカンは仲間を誇った。

 俺は、さすがオロアルマダ帝国の海軍提督を務めた男だと認める。

 仲間たちはファルカンという男に惚れこんでいるんだろうな。

 そういう男は強い。

 その仲間たちも、いざ戦闘になったら、皆が一発の砲撃の如く、命懸けで突撃してくるに違いない。

 そんなことを思いながら、オレは頭の中で疑問符を浮かべ首を傾げた。

 聖エレミエル号を襲った船は、典型的な商船でどう見ても軍艦ではない。

 そんなオレにコーサが、話を付加した。

「今、その精鋭艦は俺達の一番艦だ。

 ヌーノとフォーナが達が、俺達の根城で他の仲間達と共に守っている」

「そっか」オレはニコッと笑った。

 そういうことなら、あの船は遠慮なく頂くことにしよう、

 が、笑っている場合じゃないな。

「キラを海帝にという話の背景は分かった。

 お前の追う海軍賊が、どこかの国の免状を取得している以上、単独で闘って斃すのは少々難しい。

 そいつらには、免状を発行した国の海軍や、他の海軍賊と連携が取れるから。

 でも他国の海軍とは組めない。

 それができるなら、オロアルマダ帝国で海軍賊になればよかったって話。

 だから、他の海賊しかいない。

 そこで、この近海で今最も勢力のある海帝と組もうと考えた。

 ところが、今まで敵同士で、然もお前達は海帝艦隊に敗れず生き残っている。

 それが、海帝の怒りを買っているのは火を見るより明らかだから、相応の手土産が必要だという結論に至ったってとこか。

 誇りを失っていた訳じゃなかったんだな。

 生意気なことを言って、ごめんなさい」

 オレは素直に頭を下げて謝罪した。

 ファルカンは「まぁ、そんなとこだ」そう言って手を振り「それより、よせ。頭を下げる必要なんかない。

 俺達は海賊だぜ? そうだろう?」

「うん。有難う」

 オレは、凛々とした眼光を放つ。

「ファルカンやコーサの気持ちや思いを、オレが理解出きるなんてことは、軽々しく言っちゃいけないことだと思う」

 あまりにもそれは尊く、熱く、重く、深く、その痛みも、苦しみも、寂しさも、二人の温もりのある心と、優しい魂が感じているものだから。

「同情なんていらねぇよ。同情される度に、心の中で後悔を繰り返しちまうからな。

 まだ俺は、女房にも娘にも、別れの言葉は告げてない。

 言えねぇんだよ。

 奴等を皆殺しにするまではな」

 ファルカンは、セリフを棒読みにしているのかとオレが感じる程、淡々と口から音声を出す。

 然しそれ故、その胸中で持って行く場もない猛る憤怒の念を、多いに物語っている。

 オレは「悪いけど、オレは罪の無い人間を拉致する非道を平気でやる海帝とは組めない。

 ファルカン、お前がキラを引き渡すことに関しては、本意ではない、と言った言葉に嘘はない」ファルカンに翻意して欲しいと願って問う。

「キラを海帝に際出すことを、お前の奥さんや娘さんは、自分達の敵討ちの為にそうして欲しいと、望んだりするような人達なのか?

 そうじゃないだろ?」

 ファルカンは沈黙している。

 けれどもその溶顔が、自分の心魂と同調していると、オレは感じた。

「確かに過去海帝と闘りあって、1度も負けてない訳だから、大歓迎はされないかもしれない。

 けど、オレが海帝の立場なら、強力な味方が増えて、強敵が減ったことを喜ぶよ?

 海帝には、その程度の度量もないのか?

 そもそも人を拉致すような奴だから、会ってみなきゃわかんないってことか。

 それにお前達に、深い恨みを持ってる奴等もいるだろうから、難しい問題だな。

 他に何か、名案は無いのかなー……?」

 ★★★オレは考えあぐむ。

 オレは、世界の闇に吞み込まれているファルカン達との戦闘を、本音としては回避したい。

 だからこそ、キラやナーヌス親子を海帝に引き渡すことなく、ファルカンと海帝が手を組むことができないかを、俺自身の問題として捉え考え続けている。

 だがファルカンは「俺達は奴等の天敵だったし、おまけにお互いの仲間の命を、いくつも奪い合っているんだぜ。

 ことはそう簡単な話じゃないんだぞ」と断定した。

「でも、」と諦めない俺を遮って、

「俺達はもう後には引けねぇんだっ!」

 オロアルマダ帝国海軍の元海軍将校は、もうそれ以上何も言うなとばかりに強い語気を発した。

 オレも、もはやここまでと、臍を固める。

「乗客と乗組員は、船内に退避してもらった。

 不可避の闘いなら、あとは黙して互いの信じる義をぶつけ合えばいい」

 これから起きる闘いが、どちらに義があるのかなんて、誰にも決められないことだだから。

 きっと、それはそれは神にしか裁断できないと、オレは思う。

 でも俺は、不義の道を選択してない。

「ほぅ、妙なことがあるもんだ。

 俺はそもそも乗客や乗組員には、危害は加えねぇと言った筈だ。

 寧ろ、お前と闘り易くなったってことだ」

 顔色は全く変えず、面倒くさそうにファルカンが顎を上げると、海賊達が銃を構え、弩に矢を番えた闘気が、ありありと伝わってきた。

 朦朧とした白い霧の中に殺気が漲り嗅ぎなれた闘いの臭いがプンプンしている。

「俺達と闘りあうのは本気なんだろうが、どうやって、俺達の弾丸と矢から逃げ切るつもりなんだ?え?」

 ファルカンは『無理だろ、そんなもの』と、貌に書いているが……。

読んで頂きありがとうございます。


駄作ですが、批評も含め、ご感想を頂けると喜びます。


これからの物語も是非読んで頂けますように・・・。 m(_ _)m

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